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第八話 将軍とその副官(副音声付)
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フェデュイは、自身に抱き着いてきたリリルに心臓が壊れてしまったと思う程に動揺していた。
そして、リリルの口から出た結婚という言葉に歓喜していた。
それと同時に、リリルの家のことについても思い出していたのだ。
リリルの祖父であり、先代の男爵が作ったという莫大な借金についてだ。
それは、人のいい先代男爵が友人の借金の保証人になったことから始まった。
結果的に、友人は賭け事に溺れては、更なる借金を重ねて、最後にはすべてを先代男爵に押し付けて夜逃げしたのだ。
先代男爵は、友人に裏切られたことを悲しみながらも、押し付けられた借金の返済のために家財をなげうったのだ。
しかし、もともと裕福ではなかった男爵家だったので、先代男爵の代で借金の返済は終わらなかったのだ。
結局、現在の男爵に代替わりしても借金は返しきれずに、今に至るというわけだった。
十分な資金を有するフェデュイにとっては大した額でもなかったため、リリルに言われるまでもなく、借金は肩代わりしようと思っていたのだ。
だから、即座に返答していた。
リリルを安心させるために、即座に執事に指示を出して借金の返済を済ませることにしたのだ。
そして翌日、仕事の合間を縫って男爵邸に足を運んで借金の返済と、リリルを好きになったために妻にしたいと改めて男爵にあいさつに向かった。
男爵とクロムウェルは、最初は疑わしそうな眼をフェデュイに向けていたが、毎日の様に男爵邸に通うことで誠意が伝わったようで、リリルが望むのならと結婚の許可も得ていたのだ。
しかし、戦後処理などで仕事に追われていたフェデュイは、なかなかそのことをリリルに伝えることが出来なかった。
フェデュイは、この想いと共に直接リリルにこのことを話したかったのだ。
だが、数日顔を合わせることがないいままでいたなんなある日、リリルの様子がおかしいと執事から報告を受けたのだ。
フェデュイは、今すぐにでもリリルの元に駆けていきたかったが、既に夜も遅い時間で、こんな時間ではきっと寝ているはずだと考えなくもなかったが、可愛いリリルの寝顔を見るのもいいかもしれないとほんの少し考えてしまっていた。
そのことが長い付き合いの執事にはバレバレだったようで、釘を刺されてしまった。
そのため、渋々ながらもリリルのことは執事に任せることにしたのだった。
しかし、仕事に追われる日々に変わりはなく、リリルと顔を合わせる時間が全く取れないまま数日が過ぎてしまった。
その間も、執事からは、リリルが部屋に籠ったまま元気がない状態が続いていると報告が来ていたのだ。
次第にフェデュイの機嫌は悪くなっていき、軍部で仕事をする間のフェデュイは、周囲に震えるほどの殺気を放っていた。
普段から表情の読めないフェデュイの不機嫌な理由を察することのできる人間は少なく、軍部で働く者たちは胃が痛くなるような毎日を送っていたのだ。
そんな中、フェデュイの数少ない表情を読める副官、グリード・ゾルゲーが憔悴しきった顔で言ったのだ。
「フェデュイ……。いい加減にしてくれ。お前がそういう顔をしていると、部下がビビッて仕事にならん。俺の胃も持たん……。なんだ? かわいこちゃんと喧嘩でもしたのか?」
そう言って、眉間に皺を寄せて書類を片付けているフェデュイにコーヒーを差し出してきたのだ。
差し出されたコーヒーを目で礼を示したフェデュイは受け取ってから静かに口を付けた。
何も言わないフェデュイにしびれを切らしたようにグリードは言った。
「おいおい、何かあれば相談に乗るぞ?」
フェデュイは、ちらっとグリードを見た後に、小さく溜息をしてから口を開いた。
「帰りたい」
(リリルとまともに顔を合わせる時間がない。朝は早く、夜遅い。このままではリリルが俺のことを忘れてしまう……。それに、最近リリルの様子がおかしいらしいんだ……)
「はぁ。俺だって帰りたいよ。帰って嫁さんとイチャイチャしたいって―の!! お前だけだと思うなよ! 軍部全員の願いだっての。で、何か心当たりはないのか?」
そう言われたフェデュイは、眉間に深く皺を刻んで、見る者が尻込みするようなどすの効いた声で短く答えていた。
「わからん」
(心当たりがない。だから、早く帰って彼女と話をしたいんだ)
「はぁ。お前なぁ、こんなんで話し合いなんてできるのか? 通訳に付いて行くか?」
「いらん!!」
「くっ、くくくく。あはははは!! 了解、でもな、本当に困ったことがあったら相談しろな?」
「分かった。グリード、いつもありがとう」
フェデュイが感謝の言葉を口にすると、一瞬グリードは目を丸くしたが、肩を揺らしてまたからかうような口調でフェデュイを励ましたのだった。
「了解だ。かわいこちゃんにもその調子で会話しろよ。お前は顔は怖いし、表情も分かりずらいし、口数も少ないんだからな。くくく」
「善処する……」
