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第四章 恋に落ちた子犬王子(1)
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誰かに優しく頭を撫でられる、そんな感覚を覚えながらアルシオーネは目を覚ましていた。
ぼんやりとする視界の中に、アルシオーネを心配そうに見つめる青年が見えた。
なんと言葉を発していいのかと考えている間に、青年が目元を柔らかく緩めて安堵の息をついたのが分かった。
それと同時に、優しく頭を撫でていた手が離れていき、アルシオーネは少しの寂しさのようなものを覚えて首を傾げた。
しかし、青年の優しい指先はすぐにアルシオーネの頬に触れていた。
「アルシオーネ、気分はどうだ? どこかつらいところはあるか?」
指先で頬に触れながら心配そうにそう声をかけられ、アルシオーネはぼんやりとした調子で答えていた。
「大丈夫……です」
「そうか、よかった」
青年は、アルシオーネの返答を聞いて、心からほっとした様子で呟いた。
アルシオーネを心から心配していたことがありありと分かる青年の様子に、気を失う前のことを少しずつ思い出していたアルシオーネは、少しずつ恥ずかしさが湧き上がっていた。
恥ずかしさから、上掛を引っ張り上げて顔を半分隠した状態で、見知らぬ場所について訪ねていた。
「あの……、ここは?」
心細そうな声音に青年は、にこりと微笑みを浮かべてその答えを口にした。
「ここは、僕の私室だから安心してね」
そういわれても、青年がどこの誰だかわかっていないアルシオーネには、答えになっていない答えだった。
青年のことで分かっていることとしては、ヴェルファイアという名前と、子犬のヴェルだったということのみ。
さらに言うと、子犬のヴェルだということ自体信じられないことだが、似ても似つかない青年とヴェルが何故か重なって見える瞬間が目覚めてからもあることからなんとなく、青年の言っていることは本当のことなのだろうと思うアルシオーネだった。
そんなアルシオーネの考えが読めたのか、青年、ヴェルファイアは、優しい声音で疑問に答えたのだ。
「ごめんね。急にこんなこと言われても混乱するよね。少し長くなるけど、僕の話を聞いてくれるかな?」
ヴェルファイアの言葉に、アルシオーネは頷き、その内容に耳を傾けたのだった。
「アルシオーネと出会う、数か月前のことだ」
ヴェルファイアがそう言って話し始めた内容は、驚くべき内容だった。
ヴェルファイアの正体は、この国の第二王子だった。
数か月前、ヴェルファイアの前に、「私は、この物語のヒロインよ!」と名乗る、頭の悪い男爵令嬢が現れたことがことの発端だった。
その頭の悪い男爵令嬢は、偶然を装っては、ヴェルファイアの行く手を阻んだのだ。
頭の悪い行動の数々に最初は相手をしていたヴェルファイアも呆れ果て、最終的にはその存在を無視するようになっていったのだ。
しかし、頭お花畑の男爵令嬢は、「逆ハー要員なんだから、ちゃんと私に告白しなさいよ! どいつもこいつも、なんで私に告白してこないのよ!」などと、意味不明なことを喚く始末だった。
事件が起こったのは、ほとほと疲れ果てていたヴェルファイアが、何かと頭の痛い行動を起こす男爵令嬢をどうにかしなければと思っていた矢先だった。
ある日、高熱が出て全身が軋むほどの痛みに苦しむことになったのだ。その症状は、一週間ほど続き、症状が治まった翌朝、ヴェルファイアは、子犬の姿になっていたのだ。
第二王子が子犬になってしまったことに王宮中が大騒ぎとなった。
そして、これまでしつこいくらいにヴェルファイアに付きまとっていた頭の悪い男爵令嬢がぱたりと近寄らなくなったのだ。
ヴェルファイアを溺愛しているスターレットは、即座に頭の悪い男爵令嬢が怪しいと判断してその身を拘束したのだ。
そして、頭の悪い男爵令嬢は、スターレットに尋問される中でこう言ったのだ。
「ふん。脇役風情がヒロインの私にこんなことするなんて絶対に許さないんだから! ふん。私に言い寄ってこない攻略対象なんていらないのよ!」
言っている内容はまったく理解できなかったスターレットだったが、今回の騒動を起こした犯人はこの頭の悪い男爵令嬢で間違いないということだけは分かったのだ。
スターレットは、大切なヴェルファイアを元に戻すため、頭の悪い男爵令嬢を尋問し続けたが、一向に元に戻す方法を口にすることはなかった。
尋問に屈することのない頭の悪い男爵令嬢は、次第にふてぶてしい態度を増長させていった。
スターレットが、尋問するたびに、「ヴェルファイアは、完全な犬になったのかしら?」「そろそろかしら?」などと、不安を煽るようなことばかりを口にしたのだ。
スターレットは、頭の悪い男爵令嬢がヴェルファイアにまた何かするのではないかと不安に思うようになっていったのだ。そこで、ヴェルファイアをどこか安全な場所に匿おうと考えたのだ。
