聖女様から「悪役令嬢竹生える」と言われた男爵令嬢は、王太子の子を身籠ってしまったので、全力で身を隠すことにしました。

バナナマヨネーズ

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第八話 思わぬ再会を果たす

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 ユーリの問いかけに、ジグは泣きそうな表情で答えていた。
 
「お…お久しぶりです。殿下……」

「ジグリール……」

 それきり黙ってしまった二人だったが、ジグの腕の中にいたイヴァンの一言で、その場の空気が一変していた。
 
「まぁま? おじちゃ、だれ?」

 不安そうなイヴァンの言葉に、ジグは慌てて笑顔を作っていた。
 
「イヴ、この方は、ママの……、お……お友達だから」

「おじちゃ、ともだち?」

「そうよ。だから、怖い人じゃないから安心して」

「う~……」

 ジグは、そう言って必死にイヴァンの不安を取り除こうとしていた為、ユーリとオーエンの反応に全く気が付いていなかったのだ。
 
 ユーリは、青い顔をしてジグの腕の中のイヴァンを見つめていたのだ。
 
「ま……、まま…だと?」

 そして、ユーリをおじさんという、イヴァンにオーエンは肩を震わせて爆笑していた。
 
「くっ……、くくく!! ユーリをおじちゃん……、くっ! あははは!!」

 まさに、その場は混沌と化していたと言えよう。
 ジグは、困惑しつつもこのまま知らない顔を通すことも出来ず、ユーリとオーエンを自宅に招くのだ。
 
「殿下、オーエン様……。えっと、とりあえず、お茶でも……」

 そう言われた二人は、ジグの後について家へと入っていったのだ。
 通された室内は、温かな空気で満たされていた。
 ユーリとオーエンにお茶を出したジグだったが、イヴァンのために夕食を作る必要もあり、慌しく二人をリビングに残してキッチンに向かっていた。
 普段は、料理中はイヴァンをリビングに残していたが、今日はそう言う訳にもいかなかったのだ。
 キッチンにある子供用の椅子にイヴァンを座らせたジグは、混乱する頭のまま夕食の支度を進める。
 キノコのたっぷり入ったシチューと黒パン。ポテトサラダ。イヴァンと二人での食事であれば、それで足りるが、ユーリとオーエンの分を出さないわけにもいかないと、ハンバーグとグラタンも追加で作っていた。
 ジグは、出来上がった料理を運ぶ前に、イヴァンと目を合わせるようにしてこう言い聞かせていたのだ。
 
「イヴァン、これから、ママの昔のお友達と一緒にご飯を食べるけど、いい子にできる?」

「うん。イヴ、いいこできるよ」

「うん。それと、二人にもしパパのことを聞かれたら、天の国にいるって教えてあげてね」

「てんのくに? う~ん、わかった!」

「うん。イヴァン、ありがとう」

 最後に、イヴァンを抱きしめたジグは、平常心と呟きながら出来上がった料理を運ぶのだった。
 
 ジグの作った料理を食べるユーリとオーエンは、何を話していいのか分からず、無言で食事を口にしていた。
 その間も、ジグはいつものようにイヴァンの口元を拭いてやりながら、ゆっくりと食事をしていた。
 無言の食事を終えたところで、ユーリが恐る恐るといったように声をかけたのだ。
 
「あの…な。ジグリールのその髪と目は……。それに、その子は……」

 ユーリは、記憶の中のジグリールの金の髪と碧眼を思い出しながら、そう口にしていた。
 ジグは、一瞬眉を顰めた後に眼帯を外していた。
 そこにあったのは、昔と変わらない美しい碧眼だった。
 空の食器を見つめながら、ジグは震える声で言うのだ。
 
「えっと……、魔王討伐後に、ちょっとあって、髪と右目の色が変わっちゃったの……」

 ユーリは、どうして元の色の瞳の方を隠したのか、なんとなく察して黙り込んでしまった。
 
 ―――別人として生きるつもりという訳か……。どうしてだ、ジグリール……。何故、俺の前から居なくなったんだ。
 
 会話が途切れ、しんと静まり返った中で、オーエンはイヴァンのことを聞いていた。
 
「ああ……。そのなんだ……、その子の父親って……、ゆ―――」

「イヴのぱぁぱは、てんのくににいるの!」

「えっ? 天の国? ちょ、待ってくれ、その子の父親は、どうみても―――」

「違います! オーエン様の勘違いです!」

 その先を言わせないとしたジグの一言でオーエンは、黙り込むのだった。
 イヴァンの姿を見て、オーエンは確信していたのだ。
 その姿は、ユーリの小さなころによく似ていたのだ。そして、イヴァンの金色の瞳は、とても珍しい色で、どう見てもユーリの血を引いているとしか思えなかったのだ。
 
 自分の隣で、顔を青くする一つ年下の友人であるユーリ・マルドゥークをオーエンはチラ見する。
 美しい青銀の髪と珍しい金の瞳。今年二十五歳になるユーリは、一見細身に見えて、実はけっこう鍛えていた。甘いマスクと長身で程よく付いた筋肉が、女性から騒がれているそんな男だった。
 そして、テーブルをはさんで向かい合って座るイヴァンは、髪色は金色で違っているが、幼いながらも整った顔立ちと、金の瞳は、ユーリと瓜二つだったのだ。
 どう見ても、血縁関係だと思えるのに、ユーリは心当たりがないようなのだ。
 そのことに首を傾げるオーエンだったが、確かに、二人が子供を授かるような行為をするタイミングなんて、魔王討伐中はなかったし、討伐後はすぐにジグは、姿を消してしまっている。
 
 一人、悩みだしたオーエンは、ジグと最後に顔を合わせたときのことを思い出して小さく、「あっ!」と声を出してしまうのだ。
 
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