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セブンスディス王国は、とても豊かな大国だった。
その理由は、豊かな資源が財力を産み人々の生活を潤していたことにあった。
そして、国をまとめるセブンスディス王家には、絶対的なカリスマがあったのだ。
この世界で魔法を使える者はいたが、その数はとても少なかった。
その中でも、王家は代々強大な魔力を持って生まれてきたのだ。
その力が、近隣諸国からこの豊かな大国を守る抑止力になっていたのだ。
その反面、王家は大きな問題を抱えていた。
代を重ねるごとに王家に生まれる子供の魔力が強大化していったのだ。
中には、その強大すぎる力に耐えられずにこの世を儚く去ってしまうことがあるほどだった。
ある程度の研究で多少の延命治療は考えられてきたが、根本的な治療と言えるかは微妙なところだったのだ。
そんなセブンスディス王家に歴代最強ともいえる魔力を持つ王子が生まれた。
ただ、その王子は典医に十七歳まで生きることは難しいと言われていた。
その理由は二つ。
一つは、魔力を持って生まれる者が必ず持っているはずの魔力管がなかったのだ。
魔力管とは、体内で生み出される魔力を全身に滞りなく巡らせるための器官だ。
少しの魔力であれば、魔力管がなくとも問題なかったが、王子ほどの強大な魔力となると、体内で偏った魔力によって体に異変を起こすことは、容易に想像ができた。
そして、二つ目にして最大の理由。それは、体内の魔力を制御するための魔力回路を持たずに生まれたのだ。
第三王子、ヴィラジュリオ=ラス・セブンスディスは、生まれながらに命の期限を知らされることとなった。
しかし、ヴィラジュリオは王家や貴族たちにとって、とても惜しい人物となった。
次期国王に一番ふさわしく、そして一番遠い悲運の王子と。
三人いる王子の中で一番王太子に相応しくても、それが叶わない短命の王子。
知識、身体能力、家臣たちへの評判、民を思う心。すべてが完璧だったのだから、なんとしてでもヴィラジュリオに王位についてもらいたいと思う貴族たちもいたがどうすることも出来なかったのだ。
唯一の延命方法である治療行為はあったが、ヴィラジュリオはそれを受け入れることはなかった。
そんなヴィラジュリオの治療を人々が半ば諦めていた状況で、たった一人だけ諦めなかった者がいたのだ。
その人物は、魔法使いを多く輩出するラファ侯爵家のアストレイア・ラファ侯爵令嬢だった。
アストレイアは、高い魔力を持って生まれた為、魔法による治療方法を研究していたのだ。
何故アストレイアがヴィラジュリオの治療について研究するようになったのかというととても単純で純粋な理由からだった。
それは、『恋心』からだった。
当時六歳だったアストレイアは、父親のラファ侯爵に付いて王城に行ったことがあった。
王城に向かった理由は、双子の兄であるアスタヴァイオンの薬のことでラファ侯爵が王城の典医に相談に行くためだった。
そして、偶然医務室に訪れていたヴィラジュリオと出会うのだ。
挨拶程度で特別会話をしたわけでもなかった。
それでも、ヴィラジュリオの瑠璃色の瞳と視線があった瞬間、アストレイアは、恋に落ちてしまったのだ。
それから、しばらくしてただの風邪をこじらせただけだと思っていたアスタヴァイオンは、実は別の病気だったことが分かるも、すでに手遅れな状態で儚くこの世を去ってしまう。
兄の死を切っ掛けに、アストレイアの人生は大きく変わることとなる。
アストレイアの侯爵家での立場はとても微妙なものだった。
それは、持って生まれた高すぎる魔力に起因していた。
まだ、母親のお腹の中にいるころから、高い魔力を放っていたことから期待されて生まれてきたのは、魔力をほとんど持たない男児と高魔力を持って生まれた女児だった。
侯爵はその事実に愕然とした。高魔力を持った男児であれば、低魔力の女児であればと。
理由は簡単だった。多くの魔法使いを輩出していたラファ侯爵家の跡取りがまともに魔法が使えないなどあってはならなかったのだ。
そして、家を継ぐことのない女児の使い道として一般的なものは他家との繋がりを強くするための政略結婚だ。
幸運なことに、三人の王子と年も近いことから、魔力さえなければ婚約者として役に立てたものをと。
魔力が高い女性は、王家に嫁ぐのに相応しくないという習わしがあったのだ。
それもそうだろう、必然的に高い魔力を持つ子供が生まれる王家には必要のない力だったから。
ただし、魔力値が遺伝するといった事実はないが、昔からの習わしを曲げようとする者はいなかった。
そんな訳で、ラファ侯爵にとってアストレイアは、何の価値もない子供でしかなかったのだ。
しかし、跡取りであるアスタヴァイオンの死がラファ侯爵の考えを捻じ曲げたのだ。
魔が差したとでも言うのか、ラファ侯爵はある恐ろしい計画を思いついてしまったのだ。
高魔力の跡取りをでっちあげるという計画をだ。
悲しいことに、ラファ侯爵家は数多くの優秀な魔法使いを輩出してきた。
その魔法使いの中には禁忌に手を伸ばすものも少なからずいたのだ。
そして、そう言った危険な研究は代々の侯爵家の当主が隠匿してきたのだ。
その隠匿した研究の中身ももちろん歴代の当主は知っていた。
だからこその凶行だった。
アスタヴァイオンが亡くなった日の夜。
ラファ侯爵は人知れず、アストレイアを自分の部屋に呼んだのだ。
