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第二章 意味のない祈りと偽物聖女④
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サラが執務室から去った後、教皇は一人の神官にあることを命じていた。
命じられた神官も前もってその話を聞かされていたようで、特に戸惑うこともなく執務室を後にしていた。
部屋に残っていた教皇に、真の聖女と呼ばれた女性が声を掛けた。
「本当にあの子を始末できるの?」
「問題ありませんよ。死体が見つかると面倒なので、いつもの場所に投げ捨てれば問題はありません」
「ふ~ん。ところで、私の王子様は?」
「はぁ……。またその話ですか?」
「だって、私はこの物語のヒロインなのよ? それに推しの王子様とハッピーエンドになるためにあの子が邪魔なんだもの。それで、私の王子様は見つけてくれたんだよね?」
真の聖女と呼ばれた女性、マリエッタ・シュノアはそう言って美しい顔をうっとりとしたものに変えた。
「はぁぁ。早くお会いしたいわ。私のランドールさまぁ」
「アレのどこが王子なのだか……。ただの荒くれものとしか私には思えませんがね?」
「失礼なこと言わないで! ランドールさまは、ヒロインである私の王子様なんだから!!」
教皇は、マリエッタに頭のおかしい人物を見るかのような視線を向けたのは一瞬だった。
それを全く表に出さない教皇は、残念そうに言ったのだ。
「居場所は掴んでいますよ。ただし、今は辺境伯の元に身を寄せているのですぐに会うことは難しいでしょうね」
「そう……。辺境伯ねぇ……。まぁいいわ。先ずはイレギュラーを消すことが先よ」
そう言ったマリエッタは、とても邪悪な笑みを浮かべたが、教皇はそれをまったく気にしていなかった。
まるで、マリエッタの本性を知っていて利用しているかのような余裕の表情をするだけだった。
執務室を出た神官は、サラに与えられた部屋の前に来ていた。
部屋の前で見張りをしていた神官に声を掛けた後、部屋にノックもなしに入っていく。
ベッドで眠るサラを荷物の様に肩に担いで部屋を出た神官は、あらかじめ用意されていた馬車に乗り込む。
御者に合図を送ると、馬車は静かに走り出した。
走り始めて数時間。
馬車はとある場所で止まっていた。
そこは、王都からほど近い渓谷だった。
その渓谷は、教会にとって都合の悪い邪魔な存在を殺した後に廃棄していた場所だった。
神官は、青い顔で深く眠ったままのサラを担ぎ上げ、渓谷の端に向かった。
夢を見ていた。
ランドールに拾われて、言葉を、生き方を教えてもらった日々の幸せだったあの日のことを。
そんなことを思いながらゆっくりと意識が浮上していく。
それでも溜り溜まった疲れから、サラの意識はぼんやりとしたものだった。
いつぶりに見ただろう、空に煌めく星の数々にサラは見入った。
星のきらめきとは別に、静かに優しい光を降らせる月に視線を送った。
そして美しい灰色の髪をしたランドールを思い起こす。
恩を仇で返してしまった。
あの時、教会にさえ行かなければ……。
そう思って後悔しても、結局ランドールの命を救うにはあの薬が必要だったのだと思うと、やりきれなかった。
それでも、サラはランドールと出会い、共に過ごした時間が何よりも幸せだったと知っていた。
「ああ……。じんせいなんて……こんなものか……。はは……。でも、あそこで生きた十年よりも、教会で過ごした七年よりも、ラン兄ちゃんと過ごした一年が何よりもしあわせだったなぁ」
どこで、何を間違ってしまったのか……。
そんなことを思いながら、再び意識が沈んでいくのを分かった。
それもいいかもしれない。眠ってしまえば、死の痛みを少しでも感じずに済む。
そう考えながらこの先に待つ死を受け入れていた。
疲れすぎていて、祈力を練る力もなかった。
死を覚悟した次の瞬間だった。
懐かしい匂いを感じたが、もう目を開く力もなかった。
優しい匂いに包まれたサラは、ずっと聞きたかった声が聞こえた気がしたがそれを確かめることも出来ないまま意識は途切れてしまっていた。
