錬金術師の恋

バナナマヨネーズ

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第二部

第43話 増える住人 その1

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 部屋が微妙な空気になっていたような気がするけど、それよりも気になったことがあったので聞いてみた。

「そう言えば、二人はどうしたの?今日はアル様の所にお邪魔する予定はなかったと思ったけど?」

 そう、どうしてふたりがお城に来たのか不思議だったのだ。
 二人に尋ねると、微妙な表情をしながらお互いを肘でつつき合っていた。
 最終的には、駆君が答えてくれた。

「えっと、いろいろとな、その、あれだ。心配になってな」
「う~ん。あっ!」

 何故言葉を濁したのかは分からなかったけど、もしかして二人の食への熱い情熱がアル様に試食してもらうために持ってきたクッキーに反応して追ってきたということなの?

「本当にごめんなさい。これからは二人に試食を一番にお願いするから」
「あぁぁ……。うん。ヨロシクナ」
「それじゃ、これで仲直りだね。私、噛まれたことが初めてだから驚いちゃったわ。お願いだから、もう怒ったとしても噛んだりしないでね?はぁ。なんだかべとべとするわ。帰ってお風呂に入りたいかも」
「本当に悪かった」
「小春さん、ごめんなさい」
「もう!仲直りしたから謝らなくていいからね!さっ、帰りましょう」

 二人を促して城を後にしようとした。ところが、私達を呼びとめる声があった。

「お願い!私も一緒に行くわ!!」

 その声に私達は後ろを振り向いた。そこには、聖女となった鈴木香さんが思いのほか必至な表情で立っていた。

「なんだ?聖女の役目はどうした?」
「東堂……」

 駆君が鈴木さんにそう声を掛けたら、鈴木さんは涙ながらに理由を教えてくれた。

「わっ、私。もう、聖女のお役目は……むり。適正検査では聖女って出たけど、さおりみたいに出来ないよ!力も弱くて、はっきり言ってさおりだけいればいいって皆思っているのばればれ。王子様も私に呆れてるみたいで、もう辛いの。もう、私の居場所なんてここにはないんだよ!」

 聖女のお役目が具体的にどんなものか分からないので何て声を掛けていいか全く分からなかったけど、ここに居場所がないと泣いている女の子を放っておける訳もなく。

「鈴木さんの気持ちを理解してあげられなくてごめんなさい。でも、ここにいたくないって言うんだったら、うちにおいで。それで、これからのこと考える時間を作ったらいいと思うわ。アル様、いいかしら?」

 勝手に連れて行って後で問題になると大変なので、今ここにいる中で一番権力がありそうなアル様に許可を求めた。

「分かった。父上と兄上には私から話しておくよ」
「アル様、ありがとうございます。それじゃ行こうか」

 そう言って、今度こそお城を後にしようとしたらまたしても声が掛かった。

「待って!僕もスーさんと一緒に行きたいっす」

 今度は誰かと思い後ろを振り向くと、結界師になった進藤悠里君がそこにいた。

「今度はお前かよ。何だ?お前も結界師の役目が辛いのか?」
「違うっす!辛いとか辛くないとか以前っす!」
「何だって言うんだ?」
「僕の職業に疑問があって、一旦役目をお休みしたいっす。でも、城にいても、何というか……。正直に言うっす。ここは娯楽もなくて、訓練をするか図書室で本を読むか、クラスメイトと話をするかしかやることがないっす!退屈なんっす!だから外の世界を見たいっす!でも、僕は臆病だから一人で市井で暮らす勇気はないっす。だから、みんなについて行きたいっす!!」

 おおう。進藤君って、こんな人だったんだね。一気にしゃべられてびっくりだよ。

「進藤君が一緒に来てもいいんだけど、そうすると部屋が……」

 そう、現在我が家の二階の部屋は全室埋まっている。鈴木さんだけなら狭いけど私の部屋で一緒に寝てもいいと考えていた。でも、進藤君もとなると部屋をどうすればいいか考えないといけない。

「駆君と一緒は……」

 そう言いかけて、駆君の顔を見るとすごく嫌そうな顔をしてた。

「僕は、部屋の隅でいいっす!」
「そういう訳には……」

 どうしようか悩んでいると、タイガ君がいい案があると言ってきた。

「小春さんの部屋を鈴木さんが使って、僕の部屋を進藤さんが使う。それで、一階の書斎を改装して僕と小春さんで使うはどうかな?」
「なるほど。それはいい案かも。ベッド2つも入るかしら?」
「大きいの一個で一緒に―――」
「待て待て待て!無理無理無理!!却下だ!却下!!」

 いい案だと思ったら、駆君に全力で却下された。そこまで否定しなくても……。

「いいか、小春。タイガはもう大人なんだ。だから一緒の部屋はダメだ。それに男は、その、あれだ」
「狼っすね!」
「そう。だからその案は却下だ」

 そんなことを言い合っていたら、アル様がまたしても爆笑していた。何がそんなにおかしかったのだろうか?アル様の笑いのツボが全く分からないわ。

「あぁ。東堂君苦労してるんだね。それに清水さんって天然?」
「鈴木……。俺の苦労を分かってくれてありがとな」
「天然?えっ?なんのこと?そうだ!今日はお魚料理にしよう。帰りに漁業組合のお店に寄って行こう」
「ぷっ!清水さん本当にいいキャラしてるかも。東堂君があんなんじゃなかったら、友達になれたかも」
「あれってなんだよ」
「心が狭い。ヤキモチ焼き。独占欲すごいとか?」
「ふん、それがなんだってんだ」
「ワー。ヒラキナオッテル」
「どんな手を使っても視界に入っていたかったから俺も必至だったんだよ」
「お~。東堂っちは、情熱的っすね!しかも、清水さんは全然聞いてないみたいっす。それって強烈な一方通行っすね!」
「進藤って、結構エグイわね……」
「みなさん、駆の精神をこれ以上削らないで上げて!」

 私が、今日の晩ご飯のメニューに想いを馳せている横で何やら良く分からない会話が繰り広げられていたけど、今日のメニューの方が大事だわ。

「みなさん?盛り上がっているところ恐縮ですが、お部屋問題はどうするのですか?」

 アル様のその言葉でその場にいた全員が現実に戻ってきたのは言うまでもないわね。

「う~ん。それじゃぁ、タイガ君の案をベースにこうしましょう!私の部屋を鈴木さんが使って、タイガ君の部屋を進藤君。それで、書斎に簡易ベッドを入れてタイガ君が使って、私は工房で寝るわ!!いい案だわ!!」

 そう、これで夜でも研究が気兼ねなく進められると思うと良案な気がした。

「はぁ。きちんと寝ろよ」
「小春さん、ちゃんと寝てくだいね」

 二人に同時に注意された。二人には私の考えなんて手に取るように分かるんだね。
 話がまとまったところで、今度こそお城を後にしようと思ったが、二度あることは三度あると言うし、また後ろから声を掛けられるんじゃないかと思って後ろを警戒した。
 しかし、今度は前方からの声で呼び止められた。

「ずるい!俺も混ぜろ!!」

 後ろを振り向いた姿勢を正面に戻すとそこには、高田君と高遠君と武藤さんがいた。
 もしかして、全員うちに来るって言わないよね?
 うちにそんなスペースなんて……。あっ、あれがあったわね。でもあれのことを知らせたら、ものすごく怒られそうな気がする。でも、もしもの時は諦めよう。そう決心を付けて、前方にいる三人に話を聞くことにした。
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