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第六話
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皇城に向かう馬車の中でわたしはどうしたらいいのか頭を抱えたい気分だった。
ラヴィリオ皇子殿下は、わたしが何か言う前に素早い動きで隣に座ったのだ。
だけど、その距離……ゼロ距離……。
近すぎる! そして、なんだかいい匂いもする。
甘くて、優しい匂い。甘すぎて息が苦しい。
いえ、息が苦しいのは、彼の甘い香りの所為だけではないと思うの。
だって……、軽い調子で色々話しかけられるけど、どう答えていいのか全く分からないのだもの!
「ティアリアの好きなお菓子は? 俺は何でも好きだよ。でも、一番はティアリアかな? ふふ。今度一緒に評判のパフェを食べに行こうね。もちろん、二人っきりでだよ」
おかし? ぱふぇ?
「皇城に服飾商、宝石商を呼んで、そうだ、君の部屋も君好みに変えていっていいからね? 一応、俺が揃えたんだけど、好きなものをどんどん増やしていって、君の部屋にしていってね」
ふくしょ?? 宝石は……、確かわたしの命よりも価値のある石……だったような?
わたしの部屋? この人は何を言っているの?
「ティアリアは、肉派? それとも魚派?」
お肉とお魚……。二度と口に入れたくないわ。あんな臭くて苦いもの。
「ティアリアの趣味は? 俺の趣味はねみんなに秘密にしているんだけど、ティアリアにだけ教えてあげる。ふふふ。スイーツ作りが好きなんだ。ティアリアのことを考えていると、どんどん新作のスイーツのアイディアが湧いてくるんだ。そのうち、君を思って考えたスイーツを振舞わせてね?」
趣味? そんなもの考えたことなかったわね。
ラヴィリオ皇子殿下の趣味はすいーつ? を作ること……。すいーつ……を作って、わたしに振舞う……。拷問器具作りが好きなの……? ううん。まさか……ね?
「ティアリアのことも聞きたいな? ふふふ。君に会えたことが嬉しくて、俺ばっかりしゃべっちゃってるね」
そう言ったラヴィリオ皇子殿下は、さらに体を寄せてきたのだけど、わたしに逃げ場はなく……。
何を話していいのかもわからず、ただ下を向くことしかできなかった。
そんなわたしに気が付いたのか、ラヴィリオ皇子殿下は柔らかい声で言ったの。
「ごめん。焦りすぎたね。ゆっくりお互いを知っていこうね?」
そう言われて、どう返していいのか分からないわたしはただ小さく頷くことしかできなかった。
それでも、ラヴィリオ皇子殿下は責めることなどせずにまたしてもわたしの手を握ったのだ。
「うん。ありがとう。ティアリア、大好きだよ」
ラヴィリオ皇子殿下は何を思って人質との婚姻を受け入れたのだろう?
それに、ただの人質ではないことはわたしを見て分かったはずだ。
バケモノで醜いこんなわたし……。
さっき、ベールが捲れて顔を見られたはずなのに、何も言わないでいてくれる優しい人。
この人は、おかしが好きで、ぱふぇも好きで、拷問器具作りも好きで、わたしを蔑まない。
甘い匂いで、わたしよりも大きな手、体つきもしっかりしているように感じる。
ほんの少しの時間を過ごしただけなのに……。
彼の傍はなんとなくだけど、心地がいいと思えた。
こんな気持ちになったのはいつぶりだろうか?
今までのわたしは、苦痛を感じること、心が痛くて、苦しくて……。
擦り切れるまで利用されて、利用価値が少なくても、何かにまた使えると、飼い殺されてきた。
予感がした。
この人の傍はとても温かくて、こんなわたしでも何かを望んでもいいのかもしれないと……。
ラヴィリオ皇子殿下は、わたしが何か言う前に素早い動きで隣に座ったのだ。
だけど、その距離……ゼロ距離……。
近すぎる! そして、なんだかいい匂いもする。
甘くて、優しい匂い。甘すぎて息が苦しい。
いえ、息が苦しいのは、彼の甘い香りの所為だけではないと思うの。
だって……、軽い調子で色々話しかけられるけど、どう答えていいのか全く分からないのだもの!
「ティアリアの好きなお菓子は? 俺は何でも好きだよ。でも、一番はティアリアかな? ふふ。今度一緒に評判のパフェを食べに行こうね。もちろん、二人っきりでだよ」
おかし? ぱふぇ?
「皇城に服飾商、宝石商を呼んで、そうだ、君の部屋も君好みに変えていっていいからね? 一応、俺が揃えたんだけど、好きなものをどんどん増やしていって、君の部屋にしていってね」
ふくしょ?? 宝石は……、確かわたしの命よりも価値のある石……だったような?
わたしの部屋? この人は何を言っているの?
「ティアリアは、肉派? それとも魚派?」
お肉とお魚……。二度と口に入れたくないわ。あんな臭くて苦いもの。
「ティアリアの趣味は? 俺の趣味はねみんなに秘密にしているんだけど、ティアリアにだけ教えてあげる。ふふふ。スイーツ作りが好きなんだ。ティアリアのことを考えていると、どんどん新作のスイーツのアイディアが湧いてくるんだ。そのうち、君を思って考えたスイーツを振舞わせてね?」
趣味? そんなもの考えたことなかったわね。
ラヴィリオ皇子殿下の趣味はすいーつ? を作ること……。すいーつ……を作って、わたしに振舞う……。拷問器具作りが好きなの……? ううん。まさか……ね?
「ティアリアのことも聞きたいな? ふふふ。君に会えたことが嬉しくて、俺ばっかりしゃべっちゃってるね」
そう言ったラヴィリオ皇子殿下は、さらに体を寄せてきたのだけど、わたしに逃げ場はなく……。
何を話していいのかもわからず、ただ下を向くことしかできなかった。
そんなわたしに気が付いたのか、ラヴィリオ皇子殿下は柔らかい声で言ったの。
「ごめん。焦りすぎたね。ゆっくりお互いを知っていこうね?」
そう言われて、どう返していいのか分からないわたしはただ小さく頷くことしかできなかった。
それでも、ラヴィリオ皇子殿下は責めることなどせずにまたしてもわたしの手を握ったのだ。
「うん。ありがとう。ティアリア、大好きだよ」
ラヴィリオ皇子殿下は何を思って人質との婚姻を受け入れたのだろう?
それに、ただの人質ではないことはわたしを見て分かったはずだ。
バケモノで醜いこんなわたし……。
さっき、ベールが捲れて顔を見られたはずなのに、何も言わないでいてくれる優しい人。
この人は、おかしが好きで、ぱふぇも好きで、拷問器具作りも好きで、わたしを蔑まない。
甘い匂いで、わたしよりも大きな手、体つきもしっかりしているように感じる。
ほんの少しの時間を過ごしただけなのに……。
彼の傍はなんとなくだけど、心地がいいと思えた。
こんな気持ちになったのはいつぶりだろうか?
今までのわたしは、苦痛を感じること、心が痛くて、苦しくて……。
擦り切れるまで利用されて、利用価値が少なくても、何かにまた使えると、飼い殺されてきた。
予感がした。
この人の傍はとても温かくて、こんなわたしでも何かを望んでもいいのかもしれないと……。
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