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第十二話

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 ラヴィリオ皇子殿下に耳を塞がれていたわたしには、何があったのか分からなかった。
 だけど、ラヴィリオ皇子殿下は、どこまでも優しい人だった。
 
「ごめんね。でも、母上とちょっとだけお話が必要だったんだ」

「はい。わたしは大丈夫です」

「ありがとう。それじゃ、改めて父上と母上を紹介するから」

 そう言われたわたしは、ラヴィリオ皇子殿下に手を引かれて、皇帝陛下と皇妃の前までゆっくりと進む。
 ラヴィリオ皇子殿下が立ち止まったのだけど、礼儀作法など全く分からないわたしは、どうしたら正解なのか分からなかった。
 だから、ディスポーラ王国にいた時、国王陛下に謁見するときと同じように両膝をつこうとしたけど、ラヴィリオ皇子殿下によってそれは止められてしまった。
 
「ティアリア、大丈夫だよ。片足を後ろに引いて、膝る折るくらいで大丈夫だから」

 そう言われたわたしだけど、片足を後ろに引いて、膝を折るという動作がピンと来なくて、ぎくしゃくとした動きで、ラヴィリオ皇子殿下に言われた仕草をしようとしたけど、多分全然駄目だったと思う。
 隣にいるラヴィリオ皇子殿下は、何も言わないでくれたけど、周囲の空気が凍り付いたかのように冷たく感じた。
 わたしに優しくしてくれたラヴィリオ皇子殿下に恥をかかせてしまったのだと自覚したけれど、もうどうすることも出来ない。
 ガチガチに緊張しているわたしの背中をラヴィリオ皇子殿下が優しく触れた後、言ったのだ。
 
「父上、母上。この子がティアリア・ディスポーラ王女殿下です。俺の花嫁になるため、今日到着しました」

 そう言ったラヴィリオ皇子殿下は、わたしの背中をポンと軽く叩く。
 ラヴィリオ皇子殿下の意図をなんとなく察せられたわたしは、声を震わせながらも挨拶の言葉を口にすることができた。
 
「りょ、両陛下にご挨拶いたします。わたしは、ディスポーラ王国国王の娘、ティアリアでございましゅ…………」

 噛んだ……。最後の最後に噛んでしまった。
 
「ふふ。可愛い」

 自分の不甲斐なさに落ち込んでいると、隣にいるラヴィリオ皇子殿下が小さく呟いたけど、それどころではないわたしには全くその言葉が頭に入って来なかった。
 
「父上、母上。ということで、ティアリアとの式は一か月後に挙げようと思います」

 いっ、一か月後に結婚式? でも、わたしはただの人質なのに式を挙げるの?
 
「一か月後? 準備期間が短すぎるのではなくて?」

「問題ありません。すでに大半の準備は終えています。あとは、ティアリアのドレスの直しくらいです。何なら、明後日にでも挙げられますが、恋人期間を挟むことで、俺のことを彼女に好きになってもらう算段なので異議は受け付けられません」

「あらそうなの? だったら、恋人期間をもっと長くとってもよろしいのではないのかしら?」

「それも考えたのですが、早く結婚して、俺だけのティアリアになってほしい気持ちを抑えられなかったので」

「あらあら。まあいいわ。ところで……。ディスポーラ王国に婚前にベールをする風習なんてあったかしら?」

 皇妃陛下の言葉に、わたしはドキリとしてしまった。
 自国にいた時は、醜いわたしの顔なんて誰も見たくないことは当然のことだったので、ベールについて追及されることなんて頭になかった。
 だけど、本来これはとても無礼なことなのだ。
 素顔を晒すのも無礼だと思うけど、このままなのも無礼なことで、どちらに転んでも無礼なことで、わたしはどうしたらいいのか分からない。
 そんなわたしを助けてくれたのはラヴィリオ皇子殿下だった。
 突然体を拘束されたわたしは、心臓が口から飛び出してしまいそうだった。
 
「駄目ですよ。可愛いティアリアのすべては俺だけのものです。誰にも見せられません」

 そう言ったラヴィリオ皇子殿下は、さらに強くわたしを拘束した……。
 ん? これは拘束ではなくて……、だ、だだ抱きしめられているの?!
 だいぶ遅れて、今のわたしが背後からラヴィリオ皇子殿下に抱きしめられていることに気が付いたとたん、恥ずかしさが爆発していた。
 
「だ、駄目です……。両陛下の前でこんな……」

「えぇ~。俺は、いつだってティアリアをこうしていたいよ?」

「んなぁっ……、なんてことを口にするんですか」

「ふふ。これは、本心だよ。もっとぎゅ~~~~ってしてくっ付いていたいよ」

「と…とにかく、駄目です!」

「え~~。それじゃ、二人きりになったらもっとぎゅ~ってするから覚悟してね?」

「んなぁっ?!」

「ふふふ」


「あああ……、ゴホン。ゲフンゲフン。あーあー」

 ラヴィリオ皇子殿下とのやり取りがなかなか終わらないため、誰かが大きな咳ばらいをする声が周囲に響いた。
 声のした方向からするに、恐らく皇帝陛下のものだろう。
 う~、どうしよう。怒らせてしまったかもしれない……。
 ここは、素直に謝って……。あれ?
 
「ゴホン!! あー、ラヴィリオよ。お前のティアリア姫に対する気持ちは十分に伝わった。だから、それ位に頼む。お前の本気は十分に伝わったから」

「はい。分かりました。続きは部屋に戻ったらにします」

「……。ティアリア姫、うちの息子が本当にすまない」

「とっとんでもないことでございます!!」

 まさか、皇帝陛下の口から謝罪の言葉が出るなんて思っていなかったわたしは、声を裏返らせながら答えていた。

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