錬金術師の恋

バナナマヨネーズ

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第二部

第53話 委託

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 お店を閉めた後に、私達はあまりの忙しさに疲れてぐったりとリビングのソファーに沈み込んでいた。

「今日は凄かったですね」
「そうね。でも明日もこんな感じなのかしら?」
「いや、これ以上だろう」
「僕もそう思います……」
「今日のことで思ったんだけど、席数増やした方がいいのかしら?」
「席数を増やしても、火に油な気はするがな……。それに、席を増やすための場所もない。あれ以上広げるなら、商品棚を減らさないといけないぞ」
「それだと、本末転倒ね」
「そうですね。そうなると、現状維持ってところですかね?」
「それしかなさそうね」

 結局、いい案は出ず現状維持という方針となった。
 しかし、次の日もそのまた次の日も混雑は続いた。更に言うと、悪化したと言っていい。午前中から、カフェ営業の時間まで並ぶお客さんが続出したのよ。
 このままだと、ご近所さんの迷惑になってしまうし、もっと言うととんでもない大物が並ぶようになってしまったのよ。本当に困ったわ。
 そう、この国の王子様達がね、行列に並んでいるのよ。隠しているつもりみたいだけど、全然隠せていないのよこれが。
 それに、護衛の人とかもこっそりというか、一緒に列に並んでいて凄く目立つのよね。
 でも、王子様だからと言って特別扱いはできないわ。
 だって、並んでくれている人は平等にお客さんなんだから。
 でも、本当に困ったわ。

 一度、王子様達に何故並んでいるのか聞いたことがあるのよ。ほら、王子様ならいろいろ手段を持ってそうだし、何故権力を使わないのかって、そうしたら「この店で、美味なるものを食すのがいいのだ」「ハルちゃんのお店で食べるからいいんだよ」と場所がいいと言っていた。場所?特に何もない普通のお店のはず(亜空間に繋がっているだけでね)

 でも、メリッサさんとフェルトさんと商業ギルドのお陰で解決の兆しが見えたのよね。
 カフェ営業を始めてから数日。メリッサさんがフェルトさんと一緒にお店にやってきた。メリッサさんは調味料が切れたので購入に来てくれたという。フェルトさんは、カフェが繁盛しているということで見学に来たと言っていた。

「あらあら、凄いわね。まだまだ営業時間まであるのにもう並んでいるのね」
「これは、聞いていた以上にすごいね」
「そうなんです。このままだと、商品を買いに来たお客さんにゆっくり商品を見てもらえないんじゃないかと……」
「う~ん。確かに、ちょっと外が気になっちゃうわね~。でも、カフェの評判を聞いてね、今度ファニスさんと並ぼうかって話していたのよ~」
「へぇ、私も気になってたんだけど、一人だと並ぶのに抵抗というか、寂しいというか何といかで、並ぶ勇気はなかったんだけど」
「お姉さま、それならご一緒にどうですか?」
「ファニスに恨まれそうだけど、背に腹は代えられない。よし、お願いするよ」
「でも、外の行列に対して今の席数では何時間待ちになるのか……」
「そうだな……」
「ねえ小春ちゃん。席数を増やす予定はあるの?」
「それも考えたんですけど、そうすると商品棚を減らす必要があるので、無理だと判断しました」
「そっか、小春ちゃんは委託とかしてないもんね」
「委託ですか?」
「おっ?小春は委託のこと知らないのか?」
「言葉の意味くらいは分かりますが……」
「簡単に言うと、他の錬金術師の店に商品を卸すかギルドの売店に置いてもらうとかだな」

 そう言われて、商業ギルドに売店があったことを思い出した。一度も覗いたことはなかったけど、あの売店は錬金術師達の商品を置いて販売していたのかと思い至った。

「なるほど、委託ですか。そうすれば、もう少し席数を増やせるかも……」

 私が、そう呟くと、お店にいた他のお客さんが何故か話に食いついたのだ。

「委託いいと思います!!」
「委託は、ギルドですか?」
「全面カフェでもいいよ」
「いやいや、少しはここにしかない商品も置いたままにして欲しいよ」

 お客さんの意見をまとめると、今の商品を少しは置いて、後はカフェとして営業して欲しいということだった。

「ははは。みんな、小春のカフェの事に聞き耳たててたみたいだね」
「うふふ。そうですね」
「これは、早めに何とかしないといけませんね。委託のこと相談しに行ってきます。ということで、タイガ君と駆君後お願い出来るかな?」
「分かりました」
「了解」