そして、ヴェルファイアを連れて王宮を出た先で、アルシオーネと出会うこととなったのだ。
ぼんやりとする視界の中に、アルシオーネを心配そうに見つめる青年が見えた。
なんと言葉を発していいのかと考えている間に、青年が目元を柔らかく緩めて安堵の息をついたのが分かった。
それと同時に、優しく頭を撫でていた手が離れていき、アルシオーネは少しの寂しさのようなものを覚えて首を傾げた。
しかし、青年の優しい指先はすぐにアルシオーネの頬に触れていた。
「アルシオーネ、気分はどうだ? どこかつらいところはあるか?」
指先で頬に触れながら心配そうにそう声をかけられ、アルシオーネはぼんやりとした調子で答えていた。
「大丈夫……です」
「そうか、よかった」
青年は、アルシオーネの返答を聞いて、心からほっとした様子で呟いた。
アルシオーネを心から心配していたことがありありと分かる青年の様子に、気を失う前のことを少しずつ思い出していたアルシオーネは、少しずつ恥ずかしさが湧き上がっていた。
恥ずかしさから、上掛を引っ張り上げて顔を半分隠した状態で、見知らぬ場所について訪ねていた。
「あの……、ここは?」
心細そうな声音に青年は、にこりと微笑みを浮かべてその答えを口にした。
「ここは、僕の私室だから安心してね」
そういわれても、青年がどこの誰だかわかっていないアルシオーネには、答えになっていない答えだった。
青年のことで分かっていることとしては、ヴェルファイアという名前と、子犬のヴェルだったということのみ。
さらに言うと、子犬のヴェルだということ自体信じられないことだが、似ても似つかない青年とヴェルが何故か重なって見える瞬間が目覚めてからもあることからなんとなく、青年の言っていることは本当のことなのだろうと思うアルシオーネだった。
そんなアルシオーネの考えが読めたのか、青年、ヴェルファイアは、優しい声音で疑問に答えたのだ。
「ごめんね。急にこんなこと言われても混乱するよね。少し長くなるけど、僕の話を聞いてくれるかな?」
ヴェルファイアの言葉に、アルシオーネは頷き、その内容に耳を傾けたのだった。
「アルシオーネと出会う、数か月前のことだ」
ヴェルファイアがそう言って話し始めた内容は、驚くべき内容だった。
ヴェルファイアの正体は、この国の第二王子だった。
数か月前、ヴェルファイアの前に、「私は、この物語のヒロインよ!」と名乗る、頭の悪い男爵令嬢が現れたことがことの発端だった。
その頭の悪い男爵令嬢は、偶然を装っては、ヴェルファイアの行く手を阻んだのだ。
頭の悪い行動の数々に最初は相手をしていたヴェルファイアも呆れ果て、最終的にはその存在を無視するようになっていったのだ。
しかし、頭お花畑の男爵令嬢は、「逆ハー要員なんだから、ちゃんと私に告白しなさいよ! どいつもこいつも、なんで私に告白してこないのよ!」などと、意味不明なことを喚く始末だった。
事件が起こったのは、ほとほと疲れ果てていたヴェルファイアが、何かと頭の痛い行動を起こす男爵令嬢をどうにかしなければと思っていた矢先だった。
ある日、高熱が出て全身が軋むほどの痛みに苦しむことになったのだ。その症状は、一週間ほど続き、症状が治まった翌朝、ヴェルファイアは、子犬の姿になっていたのだ。
第二王子が子犬になってしまったことに王宮中が大騒ぎとなった。
そして、これまでしつこいくらいにヴェルファイアに付きまとっていた頭の悪い男爵令嬢がぱたりと近寄らなくなったのだ。
ヴェルファイアを溺愛しているスターレットは、即座に頭の悪い男爵令嬢が怪しいと判断してその身を拘束したのだ。
そして、頭の悪い男爵令嬢は、スターレットに尋問される中でこう言ったのだ。
「ふん。脇役風情がヒロインの私にこんなことするなんて絶対に許さないんだから! ふん。私に言い寄ってこない攻略対象なんていらないのよ!」
言っている内容はまったく理解できなかったスターレットだったが、今回の騒動を起こした犯人はこの頭の悪い男爵令嬢で間違いないということだけは分かったのだ。
スターレットは、大切なヴェルファイアを元に戻すため、頭の悪い男爵令嬢を尋問し続けたが、一向に元に戻す方法を口にすることはなかった。
尋問に屈することのない頭の悪い男爵令嬢は、次第にふてぶてしい態度を増長させていった。
スターレットが、尋問するたびに、「ヴェルファイアは、完全な犬になったのかしら?」「そろそろかしら?」などと、不安を煽るようなことばかりを口にしたのだ。
スターレットは、頭の悪い男爵令嬢がヴェルファイアにまた何かするのではないかと不安に思うようになっていったのだ。そこで、ヴェルファイアをどこか安全な場所に匿おうと考えたのだ。
そして、ヴェルファイアを連れて王宮を出た先で、アルシオーネと出会うこととなったのだ。
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