錬金術師の恋

バナナマヨネーズ

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第一部

第27話 俺だけのもの ※駆視点

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「やらん」
「やっぱり!くれください!!」

 なんと、匂いだけで駆の鞄の中に美味しいものが入っていると確信した信二は地面にへばりつきながら叫んだ。

「頼む!この通りだ!!」
「無理だ。これは俺だけのものだ!!」
「少しでいい、分けてくれ!!このままじゃマジで、腹と背中がくっついちまう。腹減りすぎて死んじゃうから!!化けて出るから!!振られろ!イケメンめ!!ハゲろ!!」
(振られるのは嫌だ。っていうか、最後は悪口だったよな?)

 そう言われても、と思ったときだ。ここで分けないでいたことを後で小春が知ったら、嫌われて、信二が言ったように振られる。と言うか、告白以前に嫌われるとなんて最悪だと考え直した。

「分かった。ただし、俺もまだ食べてない。折角俺のために作ってくれたものを食べないなんて、作ってくれた人に悪いことはできない。だから少しだけお前に分ける。それでもいいか?」

 小春が自分のために作ったものを食べないなんて出来ない。駆は、長い言い訳をして少しだけ分けると言った。恋する男子は狭量なのだ!!

「あっ、ありがとう。恩に着るぜ!!」
「ここでは、折角の料理が台無しだ。どこか落ち着いた場所はないのか?」
「それなら、俺の部屋に行こう!すぐ行こう!!」

 そう言って、信二はよろよろと歩きだした。そこで、もう一人のことも思いだし、「秀一もこいよ」と誘った。
 そう言われた秀一は、自分が忘れ去られていなかったことを喜びながら二人の後を付いて行った。

 その場に残されたクラスメイト達は、最初唖然としたが、駆が何か美味しいものを持っていると気が付き、更に慌てて三人の後を追いかけたのだ。

 大人達はと言うと、駆の鞄にあったものは、小春の調理とピンと来たが、それを巡って血の雨が降るのではないかと顔を青くした。どうにも結末を見届けないといけない使命感にも駆られ更に後を追ったのだった。



 ◆◇◆◇




 信二の部屋に着いたところで、後ろを付いて来ていたクラスメイトと更にその後ろの大人達を見て、溜息をつきつつも何も言わずに駆は部屋に入った。
 部屋に入ると、仮の部屋なのか物が少なく、テーブルセットとベッドだけの質素な部屋だった。部屋を見回していると、「一時的に泊っているだけだからな」と秀一は肩をすくめた。

「それよりも、駆!」
「分かったから、涎拭け」

 鞄から小春が持たせてくれた小さなバスケットを取りだした。中を見ると、小さな水筒とランチボックスが入っていた。ランチボックスには、サモサとエビ団子が入っていた。水筒には、ハーブティーが入っていた。部屋にあったカップに二人の分のハーブティーを注いだ。サモサと、エビ団子も二人に一つずつ渡した。
 頂きますと言った後、三人は食べ始めた。駆は、サモサを食べながら小春がカレーを作る為の材料を探していたことを思い出していた。

「「うまっ!!」」

 二人が余りにも大声で叫ぶものだから、駆は考えを中断した。

「うるさい。黙って、ありがたがって食べろ」
「だって、すげー旨い!!なっ、信二!!」
「旨い。旨い。旨いよ。」
「なぁ、これって誰が作ったんだ?それに、お前の髪あっちにいた時よりもさらさらじゃね?」

 確かに、小春の用意してくれた石鹸やシャンプーなどを使ってから肌も、髪も艶が良くなっていた。そう考えながら、二つ目のサモサを口にした。

「無視かい!」
「駆、もう一個ずつくれよ」
「やらん。後は俺が堪能する」
「なぁ、くれよ~。駆はいつも食べてるんだろ?」
「だが、断る」
「いつも?いつも食べてるのか?」
「そうだ」
「分かったそ。これを作ったのが誰か!」

 秀一がそう言ったとたん駆は、秀一の頭を鷲掴みにした。万力のような力で締めあげながら言った。

「黙れ」

 余りに冷え切った声音に寒気がした。しかし、今後を左右する問題に秀一は腹に力を入れて更に言った。

「清水さんは、暴力――、嫌いだと―思うぞ」

 切れ切れになりながらもそう言いきった。その言葉を聞いてか、駆は秀一から手を離した。

「彼女に迷惑をかけない範囲でなら……」
「分かってる」

 そんなやり取りの横で、信二は勝手に残ったサモサとエビ団子を無心で食べていた。それに気が付いた駆が踵落としをして、信二を天に召しそうになったのは、信二の自業自得だろう。

 信二はすぐに意識を取り戻した。駆は、自業自得と思い放置しようとしていたが、「清水さんがこの惨状を知ったらなぁ~」と、秀一が言い出したので、仕方なく持っていた回復薬を信二に与えたのだった。

「なぁ、と言うことは駆は清水さんと一緒に住んでるのか?」
「まぁな」
「良く、あの清水さんが許してくれたな?」
「……まぁな」

 当初、強引に住みついた感じはあったので気まずく思い、微妙な返事を繰り返した。

「んで、どうよ?」
「一緒に住んでるんだろ?ほら、何かラッキーなイベントとかなかったのか?」

 そう言われて、今日小春の唇に触れたことを思い出しそうになり、慌てて振り払った。

「何もない。それに、もう一人一緒に住んでいるから、起こりようもない」
「なんだ、残念。それより、さっきの話だが……」
「材料があれば、ここにいる女子でも大丈夫なんだろう?だったら、金を出せば、俺が小春がいつも料理に使っている材料を買ってきてやるさ」
「フム。しかし、さっきも言ったが料理自体がアレみたいだしなぁ」
「だったら、男連中で頑張れ」
「冷たいな、信二はどうよ?」
「材料があれば男連中でもいけるとは思うけど、その材料って、どこで手に入れるのさ」
「小春が錬金術で、作って実際に店で売ってる」
「「売ってる?」」
「あぁ、街の奥様方は、結構買いに来るぞ。常連さんの話だと料理を旦那に褒められるようになったとか言ってたな?」
「おお、それならいけそうだ。秀一、材料買ってこようぜ!」
「来るな。金をもらえば俺が買ってくる」
「「……」」
「なんだ、その目は?」

 二人は何か押し付け合うようにしてから、最終的に秀一が口を開いた。

「あまり、独占欲が強いと呆れられるぞ?」
「大丈夫だ。まだ、我慢できてる」

 微妙な空気になりながら、明日簡単に材料を見つくろって持ってくると約束をして部屋を出る。帰ろうとしたタイミングで今度は、クラスメイトの女子が群がってきた。

「東堂君!!お願い!その髪やお肌はどうしているの?お手入れの方法を教えて!!」

 そう言って、聖女になった武藤さおりが女子を代表して詰め寄ってきた。彼女の顔や髪をみると、随分とぼろぼろだった。

(これは、あの迷惑な客をよこしても仕方ないレベルだな)

 駆は、思った以上にひどい有様にそう思った。小春は基本的に女子に甘い。この状況を知ればきっと全力で力になっただろう。駆が見捨てたことを知ったら、絶対に嫌われる自信がある。そう、情けないことを考えながら、「分かった。明日いくつか用意する」と、言って何とか女子たちを宥めなてから城を後にした。

 思ったよりも時間が掛かったことに疲れは感じたが、小春の笑顔を思えばなんてことはないと考えながら、家路に着いたのだった。
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