16 / 36
第二章④
しおりを挟む
出店の制覇を終えた俺とギネヴィアは、果実水を片手に広場のベンチに座って休憩することにした。
今は、短い夏の終わりの時期で、過ごしやすい気温ではあった。しかし、その日は珍しく強い日差しが差し込んでいたため、少しの暑さを感じていた。
ギネヴィアは、俺の持っていた果実水に手をかざして簡単な魔術を施行してくれた。
「はい。冷たくて果実水がもっと美味しくなる魔法を掛けたわよ」
そう言って微笑むギネヴィアの可憐さに俺は胸が張り裂けてしまいそうだった。
今日の装いは、動きやすいワンピースと日差しをよけるための帽子を身に着けていた。
普段は下ろしている美しい髪は、ツインテールに結ばれており、いつもは見ることのできない華奢な首筋と項が露わになっていた。
可愛らしすぎる俺の妻が愛おしすぎて、生きていてよかったと実感する。
そんなことを思いつつ、のんびりと祭りを楽しむ人たちを見つめるギネヴィアをこっそり見ていると、ギネヴィアに袖を引かれた。
「ようやく、ここまで発展させられました。旦那様今までわたしの突拍子もない思い付きを受け入れてくれてありがとうございます。旦那様がいなければこう上手くはいかなかったと思います」
「いや、俺なんて何もしていないも同然だ。すべてはギネヴィアの努力と、領民を思うその優しい心のお陰だ」
俺が本気でそう言うと、ギネヴィアは困ったように眉を寄せてから下を向いてしまった。
一瞬、泣いてしまいそうに見えたギネヴィアを考える前に抱き寄せていた。
「領民だけじゃない。ダンたち家臣たちも、もちろん俺も、ギネヴィアにとても感謝しているんだ。それだけじゃない。俺は、ギネヴィアが一緒に北部に来てくれて、妻になってくれてとても嬉しかった。こんな俺をひとりの人間として見てくれて、傍にいることを許してくれた……」
生まれた瞬間に両親に捨てられた俺を人として見てくれたのはギネヴィアが二人目だった。
最初は、初めて俺を人として見てくれたあの子の面影と無意識に重ねていた。
だけど、いつの間にかギネヴィアを通してあの子を見ることはしなくなっていた。
触れることもかなわなかった初恋を忘れた訳ではない。
ギネヴィアを思う気持ちが、あの子を思う気持ちよりも大きくなって気が付けば恋に落ちていた。
きっかけなんて覚えてはいなかった。
気が付いた時にはギネヴィアが好きで、大切で、愛していた。ただそれだけだ。
だから、誰よりもギネヴィアの努力を知っている俺が、ギネヴィアの努力を認めて褒めなければならないのだ。
なぜかギネヴィアは、自分の評価が極端に低かった。
そんなギネヴィアを俺は誰よりも認めて、褒めて、自信を持っていいのだと、そう言ってあげたかった。
君は凄いことをやってのけたのだと、そうギネヴィアに伝わるように、その紫の瞳をじっと見つめて言葉を紡ぐ。
「ギネヴィア。ありがとう」
戸惑いに揺れる瞳が美しくて、きゅっと結ばれた小さな唇が甘そうで……。
つい本音が口をついて出た。
「キスしてもいいだろうか?」
「はい?」
……。これはどっちの意味だろうか? 肯定の意味の方だろうか? それとも意味が分からず聞き返している方だろうか?
