異世界に転移したけど、パーティーメンバーが全員総受けってことは僕が攻めればいいんだよね?

バナナマヨネーズ

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第十話 守りたい

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 それから、あっという間に周囲は血の海となっていた。
 僕は、惨状に少しだけ頭痛を感じながらも、戦闘を終わらせた一生に怪我がないか確認していた。
 
「一生……。大丈夫だとは思うけど、怪我は?」

「俺は大丈夫だ。俺よりも、陽騎は大丈夫か? スキルで周囲の魔物を全部釣ったはずだけど」

「僕は大丈夫……って、は? スキルで魔物を釣った?」

「あっ……。てへ」

 一生は一瞬、不味ったといった表情をした後に、小さく舌を出してイケメンスマイルで誤魔化そうとした。
 だけどそれに引っ掛かる僕ではなかった。
 僕は、一生の胸ぐらを掴んでその体を大きく揺さぶっていた。
 
「どういうことだ? 説明しろ?」

「えっと、俺の持っているスキルに【咆哮】っていうのがあって。それを使うと、周囲の敵を俺に全部引き付けることが出来るんだ」

「この馬鹿! なんて危ない真似するんだよ!!」

 僕がそう言って、一生の頭をぽかりと殴ると何故か一生のやつは嬉しそうに頭をさすっていた。
 それを見た僕の感想は、「えっ?こいつ大丈夫か?」だったが、敢えてそれを口にはしなかった。
 
 その代わりに、僕は盛大な詰め息を吐いていた。
 それを見た一生は、慌てたように言い訳を始めたのだ。
 
「大丈夫。ほら、俺って強かったでしょ? 風魔法を刀状に固定して、切れ味抜群の武器もあるし! それに、誰も怪我しなかったから結果オーライってことで……」

 無言で睨みつけていたけど、一生は「もうしない」とは絶対に言わなかった。
 
「俺は、陽騎を守りたかったんだよ。お前が大切だからお前に傷一つ付けたくなかったんだよ」

 そう言って一生は、僕のことを真剣な表情で見下ろしてきた。
 両肩を強い力で掴まれて、その力強さに一生の真剣さは十分伝わった。だけど、僕にだって言い分はある。
 僕にとっても一生は大切な親友だ。僕だって一生を守りたいのは同じだ。
 だから僕も真剣な顔で一生に言った。
 
「僕だって大切な親友を守りたいのは一緒だ。もう無茶はしないでくれ。頼むよ」

「親友…………はぁぁぁ。陽騎……。そう思ってくれるのは凄くうれしい。だけど、これだけは譲れない。これからも俺は、陽騎を守るために体を張る。敵の攻撃は全部俺が防いで俺が戦う」

 ぐぬぬ。一生は、一度こうだと決めたらそれを曲げない。
 それなら……。
 
「分かった。それなら、こうしよう。これからもお前が敵を引き付けろ。でも、一生に引き付けられた敵は僕が倒す」

「駄目だ」

「無理だ。お前が総受けで、僕が総攻め。これで決まりだ」

 僕がそう提案すると、一生は凄く複雑そうな顔になってから小さくぶつぶつと何かを言っていたが無視だ無視。
 一生の要望はちゃんと聞いたんだから、僕の要望も通すってもんが筋だ。
 
「俺が、総受け……。確かに間違っていないけど、間違っている……。言い方?そうだ、言い方が悪いんだ。うん、そうだ。俺は受けじゃない。俺は攻めだ。攻めなんだ」

 一人ぶつぶつと言っている一生は放っておいて、僕は討伐したコボルトをどうしようかと頭を悩ませていた。
 今回の依頼はコボルトの牙の収集だ。
 血まみれで、更にはグロテスクに内臓を晒しているコボルトからさらに牙を取るなんてちょっと無理そうだった。
 モザイク必死のグロテスクな光景に少しだけ涙目になっていると、ようやく独り言を終了させた一生が僕に抱き着いてきた。
 
「陽騎、ごめん。初めてで加減できなかった……。牙以外の素材はダメそうだね。次はもっと頑張る」

 僕的にもそうしてくれると助かる。ここまでえぐいことになっている死体はあまり見たくなかった。
 依頼達成のために、無事そうなコボルトの牙を手分けして集めた後に、死体を一か所に集めて火魔法で焼いてから、土魔法で埋めて処理した。
 
 死体の片づけが終わった後、僕は戦闘よりも後処理の方が大変なのではと思いつつも、今日はさすがに風呂に入りたくなっていた。
 だけど、それは無理そうだったので、重い足を引きずりながら一生と共に街に戻ったのだった。

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