大好きな第三王子の命を救うため全てを捨てた元侯爵令嬢。実は溺愛されていたことに逃げ出した後に全力で気付かされました。

バナナマヨネーズ

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 自分が仕出かしたこととはいえ、それをはっきりと口にすることは、アストレイアにとって恥ずかしいものだった。
 しかし、一度そのことを口にしてしまった以上、ここで躊躇った方がさらに苦しくなることは必至だった。
 やけくそとまではいかないが、心を無にして、出来るだけ感情を見せないようにしようとしたがそれは失敗していた。
 顔だけではなく、全身を朱く染めて、涙目で話すその姿にヴィラジュリオ二重三重の意味で衝撃を与えられ続ける。
 
「あの日、王城の者たちが殿下を諦めてしまった夜。ぼくは自分にある魔法を施しました。その魔法こそが、禁忌魔法の変転です。ぼくの完成させた魔力丹と魔力管を作るために、どうしても殿下の中の魔力を一度落ち着かせる必要があったのです。ですが、どうしても他の女性に任せられなかったんです。ぼくの身勝手な欲望を満たすために、自分の体をもとの女性態に戻したんです。王城の隅にある屋敷に移されていた殿下の元に急いだぼくは……、ぼくは殿下の寝台に忍び込んで、唇を合わせて魔力の質を調和させてから、殿下のアレを……、アレを…………、ぼくのアソコで…………。すみません、詳細はご想像にお任せしますが、殿下と体を繋いで、体内で直接魔力を操作しました。そうして、魔力丹と魔力管を作ることに成功し、殿下のお体を強大な魔力に耐えられるようにしたんです」

 アストレイアの説明を聞いたヴィラジュリオは、心底悔しそうにしかし、小さな声でつい本音を漏らしていた。
 
「なんてことだ……。なぜ俺にその時の記憶が一切ないのだ……。なんてもったいないことをしてしまったのだ……」

 肩を落とし、そんなことを考えていたヴィラジュリオのことを勘違いしたアストレイアは、深く頭を下げて謝罪する。
 
「申し訳ございません。いくら殿下のお命にかかわることと言え、殿下の同意もなしに勝手なことをしてしまいました……。なんとお詫びをしていいのか分かりません。殿下が望むならぼくのこと、煮るなり焼くなり沈めるなり、お好きにしてください!」

 アストレイアに勘違いされていることに気が付いたヴィラジュリオは、慌てて否定していた。
 
「違う! 俺は、アストレイアに感謝こそすれ、怒りなど微塵も感じていない。ただ……」

「殿下……。なんてお優しい……。ですが、殿下のこと裏切ったのは事実です」

 頑なにそう言い続けるアストレイアにどうしたらわかってもらえるのかとヴィラジュリオは、頭を悩ませる。
 しかし、意外と簡単なことのように思えたヴィラジュリオは、とても単純な質問をしていた。
 
「頑固者め……。アストレイア、正直に答えて欲しい」

「はい。殿下にもう嘘はつきません」

「ああ。それなら、アストレイアの気持ちを教えて欲しい。どうしてそこまでして俺の命を救ってくれようとしたんだ? 正直に教えてくれ」

「…………そ、それは……」

「言ってくれ。アストレイアは、どうしてそこまで俺に尽くしてくれるんだ?」

「……きだからです」

「ん?」

「殿下のことが好きだからです!! 一目惚れでした! ぼくがまだ男になる前に、一度だけお会いしたことがあります。その時に、一目惚れしました! 男になってからは、お傍に居られて幸せで、もっと好きになってしまいました! だから……」

「そうか……。あはは……。俺たちはなんて遠回りをしていたんだ。両想いじゃないか」

「違います! ぼくの片思いです!」

「それこそ違う。俺は、嬉しい。おれもアストレイアが初恋だった。覚えてくれていて嬉しいよ。俺もあの日、王城の医務室であった女の子に一目惚れした。だが、その後にその子が亡くなったと聞いてショックを受けた。そのショックも癒えないうちに女性に襲われて女性に忌避感を抱くようになった……。でもな、アスタヴァイオンと友達になって、次第にその気持ちが手に負えないくらい大きくなっていって……。君が居なくなって、自覚したよ。君が好きだと。愛しているのだと。だから……」

 一度言葉を言葉を途切れされたヴィラジュリオは、アストレイアの緑色の瞳を見つめ言うのだ。
 
「頼む。アストレイア、俺の妻になってくれ。愛してる。もう離れたくない」

「殿下……」

「ふむ。では、こうしよう。アストレイアは、話を聞き終わった後の俺の下す罰を受けるといったな?」

「はい……」

「よし。では、アストレイアに下す罰は……」
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