上 下
7 / 11

第七話 回想(副音声付)

しおりを挟む
 リリルが部屋に籠った日の夜まで時は遡る。
 
 屋敷に遅い時間に帰宅したフェデュイに執事が言ったのだ。
 
「お嬢様がお食事の時間になってもお部屋から出てきませんでした。具合でも悪いのかとお声をかけましたが、大丈夫だとおっしゃるだけで、部屋から出てこなかったのです」

「リリルが? それは大丈夫ではない」
(なんてことだ、リリルに何かあったのか? 心配だ……。どうしたらいいんだ。そうだ、様子を見に行こう。だが、眠っているリリルの部屋に勝手に入るなんて……。だが、俺はリリルの夫になる男なんだ、だから大丈夫だ)

「旦那様……。いけません。心配なのは理解できます。ですが、未婚の女性の部屋に忍び込むのはいかがなものかと……」

 執事にそう言われたフェデュイは、眉を不機嫌そうに少し上げてしかめっ面で鼻を鳴らして言った。
 
「誤解だ」
(べっ、別に忍び込むとか……、そんなんじゃない! 俺はリリルが心配なだけで、やましい気持ちなんてちょっとしかない……)

「はぁ。信じます。お嬢様のことはお任せください」

 そう言われてしまえは、有能な執事を信じる以外に道がないフェデュイは、渋々頷くのだった。
 
 
 その日の夜、フェデュイは、リリルと初めて会った日のことを思い出していた。
 
 それは、戦争の祝賀会にいやいや参加した日のことだった。
 パーティーなど面倒な行事には基本的に参加したくないフェデュイだったが、軍を率いて自らの作戦で戦争に勝利した立役者として、祝賀会に参加しない訳にはいかなかったのだ。
 そして、面倒なことに国王陛下から褒美は何が欲しいのかとうるさいくらいに言われてうんざりしていたところだった。
 そんな時、会場の隅で料理を美味しそうに頬張るリリルに一目ぼれしていたのだ。
 
 小さな口で料理を口いっぱいに頬張る姿は小動物のようで微笑ましかったというのが第一印象だった。
 そして、いつしかそんなリリルを夢中で見つめていた。
 隣にいる親し気な男に遅れて気が付いた時、その男に殺意が芽生えた。
 リリルを誰にも渡したくないという思いから、気が付くとリリルの元に跪いて告白をしていたのだ。
 
「お前、俺のものになれ」
(君に一目ぼれしてしまった。どうか、俺と付き合ってください)

 驚きに目を丸くするその姿が可愛くてつい見入ってしまった。
 しかし、リリルはフェデュイを気にもせずに隣にいる男の皿から肉を取って食べだしたのだ。
 すぐ近くで美味しそうに肉を食べる姿が可愛くもあったが、今は自分の思いについて考えて欲しかったフェデュイは、リリルの手を引いてダメ押しの告白をしていた。
 
「俺の妻になれ」
(好きです。結婚してください)

 そう言った時の驚いた表情のリリルが可愛すぎて、抱きしめたくなったがそれを堪えて行動を起こしていた。
 とにかく、リリルとの結婚をするためにどうしたらいいのかと一瞬で考えを巡らせた結果、今回の褒美としてリリルとの結婚の許可を求めることにしたのだ。
 
 結婚の許可はすぐに下りたが、これは一方的な一目惚れから始まった関係だと分かっていたフェデュイは、さっそくリリルに贈り物をした。
 しかし、いつまで経っても一緒に送った手紙の返事は来なかった。
 
 最初は、リリルからの返事を待とうと我慢したが、結局我慢しきれずにクロケット男爵家まで足を運んでしまった。
 男爵邸で、簡素なワンピースに身を包み、美しい髪をポニーテールに縛って細い首を晒しているリリルを見て胸が高鳴っていた。
 そして、可愛らしい耳と尻尾を見たフェデュイは、今すぐ可愛いリリルをもふもふと撫でたくなったが、そんな事をしてしまえば嫌われてしまうと考えて、何とか踏みとどまった。
 
 しかし、我慢の限界に来ていたフェデュイは、混乱するリリルをそのまま屋敷に連れ帰ってしまったのだ。
 フェデュイは、いつでもリリルが屋敷に来てもいいように部屋を整えていたので、その部屋にリリルを通すことにした。
 
「今日から、結婚の日までこの部屋を使え」
(君のために整えた部屋だ。気に入ってもらえると嬉しい。でも、結婚後は夫婦の部屋に移ってもらうよ)

「えっ?」
 
 結婚後は夫婦の部屋に移ってもらうため、この部屋は一時的に使うものだと説明したが、何故かリリルは驚きの声を上げたのだった。
 
「安心しろ。正式に夫婦になったときには、部屋を移ってもらう」
(君を大切にしたいんだ。だから、結婚するまでは別々の部屋で過ごそう)

「結婚?」

「ああ」
(リリルが好きすぎて、今すぐにでも結婚したいくらいだよ)

「閣下は私と結婚をしたいのですか?」

「ああ」
(許されるのなら今すぐにでも結婚したいよ)

 フェデュイがリリルとの結婚を考えて顔がにやけそうになるのを必死に堪えていると、突然リリルが抱き着いてきたのだ。
 
「閣下。結婚して欲しいのでしたら、我が家に金銭的な援助をお願いします。そうしてくださるのでしたら、私は喜んで閣下に尽くします。どんな要求にだって答えて見せます! 妻にだってなって見せます!!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】強制力なんて怖くない!

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のエラリアは、十歳の時に唐突に前世の記憶を取り戻した。 どうやら自分は以前読んだ小説の、第三王子と結婚するも浮気され、妻の座を奪われた挙句、幽閉される「エラリア」に転生してしまったらしい。 そんな人生は真っ平だと、なんとか未来を変えようとするエラリアだが、物語の強制力が邪魔をして思うように行かず……? 強制力がエグい……と思っていたら、実は強制力では無かったお話。 短編です。 完結しました。 なんだか最後が長くなりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

出来の悪い令嬢が婚約破棄を申し出たら、なぜか溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
 学術もダメ、ダンスも下手、何の取り柄もないリリィは、婚約相手の公爵子息のレオンに婚約破棄を申し出ることを決意する。  きっかけは、パーティーでの失態。  リリィはレオンの幼馴染みであり、幼い頃から好意を抱いていたためにこの婚約は嬉しかったが、こんな自分ではレオンにもっと恥をかかせてしまうと思ったからだ。  表だって婚約を発表する前に破棄を申し出た方がいいだろう。  リリィは勇気を出して婚約破棄を申し出たが、なぜかレオンに溺愛されてしまい!?

【完結】昨日までの愛は虚像でした

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

浮気夫に平手打ち

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。聖騎士エイデンが邪竜を斃して伯爵に叙爵されて一年、妻であるカチュアはエイデンの浪費と浮気に苦しめられていた。邪竜を斃すまでの激しい戦いを婚約者として支えてきた。だけど、臨月の身でエイデンの世話をしようと実家から家に戻ったカチュアが目にしたのは、伯爵夫人を浮気する夫の姿だった。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

処理中です...