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第十四話

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 わたしが困惑しているうちに、ラヴィリオ皇子殿下は、軽い調子で言うのだ。
 
「それでは、挨拶も済んだことなので、失礼しますね」

「わかった。姫も長旅で疲れただろう。よく休むように」

「大丈夫。俺が付いてるから」

「いやいや、お前の所為で姫が途轍もなく疲れているように感じるのだが……」

「そんなことないですよ。だよね?」

「えっ? あの?」

「大丈夫だって。という訳で失礼いたしますね」


 ちゃんとご挨拶出来ていないうちに、ラヴィリオ皇子殿下に連れられて謁見の間らしき場所から、最初に通された部屋に戻ってきたけど……。
 謁見の間らしき場所から出るときに聞こえた皇帝陛下と皇妃陛下の大きなため息にわたしは、申し訳なさでいっぱいだった。
 よく考えたら大切な皇子殿下のお相手が、小国のしかも美しくもないうえに、何の取り柄も、知識もないこんなわたしがなるなんて、納得がいっていないことでしょう。
 なんとお詫びすればいいのか……。
 そんな事をぼんやりと考えていたわたしは、何やら甘い匂いに首を傾げる。
 
「ティアリア、お疲れ様。ささっ、お茶とお菓子を用意したから一休みしようね」

 そう言うラヴィリオ皇子殿下には悪いのだけど、わたしなんかにお茶やお菓子なんて高級品はもったいないわ。
 少量のお水さえあれば大丈夫なのに……。
 
「あの……」

 どう断ればいいのかと悩んでいると、ラヴィリオ皇子殿下が楽し気に言うのだ。
 
「今日のお茶は、フルーツをベースにブレンドしてあるから、すごく飲みやすいと思うよ。それと、ショートケーキはイチゴを沢山使ったからとっても美味しくできていると思うんだ」

「あっ、いえ……」

「さあさあ、どうぞ遠慮なんてしないで?」

 何故か必死さを感じさせるラヴィリオ皇子殿下の声を聴いてしまったわたしは、断ることも出来ないでただその身を硬くさせていた。
 
「ほら、あーん」

 そんなラヴィリオ皇子殿下の言葉にわたしはさらに硬直する。
 だけど、ラヴィリオ皇子殿下は、楽しそうにわたしに言うのだ。

「大丈夫。毒なんて入ってないから。このケーキは今日作ったばかりで、絶対に美味しくできているから。だから、安心して口を開けて欲しいな?」

「…………」

「お願い? ちょっとだけ、先っちょだけだから」

 必死に懇願するように言われて、無下にすることも出来ないわたしは諦めてほんの少しだけベールを捲り上げて口を開けた。
 
 ラヴィリオ皇子殿下は何故か、ゴクリと唾を飲んだ後にそっとわたしの口に何かを運んだ。
 
 甘い……。物凄く甘くて、柔らかくて、甘かった……。
 あまりの甘さに、歯が溶けてしまうのではないかと思ったけど、わたしはピンと来てしまった。
 ラヴィリオ皇子殿下は、このケーキがすごく食べたいのにわたしに気を使って、先に食べさせてくれたのだと、そう気づいてしまったのだ。
 口元を手で押さえて、何とか甘い何かを咀嚼し飲み込んだわたしは、これ以上この甘いものを食べないでいい方法にたどり着く。
 視界を確保するために広げていた魔力を周囲に集めて意識を集中させる。
 神経を研ぎ澄ませた感覚の中で、ラヴィリオ皇子殿下の左手にあるお皿と右手に持つフォークの存在を探知したわたしは、急いで行動を起こしていた。
 ゆっくりと手を伸ばして、ラヴィリオ皇子殿下の右手に握られてフォークを奪い取るために、彼の手を両手で握ってそれらしいことを口にする。
 
「えっと、ごちそうさまでした。今度はわたしにさせてください」

 わたしがそう言うのと同時位に、ラヴィリオ皇子殿下の右手が緩んだのでフォークを奪い去ることに成功した。
 そして、神経を集中させて、お皿の上にある四角っぽい形の何かにフォークを刺す。
 フォークを刺してみて不安になった。
 その柔らかさと軽さに、さっき口に入れた甘いものがきちんとフォークの上に乗っているのか、心配になったけど、魔力を集中させると、確かにフォークの先に何かが乗っているのを感じた。
 わたしは、フォークの先にある甘いものを落とさないようにと、必死な思いでラヴィリオ皇子殿下に言われた言葉を真似ていた。
 
「あーんしてください」

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