錬金術師の恋

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
上 下
39 / 71
第二部

第39話 騒がしい日常

しおりを挟む
 あの天使だったタイガ君は、大人に成長し今では沢山の乙女達を夢中にさせています。駆君はもともと、イケメンさんでしたが、タイガ君が側にいると更にキラキラしさが倍増するみたいで、たまにお店を手伝ってくれると、それを聞きつけた乙女達がわんさかやってきます。
 二人はとても商売上手さんなので、そんな乙女達を手ぶらで帰すことはなく、何かしらの商品を買ってもらったうえでお帰りいただいているようです。
 うん。二人にお店番を任せて正解だね。
 こうして、お店は繁盛し結構な儲けも出ています。ただ……。
 不満なんてありません。ただ、工房はお店と隣り合っていて……。その、なんていうか、うっ、うるさいんです!!

「今日も、タイガ君恰好いい」
「ああ!市井に住む王子様~」
「今の顔、可愛すぎる」
「でゅふふ。あの見た目で、僕って一人称が最高」

 毎日こんな感じよ。駆君がお店にいると倍増する。

「駆君が笑ったわ!!」
「キャー、お会計の時に手が触れたわ!」
「笑顔がたまらないわ!」
「でゅふふ。駆様とタイガ君が二人で並んでいるのが尊いわ~」

 ごく稀に、二人に材料の調達のためお店に私がいることもあるけど、その時はいつも通りの奥様方がやってきて、普段お店が混んでて、ゆっくりできないと嘆いていたり、最近は何故か騎士団の人や男性のお客さんも増えてきていて、「憧れの彼女に振り向いてもらえるなにかいい商品はないですか?」と相談を持ちかけられることもあった。
 うん。私がお店番をしているときは、女の子は全く来ません。最近は男性客が少し増えた気もしますが、どうしてでしょう?
 更に言うと、男性客が店内にいると、奥様方も何故か増えていて、「妖精の乙女は今日も可愛らしい」「この子には、駆ちゃんが」「いいえ、タイガちゃんが」と謎なやり取りが繰り広げられている。

 と、言う訳で最近は周りが何かと騒がしいのです。

 そんなある日の定休日の昼下がり、お茶を飲みながら二人に聞いたのよ。

「ねぇ、最近二人目当てのお客さんが増えたよね」
「そうか?」
「うん。それでね。結構可愛い子とかいるでしょ?ねぇ、誰かとお付き合いとかはしないの?私、お客さんと付き合うの別にいいと思うけど?」
「小春は客で付き合いたいと思うような奴がいるのか!」
「小春さんは、お客さんで気になる人でもいるんですか!」
「えっ?いないけど?そうじゃなくて、二人のことだよ。二人はいいな~とか思う子はいないの?」

 あれ?なんで二人とも無言で私のことを見るのかな?

「全然伝わっていない」
「全く、相手にされていないみたいです」

 良く分からないことを言って、二人同時に大きなため息をついたのよ。

「どうしたの?まさか、奥様の中に思い人が!」

 私は、二人が奥様の中で気になるご婦人がいるのではと思い立ち青くなった。このままだと、旦那さんとの仁義無い戦いで、駆君とタイガ君が罪のない旦那さんをボコボコにしたうえで、お城に連行されて、第二王子様が被害者にお詫びをしている姿が目に浮かんだ。
 これは、まずい!

「「違うから!」」

 あら?心の中を読まれたのかしら?二人同時に否定の言葉を発した。

「別に、奥様の中で気になる人がいる訳じゃないよ。僕は、小春さんが一番だよ!」
「うふふ。大きくなっても、私のこと思って言ってくれるのは嬉しいけど、もうその言葉は本当に好きな人に言ってあげて」
「違うから!」
「タイガは、小春のことお姉さんみたいに好きだよな。俺はお前と家族になりたいくらい好きだぞ」
「うふふ。駆君もありがとう。二人が誰と結ばれたとしても、私達は家族だよ。だから安心して彼女を作ってね」
「「…………」」

 あれ?どうしたんだろう、もしかして私の言葉に感動して言葉も出ない?二人はそこまで私のことお姉ちゃんと慕ってくれていたんだね。なんて嬉しいことなのかしら。
 こうしてはいられない。早速このことを、アル様に自慢しなくては!
 そう、あれ以降第二王子のアルトリア様とは親しくするようになっていて、今では「アル様」「ハルちゃん」と呼び合う仲になっていた。私達は、駆君と、タイガ君の成長を温かく見守る会の同志なのよ。

「二人は、のんびりしてて。私アル様の所に遊びに言ってくる!」

 そう言って、二人の反応も待たずに、箒に乗ってお城まで飛んで行った。だって、見守る会は二人には秘密なので、付いてこられては困るもの。



 ◆◇◆◇




 事件以降何故か、顔パスでお城に出入りできるようになっていた。たぶんジョエルさんの宰相パワーだと思うわ。
 なので、私は箒に乗ったまま、アル様の部屋までひとっ飛びで到着よ。部屋に着くと、アル様はジョエルさんと話し合いの最中だった。
 出直した方がいいかと思っていたら、アル様は私に気が付いたようで、「ハルちゃんいらっしゃい」と声をかけてくれた。
 その声に促されて、テラスに下りて挨拶をした。

「アル様、ジョエルさんこんにちは」
「小春さん、こんにちは。どうしたんですか?」
「遊びに来ました。ジョエルさんこちらをどうぞ」

 そう言って、お土産のクッキーを差し出した。それを受け取ったジョエルさんは、「王子、一旦休憩で!小一時間ほどで戻ります!」とクッキーを嬉しげに抱えて部屋を出て行った。
 私は、アル様にお茶とクッキーを用意してジョエルさんが座っていたソファーに腰掛けた。
 それから、アル様にさっきあったことを自慢した。

「二人は、私のことお姉ちゃんと思ってとっても慕ってくれているんですよ!」
「ククク、ほっ、本当に、二人はハルちゃんのこと大好きだからね」

 何故か、アル様は私の話を聞いて爆笑した。

「あの~、そこまで爆笑出来る様な内容でした?」
「すごく面白いよ(二人の報われなさが)」
「そうですか?」
「うんうん。他には?何か面白いことはあった?」

 アル様にそう言われて、最近研究している物について話していると、扉の外が何やら騒がしくなっていた。

「ククク、お迎えみたいだよ」
「お迎え?」

 何がおかしいのか、アル様は笑いながらそう言った。お迎えって?と考えていると扉が乱暴に開けられた。

「第二王子!いい加減気を使えよ!!」
「アルはずるいよ!」

 そう言って、騎士達を引きずるようにして二人が部屋に入ってきたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...