そう考えたのは本当に一瞬にも満たない時間だった。
陽が傾き、オレンジ色の光が俺とギネヴィアを照らした次の瞬間だった。
ギネヴィアがぎゅっと目を瞑ったのを俺は見逃さなかった。
ちゅっ。
柔らかい。
ちゅっ。
甘い。
短く、触れるだけのキスを二回。
初めてのキスは、甘くて癖になりそうだと思った。
だけど……。
ギネヴィアの表情を見て、指先が冷たくなるのを感じた。
瞳に涙を溜めたギネヴィアが、震える声で言ったのだ。
「ごめん……」
それだけを呟くように言ったギネヴィアは、俺を振り向くこともなくその場から走り去ってしまった。
その場に残された俺は、差し込んだ西日の眩しさに目を瞑ってから、何がいけなかったのかを理解して、死にたくなった……。
だが、ここで死んでもどうにもならない。
俺は、すぐにギネヴィアの後を追って走り出していた。
今は、短い夏の終わりの時期で、過ごしやすい気温ではあった。しかし、その日は珍しく強い日差しが差し込んでいたため、少しの暑さを感じていた。
ギネヴィアは、俺の持っていた果実水に手をかざして簡単な魔術を施行してくれた。
「はい。冷たくて果実水がもっと美味しくなる魔法を掛けたわよ」
そう言って微笑むギネヴィアの可憐さに俺は胸が張り裂けてしまいそうだった。
今日の装いは、動きやすいワンピースと日差しをよけるための帽子を身に着けていた。
普段は下ろしている美しい髪は、ツインテールに結ばれており、いつもは見ることのできない華奢な首筋と項が露わになっていた。
可愛らしすぎる俺の妻が愛おしすぎて、生きていてよかったと実感する。
そんなことを思いつつ、のんびりと祭りを楽しむ人たちを見つめるギネヴィアをこっそり見ていると、ギネヴィアに袖を引かれた。
「ようやく、ここまで発展させられました。旦那様今までわたしの突拍子もない思い付きを受け入れてくれてありがとうございます。旦那様がいなければこう上手くはいかなかったと思います」
「いや、俺なんて何もしていないも同然だ。すべてはギネヴィアの努力と、領民を思うその優しい心のお陰だ」
俺が本気でそう言うと、ギネヴィアは困ったように眉を寄せてから下を向いてしまった。
一瞬、泣いてしまいそうに見えたギネヴィアを考える前に抱き寄せていた。
「領民だけじゃない。ダンたち家臣たちも、もちろん俺も、ギネヴィアにとても感謝しているんだ。それだけじゃない。俺は、ギネヴィアが一緒に北部に来てくれて、妻になってくれてとても嬉しかった。こんな俺をひとりの人間として見てくれて、傍にいることを許してくれた……」
生まれた瞬間に両親に捨てられた俺を人として見てくれたのはギネヴィアが二人目だった。
最初は、初めて俺を人として見てくれたあの子の面影と無意識に重ねていた。
だけど、いつの間にかギネヴィアを通してあの子を見ることはしなくなっていた。
触れることもかなわなかった初恋を忘れた訳ではない。
ギネヴィアを思う気持ちが、あの子を思う気持ちよりも大きくなって気が付けば恋に落ちていた。
きっかけなんて覚えてはいなかった。
気が付いた時にはギネヴィアが好きで、大切で、愛していた。ただそれだけだ。
だから、誰よりもギネヴィアの努力を知っている俺が、ギネヴィアの努力を認めて褒めなければならないのだ。
なぜかギネヴィアは、自分の評価が極端に低かった。
そんなギネヴィアを俺は誰よりも認めて、褒めて、自信を持っていいのだと、そう言ってあげたかった。
君は凄いことをやってのけたのだと、そうギネヴィアに伝わるように、その紫の瞳をじっと見つめて言葉を紡ぐ。
「ギネヴィア。ありがとう」
戸惑いに揺れる瞳が美しくて、きゅっと結ばれた小さな唇が甘そうで……。
つい本音が口をついて出た。
「キスしてもいいだろうか?」
「はい?」
……。これはどっちの意味だろうか? 肯定の意味の方だろうか? それとも意味が分からず聞き返している方だろうか?
そう考えたのは本当に一瞬にも満たない時間だった。
陽が傾き、オレンジ色の光が俺とギネヴィアを照らした次の瞬間だった。
ギネヴィアがぎゅっと目を瞑ったのを俺は見逃さなかった。
ちゅっ。
柔らかい。
ちゅっ。
甘い。
短く、触れるだけのキスを二回。
初めてのキスは、甘くて癖になりそうだと思った。
だけど……。
ギネヴィアの表情を見て、指先が冷たくなるのを感じた。
瞳に涙を溜めたギネヴィアが、震える声で言ったのだ。
「ごめん……」
それだけを呟くように言ったギネヴィアは、俺を振り向くこともなくその場から走り去ってしまった。
その場に残された俺は、差し込んだ西日の眩しさに目を瞑ってから、何がいけなかったのかを理解して、死にたくなった……。
だが、ここで死んでもどうにもならない。
俺は、すぐにギネヴィアの後を追って走り出していた。
6
あなたにおすすめの小説
君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。
みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。
マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。
そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。
※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓
あなたに嘘を一つ、つきました
小蝶
恋愛
ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…
最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
婚約者を妹に譲ったら、婚約者の兄に溺愛された
みみぢあん
恋愛
結婚式がまじかに迫ったジュリーは、幼馴染の婚約者ジョナサンと妹が裏庭で抱き合う姿を目撃する。 それがきっかけで婚約は解消され、妹と元婚約者が結婚することとなった。 落ち込むジュリーのもとへ元婚約者の兄、ファゼリー伯爵エドガーが謝罪をしに訪れた。 もう1人の幼馴染と再会し、ジュリーは子供の頃の初恋を思い出す。
大人になった2人は……
【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました!
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です
ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる