聖女様から「悪役令嬢竹生える」と言われた男爵令嬢は、王太子の子を身籠ってしまったので、全力で身を隠すことにしました。

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
上 下
7 / 13

第七話 魔女様と騎士

しおりを挟む
 村長宅で賑やかな食事を終えた視察団の面々は、その日泊まらせてもらう家に三手に別れて向かっていた。
 ハジーナ村には宿屋がないため、村長宅に騎士二人と学者が一人世話になることになった。そして、大工の棟梁の家にも騎士と学者の二人が泊まることとなった。
 ユーリとオーエンの二人もまた、村にある商店のまとめ役の家に泊めてもらうこととなったのだ。
 
 翌日から、二人の学者の調査に三人の騎士が付いて回ることになったが、ユーリとオーエンの二人は別行動をしていた。
 昨日の熊が村に害をなす存在か確かめるために森に入っていたのだ。
 熊の縄張りは、村に近い場所にあったため、念のために駆除することにした二人は、昨日から話題の中心になっている魔女の少女について話をしながら、熊退治をしていた。
 
「話に聞いた魔女様って子、灰色の髪だってさ。今回も空振りみたいだな」

 オーエンがユーリにそう言うと、表情を変えることなくユーリは、熊に剣を突き立てながら返すのだ。
 
「別に……。あの子を探すために視察団に加わったわけじゃない……」

 ユーリの平坦な声を聴いたオーエンは、くすりと笑っていた。
 そして、ユーリに意地悪そうに言うのだ。
 
「ふーん。俺には、未練たらたらに見えるけど? あの子のこと、何とも思っていないやつが、あんなことしないと思うけどなぁ」

「べ、別に……。いや、お前相手に意地を張っても仕方ないな……。ああ、正直がっかりしてる。ジグリールは、絶対に生きている。だが、どこにもいない。彼女は国外に行ってしまったのかもしれない……」

 平坦な声色は一変して、悲し気な声に変っていた。
 その声は、愛しい相手を失ってしまったような、そんな悲しみを堪えているような、そんな声音だった。
 オーエンは、剣についた熊の血を払いながら、ユーリを励ますように言うのだ。
 
「ああ、ジグリールは、生きてる。それは絶対だ。あの時、どこか痛めた様子だったが、あの子は自分の足で歩いていた。それに、俺たちから逃げ遂せたんだ。そんなあの子がむざむざ死ぬはずがない。もし、国外にいるってんなら、俺が探しに行って、絶対に連れて戻るから、だからお前はあんま無茶して陛下を困らせるんじゃないぞ?」

 最初は励ますように言っていたオーエンだったが、最後はどこかユーリを諭すようなその言い方に、ユーリは鼻を鳴らしていた。
 
「ふん。ジグリールは、俺が見つける。だから、お前は黙って俺に協力すればいいんだよ」

「へーへー」

 そんな軽口を叩いていた二人は、仕留めた二匹の熊をそれぞれ担いで村に戻ったのだった。
 ちなみに、二匹の熊はすでに血抜きがされており、村に食料として二人は提供したのだった。
 
 熊を村長に渡したユーリとオーエンは、昨日は見て回れなかった場所を見るために、村長に書いてもらった村の案内図に従って、ゆっくりとした足取りで周囲を見渡していた。
 案内図の一番端に書かれた、魔女様の魔法薬店の文字に目を引かれたユーリは、オーエンを連れてそこに向かったのだ。
 しかし、留守なのか、店の扉は施錠がされていた。
 店の裏手に周っても見たが、人の気配はなかったことに、ユーリは内心がったりしたのだ。
 ユーリの探し人は、金の髪と碧眼の少女だから、話に聞く魔女様とは別人だとは理解していたが、その目で確かめたかったのだ。
 そんなユーリの心を読んだかのように、オーエンは言ったのだ。
 
「残念。留守みたいだな。まあ、そのうち会えるだろうから、今日のところは戻ろう」

「べ、別に……。はぁ……。そう……だな。会ってみたかったよ。魔女様ってやつに」

「お前なぁ……。そうやって、気持ちを誤魔化したり、隠そうとするから……。って、こっちに向かってくるのって、噂の魔女様か?」

 オーエンが、ユーリに説教じみたことを言っている時だった。
 少し先から、楽しそうな声が聞こえてきたのだ。
 
「お花畑、綺麗だったね」

「うん! ぴんくのおはな、かわいい!」

「そうだね。また、お弁当持ってピクニックに行こうね」

「うん!!」

 遠目に見えるのは、小さな子供を抱きかかえた灰色の髪をした少女だった。

 イヴァンを抱きかかえたジグは、店先に二人の騎士が経っているのに途中で気が付いたようで、立ち止まり怪訝そうな表情をしていた。
 そして、ジグとイヴァンの声でこちらを振り返った二人の騎士の姿を見て、目を大きく見開いた後に後退り、走り出していたのだ。
 
 ユーリはというと、ジグが走り出す前に大声をあげて駆け出していた。 
 
「ジグリール!!」

 ユーリの声にジグは、肩を震わせてからゆっくりとスピードを落としていた。
 そして、立ち止まったジグに追いついたユールは、震える声で確かめるように問いかけたのだ。
 
「ジグリール……。元気だったか?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ@ざまされ書籍化決定
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子

深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……? タイトルそのままのお話。 (4/1おまけSS追加しました) ※小説家になろうにも掲載してます。 ※表紙素材お借りしてます。

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。

婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される

白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?

処理中です...