ばつが悪そうにしながらもそう言ったフェデュイは、今日こそは早めに帰宅しようと書類を捲る手を速めたのだった。
そして、リリルの口から出た結婚という言葉に歓喜していた。
それと同時に、リリルの家のことについても思い出していたのだ。
リリルの祖父であり、先代の男爵が作ったという莫大な借金についてだ。
それは、人のいい先代男爵が友人の借金の保証人になったことから始まった。
結果的に、友人は賭け事に溺れては、更なる借金を重ねて、最後にはすべてを先代男爵に押し付けて夜逃げしたのだ。
先代男爵は、友人に裏切られたことを悲しみながらも、押し付けられた借金の返済のために家財をなげうったのだ。
しかし、もともと裕福ではなかった男爵家だったので、先代男爵の代で借金の返済は終わらなかったのだ。
結局、現在の男爵に代替わりしても借金は返しきれずに、今に至るというわけだった。
十分な資金を有するフェデュイにとっては大した額でもなかったため、リリルに言われるまでもなく、借金は肩代わりしようと思っていたのだ。
だから、即座に返答していた。
リリルを安心させるために、即座に執事に指示を出して借金の返済を済ませることにしたのだ。
そして翌日、仕事の合間を縫って男爵邸に足を運んで借金の返済と、リリルを好きになったために妻にしたいと改めて男爵にあいさつに向かった。
男爵とクロムウェルは、最初は疑わしそうな眼をフェデュイに向けていたが、毎日の様に男爵邸に通うことで誠意が伝わったようで、リリルが望むのならと結婚の許可も得ていたのだ。
しかし、戦後処理などで仕事に追われていたフェデュイは、なかなかそのことをリリルに伝えることが出来なかった。
フェデュイは、この想いと共に直接リリルにこのことを話したかったのだ。
だが、数日顔を合わせることがないいままでいたなんなある日、リリルの様子がおかしいと執事から報告を受けたのだ。
フェデュイは、今すぐにでもリリルの元に駆けていきたかったが、既に夜も遅い時間で、こんな時間ではきっと寝ているはずだと考えなくもなかったが、可愛いリリルの寝顔を見るのもいいかもしれないとほんの少し考えてしまっていた。
そのことが長い付き合いの執事にはバレバレだったようで、釘を刺されてしまった。
そのため、渋々ながらもリリルのことは執事に任せることにしたのだった。
しかし、仕事に追われる日々に変わりはなく、リリルと顔を合わせる時間が全く取れないまま数日が過ぎてしまった。
その間も、執事からは、リリルが部屋に籠ったまま元気がない状態が続いていると報告が来ていたのだ。
次第にフェデュイの機嫌は悪くなっていき、軍部で仕事をする間のフェデュイは、周囲に震えるほどの殺気を放っていた。
普段から表情の読めないフェデュイの不機嫌な理由を察することのできる人間は少なく、軍部で働く者たちは胃が痛くなるような毎日を送っていたのだ。
そんな中、フェデュイの数少ない表情を読める副官、グリード・ゾルゲーが憔悴しきった顔で言ったのだ。
「フェデュイ……。いい加減にしてくれ。お前がそういう顔をしていると、部下がビビッて仕事にならん。俺の胃も持たん……。なんだ? かわいこちゃんと喧嘩でもしたのか?」
そう言って、眉間に皺を寄せて書類を片付けているフェデュイにコーヒーを差し出してきたのだ。
差し出されたコーヒーを目で礼を示したフェデュイは受け取ってから静かに口を付けた。
何も言わないフェデュイにしびれを切らしたようにグリードは言った。
「おいおい、何かあれば相談に乗るぞ?」
フェデュイは、ちらっとグリードを見た後に、小さく溜息をしてから口を開いた。
「帰りたい」
(リリルとまともに顔を合わせる時間がない。朝は早く、夜遅い。このままではリリルが俺のことを忘れてしまう……。それに、最近リリルの様子がおかしいらしいんだ……)
「はぁ。俺だって帰りたいよ。帰って嫁さんとイチャイチャしたいって―の!! お前だけだと思うなよ! 軍部全員の願いだっての。で、何か心当たりはないのか?」
そう言われたフェデュイは、眉間に深く皺を刻んで、見る者が尻込みするようなどすの効いた声で短く答えていた。
「わからん」
(心当たりがない。だから、早く帰って彼女と話をしたいんだ)
「はぁ。お前なぁ、こんなんで話し合いなんてできるのか? 通訳に付いて行くか?」
「いらん!!」
「くっ、くくくく。あはははは!! 了解、でもな、本当に困ったことがあったら相談しろな?」
「分かった。グリード、いつもありがとう」
フェデュイが感謝の言葉を口にすると、一瞬グリードは目を丸くしたが、肩を揺らしてまたからかうような口調でフェデュイを励ましたのだった。
「了解だ。かわいこちゃんにもその調子で会話しろよ。お前は顔は怖いし、表情も分かりずらいし、口数も少ないんだからな。くくく」
「善処する……」
ばつが悪そうにしながらもそう言ったフェデュイは、今日こそは早めに帰宅しようと書類を捲る手を速めたのだった。
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