引き籠りでニートなプリンセスは地味でデブな幼馴染に恋をする?

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
上 下
5 / 15

05 幼馴染の帰還

しおりを挟む
「ティーゼリラ姫、ディーが戻ってくるわ」

 その言葉を聞いた瞬間、嬉しさと恐怖が同時にティーゼリラを襲っていた。
 表情を曇らせるティーゼリラに気が付いたイクストバルは、そっと近づいてその足元に跪いた。
 そして、見上げるようにしてティーゼリラの不安に揺れるハニーブロンドの瞳を覗き込んだ。
 何を不安に思っているのか察しがすぐについたイクストバルは、砕けた調子で、ティーゼリラを安心させるように言った。
 
「大丈夫よ。何も心配することはないわ。ちょっと……驚くことはあると思うけど。大丈夫よ。あたしもいるし、レイン様たちもいるわ」

 そう言って、イクストバルは、笑顔を見せた。
 昔は、格好つけで調子のいいヤンチャな男だった。そんなイクストバルもいつか運命の相手と結ばれたいと夢見るロマンチストな一面を持っていたことをティーゼリラは知っていた。そして、イクストバルは、紳士的な素敵な男となり、沢山の女性たちから熱い視線を向けられるようになったと思っていた。だが、ある日、何の前触れもなくおねえになっていた、そんな謎に満ちた幼馴染に励まされたティーゼリラは意を決して口を開いていた。
 
「うん。わかった。わたし、当分部屋にこもるから。ディー……のことは頼んだわよ」

「うん……ん? え? な、なんて? あたしの聞き間違いかしら?」

「ううん。聞き間違いじゃないよ。ディーに会うなんて無理だから!」

 そう言ったティーゼリラは、ばっと立ち上がったと思ったら、そのままベッドに潜り込んでしまったのだ。
 それを見たイクストバルは、「あらら」と言うだけで、無理にベッドから出そうとはしなかった。
 代わりに、優しい言葉を残して、ソフィエラたちを連れて部屋を出て行ったのだ。
 
「分かったわ。少しだけ時間を作るから、ちゃんと考えるのよ」

 誰もいなくなった部屋でティーゼリラは、自分がどうしたいのか考えていた。
 もし、可愛らしい彼女をディーディラインが連れてきたら、もし、ディーディラインが今のティーゼリラを見てがっかりした表情を浮かべたら……。
 ネガティブなことしか考えられないでいたティーゼリラは、とりあえず身だしなみを整えることから始めることにした。
 最近は、一日おきに風呂に入るようになっていたが、寝間着とぼさぼさの頭でだらしない格好に変わりはなかった。
 
 部屋にしつらえられている浴室に向かい、バスタブに湯を溜めながらぼんやりと考える。
 ディーディラインが留学先に旅立ってからから五年。
 きっと今もぽよぽよで可愛らしいディーディラインなのだろうと想像を膨らます。
 ディーディラインなら、今のだらしないティーゼリラを見ても「仕方ないですね」と言って許して受け入れてくれるかもしれないという思いと、だらしない自分を見て呆れて離れて行ってしまうかもしれないと言う考えで頭がぐるぐるになっていった。
 
 それでも、溜まった湯に浸かっているうちに、どうにかなる気がしてきたティーゼリラは、意を決して身支度を開始した。
 しかし、今まで寝間着か、それに近いシンプルなドレスしか身に着けていなかったため、いざおめかししようとしても途方に暮れることとなったのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

処理中です...