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第十二話
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ベールを元の通り直し終えたわたしは、ラヴィリオ皇子殿下に声を掛ける。
「ありがとうございます。もう、顔を上げていただいても大丈夫です」
わたしがそう言うと、ラヴィリオ皇子殿下がゆっくりと顔を上げた。
だけど、何も言わずにいるラヴィリオ皇子殿下が不思議でわたしが首を傾げていると、彼が柔らかい声で言うのだ。
「うん。ティアリア。改めて言うけど、ありがとう。君が俺の花嫁になってくれるのを了承してくれてとても嬉しいよ。必ず君を世界一幸せな花嫁にするね。だから、ティアリアは、俺にうんと甘えてね。俺、ティアリアをうんと甘やかして、俺なしではいられないようになってもらえるくらい、すっごく、ものすっごく大切にするから」
どうしてラヴィリオ皇子殿下は、ここまでわたしを大切思ってくるれるのか不思議でならない。
ただの人質に対して……。
あっ、これはわたしから何か聞き出したい情報があるのかも。
でも、無知で無能なわたしにラヴィリオ皇子殿下に差し出せる情報など何一つない。これは断言できる。
王族に生まれたけど、何の教育もされていないわたしが知っていることなど何もないだのから。
わたしがそんなことを考えていると、ラヴィリオ皇子殿下がふわりとした雰囲気で言うのだ。
「ティアリア、難しく考えなくていいよ。俺は、君が傍に居てくれるだけで幸せなんだ。だから、この幸せを大切な君にも分けたいだけなんだ。わかっているよ。少しづつ俺のこと知っていってくれればいいから。それで、できれば俺のことを好きになってくれれば凄く嬉しい」
「善処します……」
「ありがとう。でも、頑張らなくていいから、ここでは好きに過ごしていいから」
「……はい」
好きに過ごす……。それはとても難しいことだ。
人質のわたしがどうやって好きに生きろというのだろう。
でも、ラヴィリオ皇子殿下は嘘を言っているようには感じないから、本当にそう思ってくれているのだろう。
でも、ラヴィリオ皇子殿下以外の人はどう思うのだろうか。
人質を甘やかして、彼の評判は落ちないのだろうか?
わたしがそんなことを考えていると、ラヴィリオ皇子殿下に手を引かれた。
「それじゃ、父上に挨拶に行こうか?」
「っ!!」
「大丈夫だよ。父上は、権力を持ってるだけで、ただの中年のおじさんだから。怖い人じゃないから安心して」
「………………」
その権力が問題なのに、ラヴィリオ皇子殿下は軽い調子で中年のおじさんだなんて……。
「大丈夫。俺が付いているから」
「はい……」
ガチガチに緊張しているわたしの手を引いたラヴィリオ皇子殿下に連れられて行った先は、とても広い空間だった。
恐らく、謁見の間的な場所なのだろう。
空間一番奥に人の気配が二つ。
皇帝陛下と皇妃陛下のお二人だろう。
お二人の放つ、オーラとでも言うのか、高貴な気配にわたしは足がすくんで逃げ出したくて仕方なかった。
そんなわたしの怯えに気が付いてくれたラヴィリオ皇子殿下が、途中で足を止めてわたしを励ましてくれたのはいいのだけれど……。
「大丈夫だよ。ティアリア。あそこにいるのは、俺の父上と母上だ。父上なんて、母上の尻に敷かれているただ権力のある中年のおじさんで、母上なんてただのロリバ―――っいった!!!」
ガチッ!!!!