その理由は、豊かな資源が財力を産み人々の生活を潤していたことにあった。
そして、国をまとめるセブンスディス王家には、絶対的なカリスマがあったのだ。
この世界で魔法を使える者はいたが、その数はとても少なかった。
その中でも、王家は代々強大な魔力を持って生まれてきたのだ。
その力が、近隣諸国からこの豊かな大国を守る抑止力になっていたのだ。
その反面、王家は大きな問題を抱えていた。
代を重ねるごとに王家に生まれる子供の魔力が強大化していったのだ。
中には、その強大すぎる力に耐えられずにこの世を儚く去ってしまうことがあるほどだった。
ある程度の研究で多少の延命治療は考えられてきたが、根本的な治療と言えるかは微妙なところだったのだ。
そんなセブンスディス王家に歴代最強ともいえる魔力を持つ王子が生まれた。
ただ、その王子は典医に十七歳まで生きることは難しいと言われていた。
その理由は二つ。
一つは、魔力を持って生まれる者が必ず持っているはずの魔力管がなかったのだ。
魔力管とは、体内で生み出される魔力を全身に滞りなく巡らせるための器官だ。
少しの魔力であれば、魔力管がなくとも問題なかったが、王子ほどの強大な魔力となると、体内で偏った魔力によって体に異変を起こすことは、容易に想像ができた。
そして、二つ目にして最大の理由。それは、体内の魔力を制御するための魔力回路を持たずに生まれたのだ。
第三王子、ヴィラジュリオ=ラス・セブンスディスは、生まれながらに命の期限を知らされることとなった。
しかし、ヴィラジュリオは王家や貴族たちにとって、とても惜しい人物となった。
次期国王に一番ふさわしく、そして一番遠い悲運の王子と。
三人いる王子の中で一番王太子に相応しくても、それが叶わない短命の王子。
知識、身体能力、家臣たちへの評判、民を思う心。すべてが完璧だったのだから、なんとしてでもヴィラジュリオに王位についてもらいたいと思う貴族たちもいたがどうすることも出来なかったのだ。
唯一の延命方法である治療行為はあったが、ヴィラジュリオはそれを受け入れることはなかった。
そんなヴィラジュリオの治療を人々が半ば諦めていた状況で、たった一人だけ諦めなかった者がいたのだ。
その人物は、魔法使いを多く輩出するラファ侯爵家のアストレイア・ラファ侯爵令嬢だった。
アストレイアは、高い魔力を持って生まれた為、魔法による治療方法を研究していたのだ。
何故アストレイアがヴィラジュリオの治療について研究するようになったのかというととても単純で純粋な理由からだった。
それは、『恋心』からだった。
当時六歳だったアストレイアは、父親のラファ侯爵に付いて王城に行ったことがあった。
王城に向かった理由は、双子の兄であるアスタヴァイオンの薬のことでラファ侯爵が王城の典医に相談に行くためだった。
そして、偶然医務室に訪れていたヴィラジュリオと出会うのだ。
挨拶程度で特別会話をしたわけでもなかった。
それでも、ヴィラジュリオの瑠璃色の瞳と視線があった瞬間、アストレイアは、恋に落ちてしまったのだ。
それから、しばらくしてただの風邪をこじらせただけだと思っていたアスタヴァイオンは、実は別の病気だったことが分かるも、すでに手遅れな状態で儚くこの世を去ってしまう。
兄の死を切っ掛けに、アストレイアの人生は大きく変わることとなる。
アストレイアの侯爵家での立場はとても微妙なものだった。
それは、持って生まれた高すぎる魔力に起因していた。
まだ、母親のお腹の中にいるころから、高い魔力を放っていたことから期待されて生まれてきたのは、魔力をほとんど持たない男児と高魔力を持って生まれた女児だった。
侯爵はその事実に愕然とした。高魔力を持った男児であれば、低魔力の女児であればと。
理由は簡単だった。多くの魔法使いを輩出していたラファ侯爵家の跡取りがまともに魔法が使えないなどあってはならなかったのだ。
そして、家を継ぐことのない女児の使い道として一般的なものは他家との繋がりを強くするための政略結婚だ。
幸運なことに、三人の王子と年も近いことから、魔力さえなければ婚約者として役に立てたものをと。
魔力が高い女性は、王家に嫁ぐのに相応しくないという習わしがあったのだ。
それもそうだろう、必然的に高い魔力を持つ子供が生まれる王家には必要のない力だったから。
ただし、魔力値が遺伝するといった事実はないが、昔からの習わしを曲げようとする者はいなかった。
そんな訳で、ラファ侯爵にとってアストレイアは、何の価値もない子供でしかなかったのだ。
しかし、跡取りであるアスタヴァイオンの死がラファ侯爵の考えを捻じ曲げたのだ。
魔が差したとでも言うのか、ラファ侯爵はある恐ろしい計画を思いついてしまったのだ。
高魔力の跡取りをでっちあげるという計画をだ。
悲しいことに、ラファ侯爵家は数多くの優秀な魔法使いを輩出してきた。
その魔法使いの中には禁忌に手を伸ばすものも少なからずいたのだ。
そして、そう言った危険な研究は代々の侯爵家の当主が隠匿してきたのだ。
その隠匿した研究の中身ももちろん歴代の当主は知っていた。
だからこその凶行だった。
アスタヴァイオンが亡くなった日の夜。
ラファ侯爵は人知れず、アストレイアを自分の部屋に呼んだのだ。
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