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第二章 意味のない祈りと偽物聖女①

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 教会によって聖女と認定された日から、サラは心が休まる日が訪れることはなかった。
 ランドールに薬を飲ませた後、教会で依頼をこなしてすぐに戻るつもりだった。
 しかし、教会はそれを許そうとはしなかった。
 最初は、譲ってもらった万能薬がそれほどの物だったのだと理解し、教会の依頼に渋々応えたのだ。
 しかし、教会は最初からサラを逃がす気などなかったのだ。

 教会は、サラに強いたのだ。
 
 ある日は、どこぞの領地で悪天候が続いているから祈りを捧げてくれ。
 またある日は、どこぞの領地で病が流行っているから祈りを捧げてくれ。
 そしてまたある日は、王族が誰それが怪我をしたから早く治る様に祈りを捧げてくれ。
 
 祈ることに何の意味があるのか、祈ったところで何が起こるというのか。
 答えは……全部無意味。
 サラにそんな力なんて存在しないことを誰よりもサラ自信が理解していた。
 確かにあの日、天から光が差したのは事実だ。
 しかも建物の中というあり得ない場所で。
 
 しかし、それだけだった。
 何か特別な力が与えられたわけでもなく、ただ天から光が差して、石板に名前が刻まれただけ。
 それがサラの中でのあの日のすべてだった。
 
 それでも、一つだけあの日を境に取り戻したものもあった。
 失ったはずの祈力きりょく
 しかし、祈力を取り戻したからと言って、何か特別なことが出来るわけでもなかった。
 出来ることは、空を覆うような歪な結界を修復することだけだ。
 それでも、教会にいる誰もサラには見えている醜く歪に広がる結界に気が付いていなかった。
 教皇さえもだ。
 だから、空に見える結界はそれほど重要なものではないのだろすぐに結論が出た。
 それでも、ボロボロの結界を放置するのはなんとなく居心地が悪かったのだ。
 体に染みついてしまった習慣なのか、目に見える範囲で修復をしてしまう。
 
 それは、祈りで何ももたらすことのできなサラの精一杯の成果だった。
 誰にも知られることのない、それでも何かをなしたと思える、サラの心を支える成果だ。
 
 
 そうでもしないと、サラは心が苦しくて仕方なかった。
 教会に訪れる人々は、教会が掲げる聖女という神輿が張りぼてなどという事実は知らないのだから。
 だからこそ、聖女様とサラを崇めるのだ。
 
 しかし、サラが何の成果も出せていないことは教会内では有名なことだった。
 だからだろう。
 サラは教会内で一人ぼっちだった。
 それでも、常に監視の目は付きまとった。
 逃げることなどしないと分かり切っているはずなのに、常に数人の神官がサラの身の回りを監視しているのだ。
 
 
 それでもサラは教会を信じるしかなかったのだ。
 ランドールの命を握られている状態で自分だけ逃げるなんて出来なかった。
 
 
 
 あの日、ランドールに万能薬を飲ませて教会に戻ったサラは、教皇に連れられて祈祷部屋と呼ばれる場所に連れて行かれていた。
 
 そこは、教会本部の最深部の一室で、小さな窓と不思議なレリーフが置かれていた。
 レリーフには、見たこともない文字で何かが書かれていた。
 その他にも絵のようなものが彫られていたようではあったが、古いものらしく擦れていてはっきりとは見て取ることは出来なかったが、蛇のようなものがうっすらと見て取れた。
 
 教皇は、祈祷部屋にサラを連れてきて、優しそうに見える笑顔でこう言ったのだ。
 
「サラさん。貴女には、この場所で祈りを捧げてもらいます」

「いのり?」

「はい。やり方は特に決まっていないので、サラさんのやり易いようにしていただいて結構ですよ」

「わたしのやり方って言われても……」

「大丈夫です。貴女は、真龍ディエィソーンに選ばれた聖女なのです」

「さっきも言っていたな……。聖女とは何なんだ?」

「聖女とは……、我がディエイソ王国の安寧を祈る存在です」

「祈ってどうなるんだ?」

「祈りが真龍に届けば、国は安定します」

「真龍とはなんだ」

「建国にかかわった存在です」

 サラの質問に答えているが、教皇の答えはとても簡素でサラには、理解できなかった。
 しかし、サラは思うのだ。詳しく聞いても自分には理解できないだろうと。
 それなら、さっさと祈りとやらを捧げてランドールの元に戻ろうと、そう考えたのだ。
 
「とりあえず分かった。それでどのくらい祈りってのを捧げればいいんだ?」

 サラにそう聞かれた教皇は、少し悩んだ後とんでもないことを口にしていた。
 
「そうですね。長雨が続く地域が多いですからね……。明日の日暮れくらいまで……ですかね」

「明日の日暮れだと?!」

「はい」

「長すぎる!!」

「そうですか? 困りましたね……。そうなると、万能薬は返してもらうほかないですね……」

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