 二人の了解も取ったので早速ギルドに行こうとしたら、フェルトさんが同行してくれると言ったのでお願いすることにした。

「小春、今日はあれに乗らないのか?」
「あれ?ああ、空飛ぶ箒ですか?」
「それそれ!」
「フェルトさんもいますし、歩いて行きますよ?」
「いや~、実は一度乗せてもらいたいと思ってたんだよね。良ければ乗せてもらえないかな?」
「いいですけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫。落ちても、私頑丈だから!」
「それなら……。あっ、ちょっと待ってくださいね」

 そう言って、急いで工房に向かった。
 前に、スライムから伸縮性のあるゴムのようなものを作ったので、それで命綱のようなものを作成しフェルトさんに使ってもらうことにした。
 出来あがったものをフェルトさんに渡して、一方を腰に巻いてもらい、もう一方を箒の柄にセットしてもらうように説明した。

「小春ありがとう。これで万が一落ちでも大丈夫だね」
「これは保険です。なので落ちないようにしっかり掴まってくださいね」

 そう言って、フェルトさんを乗せてギルドまで飛んだ。ギルドに到着するまでの間、フェルトさんは「あはははは!!最高!!」とずっと喜んでいた。大人の女性に対して失礼かもしれないけど、少し子供みたいで可愛いと思ってしまったのは内緒です。

 空飛ぶ箒での移動のため、あっという間にギルドに到着した。ギルドに入ると、サリーさんが受付にいたので、挨拶をしてから相談することにした。

「こんにちは、サリーさん。今日はご相談があってきました」
「こんにちは。御相談ですか?」
「はい。うちの商品を委託したいと思って……」
「いちご商店さんの商品の委託ですか……」

 あれ?なんか変なこと言ったかな。なんだか周りがざわざわし始めちゃったんだけど。

「小春の店の商品の委託先はギルドの売店がいいと思うぞ」
「そうなんですか?」

 何故かフェルトさんは、委託先はギルドがいいといった。

「そうですね。その方が多方面にいろいろと安全というか……」
「だよね」
「そうなんですか?それに多方面に安全って?」
「あ~、ほら、小春の店の商品は特殊だろ?だから、他の錬金術師の店に置いたら協定違反というかな?」
「そうです。不公平になっちゃいます」
「協定違反?不公平?」
「「いろいろあるんだよ(です)」」

 二人にそう言われると、なんだかこれ以上聞いてはいけないような気がして困っていたら、ギルドマスターのジーンさんが現れた。

「何だ?とうとう委託に来たのか?」
「何ですか?とうとう委託に来たって?」
「いつかはこうなると予想していた」
「そうなんですね?」
「でっ、あのワインは卸してくれるのか?」
「あぁ。そう言えばアル様のお祝いの時に作って以来、お店に出すの忘れてました。どうしようかな?」
「うちで委託するなら、あのワインは必須だ!!」
「そうですか、なら他のところ―――」
「嘘です。ギルドに委託してください。そうでないと、いろいろと面倒なことになるからな」
「はあ」

 良く分からないけど、ギルド以外の委託は争いの元になるらしく?やめるように言われた。ワインの委託は任意でいいと言われたけど、フェルトさんからも期待の眼差しで見られてしまったので、たまに卸してもいいかと考え直した。

「えっと、それではギルドにお願いします。いつからいいですか?」
「今日からでも、と言いたいところだが、売店の商品整理も必要になるから、明日からだな。商品は、職員に取りに行かせる」
「えっ?普通委託をお願いする側が、商品を納品しにくるものなんじゃないですか?」
「普通はそうだが、今店にあるほとんどの物をここで委託販売となると結構な量になると思うから、そこはサービスだな」
「あれ?どの位置いてもらうかまだ言ってなかったと思いますが?」
「予想は付く。今の時期に来るってことは、カフェを拡大するために、商品を委託しようと考えたんだろ?そうなると、今店に置いているほとんどを委託しようと考えるのは当然だな」
「結構な量になると思うんですけど……」
「そこは、大丈夫だ。売店を少し拡張するから問題ない」

 ジーンさんは委託に凄く積極的だった。なんでだろう?

「それより、店の拡張はどの位で出来る?そうなると、一日カフェ営業できるか?菓子の他に飯も出るか?なんなら酒も!!」

 あっ、これは【幸福のワイン】目当てだ……。

「食事は出そうと思いますが、お酒は出しませんから」
「……そうか」

 話は付いたので、フェルトさんとお店に帰ることにした。商品は夕方、ギルドの職員が取りに来てくれることになった。また、毎日商品の補充に、朝と夕方に職員の人が訪れることになった。
 というのも、朝不足している商品の発注をして、夕方に取りに来るということになったのだ。

 よし、閉店後に一気にカフェ仕様に改造しないといけないわね。
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