「遅れてごめんな……。助けに来た。サラ」
命じられた神官も前もってその話を聞かされていたようで、特に戸惑うこともなく執務室を後にしていた。
部屋に残っていた教皇に、真の聖女と呼ばれた女性が声を掛けた。
「本当にあの子を始末できるの?」
「問題ありませんよ。死体が見つかると面倒なので、いつもの場所に投げ捨てれば問題はありません」
「ふ~ん。ところで、私の王子様は?」
「はぁ……。またその話ですか?」
「だって、私はこの物語のヒロインなのよ? それに推しの王子様とハッピーエンドになるためにあの子が邪魔なんだもの。それで、私の王子様は見つけてくれたんだよね?」
真の聖女と呼ばれた女性、マリエッタ・シュノアはそう言って美しい顔をうっとりとしたものに変えた。
「はぁぁ。早くお会いしたいわ。私のランドールさまぁ」
「アレのどこが王子なのだか……。ただの荒くれものとしか私には思えませんがね?」
「失礼なこと言わないで! ランドールさまは、ヒロインである私の王子様なんだから!!」
教皇は、マリエッタに頭のおかしい人物を見るかのような視線を向けたのは一瞬だった。
それを全く表に出さない教皇は、残念そうに言ったのだ。
「居場所は掴んでいますよ。ただし、今は辺境伯の元に身を寄せているのですぐに会うことは難しいでしょうね」
「そう……。辺境伯ねぇ……。まぁいいわ。先ずはイレギュラーを消すことが先よ」
そう言ったマリエッタは、とても邪悪な笑みを浮かべたが、教皇はそれをまったく気にしていなかった。
まるで、マリエッタの本性を知っていて利用しているかのような余裕の表情をするだけだった。
執務室を出た神官は、サラに与えられた部屋の前に来ていた。
部屋の前で見張りをしていた神官に声を掛けた後、部屋にノックもなしに入っていく。
ベッドで眠るサラを荷物の様に肩に担いで部屋を出た神官は、あらかじめ用意されていた馬車に乗り込む。
御者に合図を送ると、馬車は静かに走り出した。
走り始めて数時間。
馬車はとある場所で止まっていた。
そこは、王都からほど近い渓谷だった。
その渓谷は、教会にとって都合の悪い邪魔な存在を殺した後に廃棄していた場所だった。
神官は、青い顔で深く眠ったままのサラを担ぎ上げ、渓谷の端に向かった。
夢を見ていた。
ランドールに拾われて、言葉を、生き方を教えてもらった日々の幸せだったあの日のことを。
そんなことを思いながらゆっくりと意識が浮上していく。
それでも溜り溜まった疲れから、サラの意識はぼんやりとしたものだった。
いつぶりに見ただろう、空に煌めく星の数々にサラは見入った。
星のきらめきとは別に、静かに優しい光を降らせる月に視線を送った。
そして美しい灰色の髪をしたランドールを思い起こす。
恩を仇で返してしまった。
あの時、教会にさえ行かなければ……。
そう思って後悔しても、結局ランドールの命を救うにはあの薬が必要だったのだと思うと、やりきれなかった。
それでも、サラはランドールと出会い、共に過ごした時間が何よりも幸せだったと知っていた。
「ああ……。じんせいなんて……こんなものか……。はは……。でも、あそこで生きた十年よりも、教会で過ごした七年よりも、ラン兄ちゃんと過ごした一年が何よりもしあわせだったなぁ」
どこで、何を間違ってしまったのか……。
そんなことを思いながら、再び意識が沈んでいくのを分かった。
それもいいかもしれない。眠ってしまえば、死の痛みを少しでも感じずに済む。
そう考えながらこの先に待つ死を受け入れていた。
疲れすぎていて、祈力を練る力もなかった。
死を覚悟した次の瞬間だった。
懐かしい匂いを感じたが、もう目を開く力もなかった。
優しい匂いに包まれたサラは、ずっと聞きたかった声が聞こえた気がしたがそれを確かめることも出来ないまま意識は途切れてしまっていた。
「遅れてごめんな……。助けに来た。サラ」
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