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12 家族
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ティーゼリラが覚悟を決めた翌日、以前のように朝から湯あみをし身支度を整えてから食堂に向かう。
五年ほど部屋に籠って怠惰な日々を送っていたティーゼリラは、懐かしく感じる食堂を見まわした。
できるだけ家族全員で食事をすることを父王が望んでいたため、都合の付く者は朝食の席に顔を出すようになっていた。
まだ、朝食には早い時間のため誰もいない。
ティーゼリラの登場に、給仕たちは嬉しそうな表情を浮かべていた。
給仕たちに引き籠る前のように挨拶をしてからテーブルの上を見る。
準備されているカトラリーの数を見て、朝食の席に顔を出すだろう人を頭に思い浮かべる。
カトラリーの数は全部で八つ。
末の弟は不参加と考えてもあと一人が分からない。
そんなことを考えている間に、朝食の間に人の気配がしてきていた。
入り口に視線を向けると、カウレスにエスコートされたソフィエラがやってくるのが見えた。
それを見たティーゼリラは、笑顔で二人に近づいていた。
「ソフィー、おはよう! カウレス兄様もおはようございます」
ソフィエラとついでとばかりにカウレスにも挨拶をする。
身支度を完璧に整えた妹を見たカウレスは、ティーゼリラが何か吹っ切れた様子なのをすぐに理解した。
そして、やれやれといったように肩を少しだけすくめたが、特に何かを言うことはなかった。
ただし、ティーゼリラとソフィエラが互いの頬にキスをしながら抱きしめあっているのを見て瞬時に愛するソフィエラを抱き寄せていた。
それくらいの触れ合いで兄が嫉妬しているということが分かってしまったティーゼリラは、少し頬を膨らませてからカウレスに文句を言う。
「カウレス兄様、そんなに心が狭くてはソフィーが息苦しいと思いますけど?」
昔からソフィエラ一筋の兄の執念深いところを知っているティーゼリラは、呆れたようにそう言ったが、当人であるカウレスはどこ吹く風。
鼻を鳴らしてから、久しぶりに顔を合わせる妹の形のいい鼻を摘んで説教をするように言ったのだ。
「ふん。お前に言われる筋合いはないぞ。お前だって相当だろうが? それよりも、今までサボっていた分働いてもらうからな?」
「わたしなんてカウレス兄様に比べたら可愛いものです。ふう。分かっています。これからはきちんと務めを果たすので、わたしの行動には何も言わずに黙認してくれると嬉しいです」
にこりと微笑んでそう言ったティーゼリラを見たカウレスは、流石兄とい言ったところだろう。何も言われなくても、これからティーゼリラが起こすであろう行動を完璧に予測できてしまっていた。
しかし、敢えてそれを口にするカウレスではなかった。
ニヤリと笑ってから、ソフィエラの細い腰をぐっと抱き寄せて一言だけ忠告をする。
「まぁ、がんばれとだけ言っておく。だが、やりすぎは良くない。相手がヘタレだったとしても相手は草食動物の皮を被ったオオカミなのだからな。逆に食べられないようにな」
「大丈夫です。そんなヘマ犯しませんし、ありえません」
ティーゼリラの謎の自信に満ちた発言に内心、「いくらヘタレのあいつでも侮りすぎだぞ……」と心配しつつも、言っても聞きはしないだろうと分かっていたカウレスは、妹とその思い人のこれからを考えて溜息を吐くのだった。
そうこうしていると、スイーティオにエスコートされたレインもやってきて、朝食の間は賑やかになっていた。
久しぶりに朝食の席に姿を現したティーゼリラの姿を見た父王は大喜びをしたのは言うまでもなかった。
そして、最後に朝食の間に現れたのはティーゼリラが予想しなかった人物だった。
それは、末の弟のアルティス・エレメントゥム・アメジシストの姿だった。
体が丈夫ではないという理由で、兄弟の中で唯一離宮で静かに暮らしていたはずの弟の姿にティーゼリラは目を丸くしていた。
プラチナブロンドの髪はサラサラで、金色の大きな瞳と相まってお人形のようだった。
ただし、今年十三歳になるにしては小さく華奢で、少しでも乱暴に触れてしまえば壊れてしまいそうな儚さが漂っていた。
まさに、妖精のような容姿にティーゼリラが見惚れてしまっていると、アルティスがそれに気が付きにこりと微笑んできた。
それに胸がきゅんとしたティーゼリラは、思わず可愛い弟に抱き着いていた。
「アルティス、久しぶりね。わたしが分かる? ティーゼリラよ」
ぎゅっと抱きしめつつそう言うティーゼリラに対して、アルティスは、まだ声変わり前の可愛らしい声で返した。
「はい。ティーゼリラ姉上、お久しぶりです」
「はうぅ。わたしの弟が可愛い! この柔らかさ、癖になるわ」
そう言って、頬をすりすりとしているとアルティスがくすぐったそうに笑う。
その様子は、その場にいたすべての人間に可愛らしい触れ合いに見えて、全員がほんわかとした気持ちになっていた。
