13 / 40
第十二話
しおりを挟む
ラヴィリオ皇子殿下に耳を塞がれていたわたしには、何があったのか分からなかった。
だけど、ラヴィリオ皇子殿下は、どこまでも優しい人だった。
「ごめんね。でも、母上とちょっとだけお話が必要だったんだ」
「はい。わたしは大丈夫です」
「ありがとう。それじゃ、改めて父上と母上を紹介するから」
そう言われたわたしは、ラヴィリオ皇子殿下に手を引かれて、皇帝陛下と皇妃の前までゆっくりと進む。
ラヴィリオ皇子殿下が立ち止まったのだけど、礼儀作法など全く分からないわたしは、どうしたら正解なのか分からなかった。
だから、ディスポーラ王国にいた時、国王陛下に謁見するときと同じように両膝をつこうとしたけど、ラヴィリオ皇子殿下によってそれは止められてしまった。
「ティアリア、大丈夫だよ。片足を後ろに引いて、膝る折るくらいで大丈夫だから」
そう言われたわたしだけど、片足を後ろに引いて、膝を折るという動作がピンと来なくて、ぎくしゃくとした動きで、ラヴィリオ皇子殿下に言われた仕草をしようとしたけど、多分全然駄目だったと思う。
隣にいるラヴィリオ皇子殿下は、何も言わないでくれたけど、周囲の空気が凍り付いたかのように冷たく感じた。
わたしに優しくしてくれたラヴィリオ皇子殿下に恥をかかせてしまったのだと自覚したけれど、もうどうすることも出来ない。
ガチガチに緊張しているわたしの背中をラヴィリオ皇子殿下が優しく触れた後、言ったのだ。
「父上、母上。この子がティアリア・ディスポーラ王女殿下です。俺の花嫁になるため、今日到着しました」
そう言ったラヴィリオ皇子殿下は、わたしの背中をポンと軽く叩く。
ラヴィリオ皇子殿下の意図をなんとなく察せられたわたしは、声を震わせながらも挨拶の言葉を口にすることができた。
「りょ、両陛下にご挨拶いたします。わたしは、ディスポーラ王国国王の娘、ティアリアでございましゅ…………」
噛んだ……。最後の最後に噛んでしまった。
「ふふ。可愛い」
自分の不甲斐なさに落ち込んでいると、隣にいるラヴィリオ皇子殿下が小さく呟いたけど、それどころではないわたしには全くその言葉が頭に入って来なかった。
「父上、母上。ということで、ティアリアとの式は一か月後に挙げようと思います」
いっ、一か月後に結婚式? でも、わたしはただの人質なのに式を挙げるの?
「一か月後? 準備期間が短すぎるのではなくて?」
「問題ありません。すでに大半の準備は終えています。あとは、ティアリアのドレスの直しくらいです。何なら、明後日にでも挙げられますが、恋人期間を挟むことで、俺のことを彼女に好きになってもらう算段なので異議は受け付けられません」
「あらそうなの? だったら、恋人期間をもっと長くとってもよろしいのではないのかしら?」
「それも考えたのですが、早く結婚して、俺だけのティアリアになってほしい気持ちを抑えられなかったので」
「あらあら。まあいいわ。ところで……。ディスポーラ王国に婚前にベールをする風習なんてあったかしら?」
皇妃陛下の言葉に、わたしはドキリとしてしまった。
自国にいた時は、醜いわたしの顔なんて誰も見たくないことは当然のことだったので、ベールについて追及されることなんて頭になかった。
だけど、本来これはとても無礼なことなのだ。
素顔を晒すのも無礼だと思うけど、このままなのも無礼なことで、どちらに転んでも無礼なことで、わたしはどうしたらいいのか分からない。
そんなわたしを助けてくれたのはラヴィリオ皇子殿下だった。
突然体を拘束されたわたしは、心臓が口から飛び出してしまいそうだった。
「駄目ですよ。可愛いティアリアのすべては俺だけのものです。誰にも見せられません」
そう言ったラヴィリオ皇子殿下は、さらに強くわたしを拘束した……。
ん? これは拘束ではなくて……、だ、だだ抱きしめられているの?!
だいぶ遅れて、今のわたしが背後からラヴィリオ皇子殿下に抱きしめられていることに気が付いたとたん、恥ずかしさが爆発していた。
「だ、駄目です……。両陛下の前でこんな……」
「えぇ~。俺は、いつだってティアリアをこうしていたいよ?」
「んなぁっ……、なんてことを口にするんですか」
「ふふ。これは、本心だよ。もっとぎゅ~~~~ってしてくっ付いていたいよ」
「と…とにかく、駄目です!」
「え~~。それじゃ、二人きりになったらもっとぎゅ~ってするから覚悟してね?」
「んなぁっ?!」
「ふふふ」
「あああ……、ゴホン。ゲフンゲフン。あーあー」
ラヴィリオ皇子殿下とのやり取りがなかなか終わらないため、誰かが大きな咳ばらいをする声が周囲に響いた。
声のした方向からするに、恐らく皇帝陛下のものだろう。
う~、どうしよう。怒らせてしまったかもしれない……。
ここは、素直に謝って……。あれ?