ろりば? という単語をラヴィリオ皇子殿下が口にしたとたん、鈍くて低い音が頭上の方から聞こえた。
事態が把握できないわたしがオロオロしていると、ラヴィリオ皇子殿下がしゃがんで何かを拾った後にわたしの耳を塞いだのだ。
「おい! ロリババァ!! 俺を殺す気か! 息子の頭に鉄扇を投げつける母親がどの世界にいるんだ」
「おほほほ! あら嫌だわ。自分を生んでくれたお母様に向かって、なんて汚い口を利くのかしら? わたくしは、そんな子に育てた覚えはなくってよ?」
「俺だって、母上にまともに育てられた覚えはない! 母上にオモチャにされた覚えなら数えきれないくらいあるのだがな!」
「まあ? なんてことを言うのこの親不孝者が!」
「それはこっちのセリフだ。自分の胸に手を当てて思い出せ。俺の幼少期に地獄を与えた悪女が!」
「まぁ、何のことかしら? お前の幼少期? 可愛がった思いでしかないわ」
「その可愛がりが問題だと何故分からない」
「おほほほほ!!」
「あはははは!!」
「えっと、二人とも……。喧嘩はそこまでにしなさい。はぁ……。それよりも、ラヴィリオ。ティアリア姫が困惑しているのではないかな?」
「ありがとうございます。もう、顔を上げていただいても大丈夫です」
わたしがそう言うと、ラヴィリオ皇子殿下がゆっくりと顔を上げた。
だけど、何も言わずにいるラヴィリオ皇子殿下が不思議でわたしが首を傾げていると、彼が柔らかい声で言うのだ。
「うん。ティアリア。改めて言うけど、ありがとう。君が俺の花嫁になってくれるのを了承してくれてとても嬉しいよ。必ず君を世界一幸せな花嫁にするね。だから、ティアリアは、俺にうんと甘えてね。俺、ティアリアをうんと甘やかして、俺なしではいられないようになってもらえるくらい、すっごく、ものすっごく大切にするから」
どうしてラヴィリオ皇子殿下は、ここまでわたしを大切思ってくるれるのか不思議でならない。
ただの人質に対して……。
あっ、これはわたしから何か聞き出したい情報があるのかも。
でも、無知で無能なわたしにラヴィリオ皇子殿下に差し出せる情報など何一つない。これは断言できる。
王族に生まれたけど、何の教育もされていないわたしが知っていることなど何もないだのから。
わたしがそんなことを考えていると、ラヴィリオ皇子殿下がふわりとした雰囲気で言うのだ。
「ティアリア、難しく考えなくていいよ。俺は、君が傍に居てくれるだけで幸せなんだ。だから、この幸せを大切な君にも分けたいだけなんだ。わかっているよ。少しづつ俺のこと知っていってくれればいいから。それで、できれば俺のことを好きになってくれれば凄く嬉しい」
「善処します……」
「ありがとう。でも、頑張らなくていいから、ここでは好きに過ごしていいから」
「……はい」
好きに過ごす……。それはとても難しいことだ。
人質のわたしがどうやって好きに生きろというのだろう。
でも、ラヴィリオ皇子殿下は嘘を言っているようには感じないから、本当にそう思ってくれているのだろう。
でも、ラヴィリオ皇子殿下以外の人はどう思うのだろうか。
人質を甘やかして、彼の評判は落ちないのだろうか?
わたしがそんなことを考えていると、ラヴィリオ皇子殿下に手を引かれた。
「それじゃ、父上に挨拶に行こうか?」
「っ!!」
「大丈夫だよ。父上は、権力を持ってるだけで、ただの中年のおじさんだから。怖い人じゃないから安心して」
「………………」
その権力が問題なのに、ラヴィリオ皇子殿下は軽い調子で中年のおじさんだなんて……。
「大丈夫。俺が付いているから」
「はい……」
ガチガチに緊張しているわたしの手を引いたラヴィリオ皇子殿下に連れられて行った先は、とても広い空間だった。
恐らく、謁見の間的な場所なのだろう。
空間一番奥に人の気配が二つ。
皇帝陛下と皇妃陛下のお二人だろう。
お二人の放つ、オーラとでも言うのか、高貴な気配にわたしは足がすくんで逃げ出したくて仕方なかった。
そんなわたしの怯えに気が付いてくれたラヴィリオ皇子殿下が、途中で足を止めてわたしを励ましてくれたのはいいのだけれど……。
「大丈夫だよ。ティアリア。あそこにいるのは、俺の父上と母上だ。父上なんて、母上の尻に敷かれているただ権力のある中年のおじさんで、母上なんてただのロリバ―――っいった!!!」
ガチッ!!!!
ろりば? という単語をラヴィリオ皇子殿下が口にしたとたん、鈍くて低い音が頭上の方から聞こえた。
事態が把握できないわたしがオロオロしていると、ラヴィリオ皇子殿下がしゃがんで何かを拾った後にわたしの耳を塞いだのだ。
「おい! ロリババァ!! 俺を殺す気か! 息子の頭に鉄扇を投げつける母親がどの世界にいるんだ」
「おほほほ! あら嫌だわ。自分を生んでくれたお母様に向かって、なんて汚い口を利くのかしら? わたくしは、そんな子に育てた覚えはなくってよ?」
「俺だって、母上にまともに育てられた覚えはない! 母上にオモチャにされた覚えなら数えきれないくらいあるのだがな!」
「まあ? なんてことを言うのこの親不孝者が!」
「それはこっちのセリフだ。自分の胸に手を当てて思い出せ。俺の幼少期に地獄を与えた悪女が!」
「まぁ、何のことかしら? お前の幼少期? 可愛がった思いでしかないわ」
「その可愛がりが問題だと何故分からない」
「おほほほほ!!」
「あはははは!!」
「えっと、二人とも……。喧嘩はそこまでにしなさい。はぁ……。それよりも、ラヴィリオ。ティアリア姫が困惑しているのではないかな?」
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