上 下
14 / 40

第十四話

しおりを挟む
 わたしが困惑しているうちに、ラヴィリオ皇子殿下は、軽い調子で言うのだ。
 
「それでは、挨拶も済んだことなので、失礼しますね」

「わかった。姫も長旅で疲れただろう。よく休むように」

「大丈夫。俺が付いてるから」

「いやいや、お前の所為で姫が途轍もなく疲れているように感じるのだが……」

「そんなことないですよ。だよね?」

「えっ? あの?」

「大丈夫だって。という訳で失礼いたしますね」


 ちゃんとご挨拶出来ていないうちに、ラヴィリオ皇子殿下に連れられて謁見の間らしき場所から、最初に通された部屋に戻ってきたけど……。
 謁見の間らしき場所から出るときに聞こえた皇帝陛下と皇妃陛下の大きなため息にわたしは、申し訳なさでいっぱいだった。
 よく考えたら大切な皇子殿下のお相手が、小国のしかも美しくもないうえに、何の取り柄も、知識もないこんなわたしがなるなんて、納得がいっていないことでしょう。
 なんとお詫びすればいいのか……。
 そんな事をぼんやりと考えていたわたしは、何やら甘い匂いに首を傾げる。
 
「ティアリア、お疲れ様。ささっ、お茶とお菓子を用意したから一休みしようね」

 そう言うラヴィリオ皇子殿下には悪いのだけど、わたしなんかにお茶やお菓子なんて高級品はもったいないわ。
 少量のお水さえあれば大丈夫なのに……。
 
「あの……」

 どう断ればいいのかと悩んでいると、ラヴィリオ皇子殿下が楽し気に言うのだ。
 
「今日のお茶は、フルーツをベースにブレンドしてあるから、すごく飲みやすいと思うよ。それと、ショートケーキはイチゴを沢山使ったからとっても美味しくできていると思うんだ」

「あっ、いえ……」

「さあさあ、どうぞ遠慮なんてしないで?」

 何故か必死さを感じさせるラヴィリオ皇子殿下の声を聴いてしまったわたしは、断ることも出来ないでただその身を硬くさせていた。
 
「ほら、あーん」

 そんなラヴィリオ皇子殿下の言葉にわたしはさらに硬直する。
 だけど、ラヴィリオ皇子殿下は、楽しそうにわたしに言うのだ。

「大丈夫。毒なんて入ってないから。このケーキは今日作ったばかりで、絶対に美味しくできているから。だから、安心して口を開けて欲しいな?」

「…………」

「お願い? ちょっとだけ、先っちょだけだから」

 必死に懇願するように言われて、無下にすることも出来ないわたしは諦めてほんの少しだけベールを捲り上げて口を開けた。
 
 ラヴィリオ皇子殿下は何故か、ゴクリと唾を飲んだ後にそっとわたしの口に何かを運んだ。
 
 甘い……。物凄く甘くて、柔らかくて、甘かった……。
 あまりの甘さに、歯が溶けてしまうのではないかと思ったけど、わたしはピンと来てしまった。
 ラヴィリオ皇子殿下は、このケーキがすごく食べたいのにわたしに気を使って、先に食べさせてくれたのだと、そう気づいてしまったのだ。
 口元を手で押さえて、何とか甘い何かを咀嚼し飲み込んだわたしは、これ以上この甘いものを食べないでいい方法にたどり着く。
 視界を確保するために広げていた魔力を周囲に集めて意識を集中させる。
 神経を研ぎ澄ませた感覚の中で、ラヴィリオ皇子殿下の左手にあるお皿と右手に持つフォークの存在を探知したわたしは、急いで行動を起こしていた。
 ゆっくりと手を伸ばして、ラヴィリオ皇子殿下の右手に握られてフォークを奪い取るために、彼の手を両手で握ってそれらしいことを口にする。
 
「えっと、ごちそうさまでした。今度はわたしにさせてください」

 わたしがそう言うのと同時位に、ラヴィリオ皇子殿下の右手が緩んだのでフォークを奪い去ることに成功した。
 そして、神経を集中させて、お皿の上にある四角っぽい形の何かにフォークを刺す。
 フォークを刺してみて不安になった。
 その柔らかさと軽さに、さっき口に入れた甘いものがきちんとフォークの上に乗っているのか、心配になったけど、魔力を集中させると、確かにフォークの先に何かが乗っているのを感じた。
 わたしは、フォークの先にある甘いものを落とさないようにと、必死な思いでラヴィリオ皇子殿下に言われた言葉を真似ていた。
 
「あーんしてください」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

安らかにお眠りください

くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。 ※突然残酷な描写が入ります。 ※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。 ※小説家になろう様へも投稿しています。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

嫌われ貧乏令嬢と冷酷将軍

バナナマヨネーズ
恋愛
貧乏男爵令嬢のリリル・クロケットは、貴族たちから忌み嫌われていた。しかし、父と兄に心から大切にされていたことで、それを苦に思うことはなかった。そんなある日、隣国との戦争を勝利で収めた祝いの宴で事件は起こった。軍を率いて王国を勝利に導いた将軍、フェデュイ・シュタット侯爵がリリルの身を褒美として求めてきたのだ。これは、勘違いに勘違いを重ねてしまうリリルが、恋を知り愛に気が付き、幸せになるまでの物語。 全11話

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

処理中です...