「ゴホン!! あー、ラヴィリオよ。お前のティアリア姫に対する気持ちは十分に伝わった。だから、それ位に頼む。お前の本気は十分に伝わったから」
「はい。分かりました。続きは部屋に戻ったらにします」
「……。ティアリア姫、うちの息子が本当にすまない」
「とっとんでもないことでございます!!」
まさか、皇帝陛下の口から謝罪の言葉が出るなんて思っていなかったわたしは、声を裏返らせながら答えていた。
だけど、ラヴィリオ皇子殿下は、どこまでも優しい人だった。
「ごめんね。でも、母上とちょっとだけお話が必要だったんだ」
「はい。わたしは大丈夫です」
「ありがとう。それじゃ、改めて父上と母上を紹介するから」
そう言われたわたしは、ラヴィリオ皇子殿下に手を引かれて、皇帝陛下と皇妃の前までゆっくりと進む。
ラヴィリオ皇子殿下が立ち止まったのだけど、礼儀作法など全く分からないわたしは、どうしたら正解なのか分からなかった。
だから、ディスポーラ王国にいた時、国王陛下に謁見するときと同じように両膝をつこうとしたけど、ラヴィリオ皇子殿下によってそれは止められてしまった。
「ティアリア、大丈夫だよ。片足を後ろに引いて、膝る折るくらいで大丈夫だから」
そう言われたわたしだけど、片足を後ろに引いて、膝を折るという動作がピンと来なくて、ぎくしゃくとした動きで、ラヴィリオ皇子殿下に言われた仕草をしようとしたけど、多分全然駄目だったと思う。
隣にいるラヴィリオ皇子殿下は、何も言わないでくれたけど、周囲の空気が凍り付いたかのように冷たく感じた。
わたしに優しくしてくれたラヴィリオ皇子殿下に恥をかかせてしまったのだと自覚したけれど、もうどうすることも出来ない。
ガチガチに緊張しているわたしの背中をラヴィリオ皇子殿下が優しく触れた後、言ったのだ。
「父上、母上。この子がティアリア・ディスポーラ王女殿下です。俺の花嫁になるため、今日到着しました」
そう言ったラヴィリオ皇子殿下は、わたしの背中をポンと軽く叩く。
ラヴィリオ皇子殿下の意図をなんとなく察せられたわたしは、声を震わせながらも挨拶の言葉を口にすることができた。
「りょ、両陛下にご挨拶いたします。わたしは、ディスポーラ王国国王の娘、ティアリアでございましゅ…………」
噛んだ……。最後の最後に噛んでしまった。
「ふふ。可愛い」
自分の不甲斐なさに落ち込んでいると、隣にいるラヴィリオ皇子殿下が小さく呟いたけど、それどころではないわたしには全くその言葉が頭に入って来なかった。
「父上、母上。ということで、ティアリアとの式は一か月後に挙げようと思います」
いっ、一か月後に結婚式? でも、わたしはただの人質なのに式を挙げるの?
「一か月後? 準備期間が短すぎるのではなくて?」
「問題ありません。すでに大半の準備は終えています。あとは、ティアリアのドレスの直しくらいです。何なら、明後日にでも挙げられますが、恋人期間を挟むことで、俺のことを彼女に好きになってもらう算段なので異議は受け付けられません」
「あらそうなの? だったら、恋人期間をもっと長くとってもよろしいのではないのかしら?」
「それも考えたのですが、早く結婚して、俺だけのティアリアになってほしい気持ちを抑えられなかったので」
「あらあら。まあいいわ。ところで……。ディスポーラ王国に婚前にベールをする風習なんてあったかしら?」
皇妃陛下の言葉に、わたしはドキリとしてしまった。
自国にいた時は、醜いわたしの顔なんて誰も見たくないことは当然のことだったので、ベールについて追及されることなんて頭になかった。
だけど、本来これはとても無礼なことなのだ。
素顔を晒すのも無礼だと思うけど、このままなのも無礼なことで、どちらに転んでも無礼なことで、わたしはどうしたらいいのか分からない。
そんなわたしを助けてくれたのはラヴィリオ皇子殿下だった。
突然体を拘束されたわたしは、心臓が口から飛び出してしまいそうだった。
「駄目ですよ。可愛いティアリアのすべては俺だけのものです。誰にも見せられません」
そう言ったラヴィリオ皇子殿下は、さらに強くわたしを拘束した……。
ん? これは拘束ではなくて……、だ、だだ抱きしめられているの?!
だいぶ遅れて、今のわたしが背後からラヴィリオ皇子殿下に抱きしめられていることに気が付いたとたん、恥ずかしさが爆発していた。
「だ、駄目です……。両陛下の前でこんな……」
「えぇ~。俺は、いつだってティアリアをこうしていたいよ?」
「んなぁっ……、なんてことを口にするんですか」
「ふふ。これは、本心だよ。もっとぎゅ~~~~ってしてくっ付いていたいよ」
「と…とにかく、駄目です!」
「え~~。それじゃ、二人きりになったらもっとぎゅ~ってするから覚悟してね?」
「んなぁっ?!」
「ふふふ」
「あああ……、ゴホン。ゲフンゲフン。あーあー」
ラヴィリオ皇子殿下とのやり取りがなかなか終わらないため、誰かが大きな咳ばらいをする声が周囲に響いた。
声のした方向からするに、恐らく皇帝陛下のものだろう。
う~、どうしよう。怒らせてしまったかもしれない……。
ここは、素直に謝って……。あれ?
「ゴホン!! あー、ラヴィリオよ。お前のティアリア姫に対する気持ちは十分に伝わった。だから、それ位に頼む。お前の本気は十分に伝わったから」
「はい。分かりました。続きは部屋に戻ったらにします」
「……。ティアリア姫、うちの息子が本当にすまない」
「とっとんでもないことでございます!!」
まさか、皇帝陛下の口から謝罪の言葉が出るなんて思っていなかったわたしは、声を裏返らせながら答えていた。
10
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる