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本編

第八章 欠陥姫の嫁入り(5)

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 診断が終わって、体に異常が無いと分かった後にミリアリアは、身支度をして部屋のソファーに座っていた。
 その場には、ジークフリートとシューニャ、セドルが同席していた。

 ミリアリアは、ジークフリートたちに向かって、恥ずかしそうにしながら自分の中の考えを語ったのだ。
 何故、ロッサで死なずに済んだのか。
 そして、心がどうして戻ったのかを。
 
「えっと。わたしが飲んだ呪毒は、恐らく神経を麻痺させるタイプのものだったと推測します。本来であれば、体中の自由を奪う程の強力な効果があるんです。ですが、わたしは視力と声だけで済んだのは、生成過程で何か不備があったと考えています。不完全な呪毒だったため、この程度で済んだのだと……」

 ミリアリアが推測した通り、使用された呪毒は麻痺毒がベースの呪毒だった。
 正しい方法で生成されていた場合、徐々に体の自由を失い、最終的には死に至ったはずなのだ。
 
 そもそも呪毒とは、あらゆる毒の効果を何倍にも増幅させて更にその効果を永続させるものなのだ。ベースになる毒が弱い物だったとしても、それが何倍にもなって永続的に続くとなれば話は変わってくる。
 だからこそ、呪毒は恐ろしい毒物なのだ。
 しかし、メローズ王国で古代文字を理解できるものが減っていく中で、古代技術である呪毒の知識も失われつつあった結果が、不完全な呪毒の生成に繋がったのだった。

 ミリアリアは、一呼吸置いて話を続けた。

「ロッサについても同じことが考えられます。呪毒が本来の効果を発揮していた場合、ロッサとの化学反応で、体中の全ての機能が停止していたはずです。不完全な呪毒だったとしても、効果が薄すぎなことから、正しい手順での栽培がされず、本来の効果が出なかったのだと思います。それでも、ロッサ本体ではなく、僅かな花粉と香りだけだったため、心を無くす程度で済んだのだと思います」

 そう言った後に、隣に座るジークフリートをちらりと恥ずかしそうに見た後に続けたのだ。
 
「それと、心が戻ったのは、リートさまのお陰なんです……。呪毒は、一度飲んだら解毒は出来ないですが、解呪は可能なんです……。その方法は……、愛する人からの……」

 そこまで言ったミリアリアは、指先を合わせてもじもじとさせた後に、口をパクパクとさせていたのだ。
 それを見た、シューニャとセドルもそんなミリアリアを可愛いと思っていたが、ジークフリートのデロデロを隠しきれない表情を見て、セドルは、口を噤んだのだ。
 しかし、敢えて空気を読まなかったシューニャがジークフリートを揶揄うように言ったのだ。
 
「愛する人からの……。ま、まさか……」

 多少棒読みになりながらそう言って、にやにやとした表情で左手の親指と人差し指で作った丸に右手の人差し指を抜き差しするポーズを取ったのだ。
 それを見たミリアリアは、首を傾げて同じように左手で作った丸に右手の人差し指を抜き差ししようとしてジークフリートに止められていた。
 なんのことだか分かっていないミリアリアは、ジークフリートを見上げて質問していた。
 
「シューニャの取ったハンドサインは、どのような意味なのですか? すごく気になります。教えてください。何かを出し入れするということは分かったのですが……」

「ハンドサイン……。いや、あれはだな。ミリアリアは、知らなくていいものだ」

「どうしてですか? わたしは知りたいです。わたし以外、みなさん知っているみたいですし……。お願いです。教えてください」

 そう言って瞳を輝かせるミリアリアは、ジークフリートにぐっと近寄って教えてと迫ったのだ。
 それを見たジークフリートは、苦し気に言ったのだ。
 
「ひ、人前で話せない内容なのだ……」

 苦しい言い訳だと分かっていても、ジークフリートにはこう言う以外に方法が無かったのだ。
 そんな、苦し気なジークフリートを見たミリアリアは、何かを察したように言ったのだ。
 
「分かりました。それなら、二人っきりの時に教えてください。大丈夫です。リートさまが恥ずかしがるようなお話しだって、わたしは聞きたいです。わたしは、リートさまのこと、もっと知りたいです」

 言い淀むジークフリートを見たミリアリアは、ジークフリートに関する恥ずかしい話だと勘違いしてしまっていた。
 そのため、ジークフリートの両手を握って励ますように言ったのだ。
 それを見たシューニャは、大爆笑をして、セドルは、肩を小さく揺らしただけだったが、横目でそれを見ていたジークフリートは、射殺さんばかりにそんな二人を見ていたのだった。
 二人を睨みつけたジークフリートは、ため息を吐いた後に艶っぽい表情でミリアリアにだけ聞こえる声で言ったのだ。
 
「分かった。それなら、今すぐには無理だが、その時が来たら教えるよ。たっぷり、丁寧に……」

 色気のある低い声を聴いたミリアリアは、ドキリとした胸を押さえてから、もしかしてとんでもないことを言ったかもしれないと思ったものの、大人の色気を振り撒くジークフリートに見つめられると何も考えられなくなってしまい、最終的にはトロンとした瞳で頷いていたのだった。
 
「は…はい。その時が来たら、よろしくお願いします。リートさま……」


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