ティーゼリラはこうして、新たな一歩を踏み出したのだった。
五年ほど部屋に籠って怠惰な日々を送っていたティーゼリラは、懐かしく感じる食堂を見まわした。
できるだけ家族全員で食事をすることを父王が望んでいたため、都合の付く者は朝食の席に顔を出すようになっていた。
まだ、朝食には早い時間のため誰もいない。
ティーゼリラの登場に、給仕たちは嬉しそうな表情を浮かべていた。
給仕たちに引き籠る前のように挨拶をしてからテーブルの上を見る。
準備されているカトラリーの数を見て、朝食の席に顔を出すだろう人を頭に思い浮かべる。
カトラリーの数は全部で八つ。
末の弟は不参加と考えてもあと一人が分からない。
そんなことを考えている間に、朝食の間に人の気配がしてきていた。
入り口に視線を向けると、カウレスにエスコートされたソフィエラがやってくるのが見えた。
それを見たティーゼリラは、笑顔で二人に近づいていた。
「ソフィー、おはよう! カウレス兄様もおはようございます」
ソフィエラとついでとばかりにカウレスにも挨拶をする。
身支度を完璧に整えた妹を見たカウレスは、ティーゼリラが何か吹っ切れた様子なのをすぐに理解した。
そして、やれやれといったように肩を少しだけすくめたが、特に何かを言うことはなかった。
ただし、ティーゼリラとソフィエラが互いの頬にキスをしながら抱きしめあっているのを見て瞬時に愛するソフィエラを抱き寄せていた。
それくらいの触れ合いで兄が嫉妬しているということが分かってしまったティーゼリラは、少し頬を膨らませてからカウレスに文句を言う。
「カウレス兄様、そんなに心が狭くてはソフィーが息苦しいと思いますけど?」
昔からソフィエラ一筋の兄の執念深いところを知っているティーゼリラは、呆れたようにそう言ったが、当人であるカウレスはどこ吹く風。
鼻を鳴らしてから、久しぶりに顔を合わせる妹の形のいい鼻を摘んで説教をするように言ったのだ。
「ふん。お前に言われる筋合いはないぞ。お前だって相当だろうが? それよりも、今までサボっていた分働いてもらうからな?」
「わたしなんてカウレス兄様に比べたら可愛いものです。ふう。分かっています。これからはきちんと務めを果たすので、わたしの行動には何も言わずに黙認してくれると嬉しいです」
にこりと微笑んでそう言ったティーゼリラを見たカウレスは、流石兄とい言ったところだろう。何も言われなくても、これからティーゼリラが起こすであろう行動を完璧に予測できてしまっていた。
しかし、敢えてそれを口にするカウレスではなかった。
ニヤリと笑ってから、ソフィエラの細い腰をぐっと抱き寄せて一言だけ忠告をする。
「まぁ、がんばれとだけ言っておく。だが、やりすぎは良くない。相手がヘタレだったとしても相手は草食動物の皮を被ったオオカミなのだからな。逆に食べられないようにな」
「大丈夫です。そんなヘマ犯しませんし、ありえません」
ティーゼリラの謎の自信に満ちた発言に内心、「いくらヘタレのあいつでも侮りすぎだぞ……」と心配しつつも、言っても聞きはしないだろうと分かっていたカウレスは、妹とその思い人のこれからを考えて溜息を吐くのだった。
そうこうしていると、スイーティオにエスコートされたレインもやってきて、朝食の間は賑やかになっていた。
久しぶりに朝食の席に姿を現したティーゼリラの姿を見た父王は大喜びをしたのは言うまでもなかった。
そして、最後に朝食の間に現れたのはティーゼリラが予想しなかった人物だった。
それは、末の弟のアルティス・エレメントゥム・アメジシストの姿だった。
体が丈夫ではないという理由で、兄弟の中で唯一離宮で静かに暮らしていたはずの弟の姿にティーゼリラは目を丸くしていた。
プラチナブロンドの髪はサラサラで、金色の大きな瞳と相まってお人形のようだった。
ただし、今年十三歳になるにしては小さく華奢で、少しでも乱暴に触れてしまえば壊れてしまいそうな儚さが漂っていた。
まさに、妖精のような容姿にティーゼリラが見惚れてしまっていると、アルティスがそれに気が付きにこりと微笑んできた。
それに胸がきゅんとしたティーゼリラは、思わず可愛い弟に抱き着いていた。
「アルティス、久しぶりね。わたしが分かる? ティーゼリラよ」
ぎゅっと抱きしめつつそう言うティーゼリラに対して、アルティスは、まだ声変わり前の可愛らしい声で返した。
「はい。ティーゼリラ姉上、お久しぶりです」
「はうぅ。わたしの弟が可愛い! この柔らかさ、癖になるわ」
そう言って、頬をすりすりとしているとアルティスがくすぐったそうに笑う。
その様子は、その場にいたすべての人間に可愛らしい触れ合いに見えて、全員がほんわかとした気持ちになっていた。
ティーゼリラはこうして、新たな一歩を踏み出したのだった。
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