44 / 111
第四十四話
しおりを挟む
王都に着いたウェインは、その足で王城に向かっていた。
当然疲れ切っている華火は、マリアに命じて屋敷に帰していた。
ウェインは、緊急招集に応じた面々に、空石の効果を説明していた。
「今回技術者たちが用意した空石の効果は絶大でした。そこで、俺から提案があります」
そう言ったウェインは、心配そうな表情の華火が頭を過ったが、それでもとある計画を口にしていた。
「王都に帰還している途中で、ゾディアス鉱山で巨大な空石が発掘されたと報告がありました。そこで、その空石に魔法式を付与するようにすでに指示は出しています。付与が出来次第、それを持って、爆心地に向かいます」
ウェインの発言を聞いた周囲の人間はひゅっと息をのんでいた。
ウェインの言いたいことはその場にいる全員が分かっていたが、それは自殺行為でもあったのだ。
「まて……。焦る気持ちも分かる。だが、空石を使って、徐々に計画を進めることは……」
「そうです。徐々に瘴気の範囲を小さくしていけば……」
周囲の反応は至極当然のものだとウェインには理解できていた。だが、それでは時間も空石も足りなかった。
「ゾディアス鉱山で見つかったような、空石が他であるか分からない状況で、悠長なことを言っている時間は俺たちにはない。時間が経てば経つほど瘴気は広がり濃度も濃くなる一方だ。恐らくだが、中心地の瘴気がこれ以上濃くなったら、それを対処できるほどの空石があるかも分からない。だったら、いまやるべきだ」
そう言い切ったウェインは、フェデルに向かって言うのだ。
「陛下。準備が出来次第、精鋭を募って出発します」
「すまない……」
「何を謝っているのですか? 死ぬ気なんてないですよ。俺は、帰ってきたらハナビを妻に向かえて、のんびりと暮らすんですから。と言う訳で、帰還後は騎士団副団長の職はお返しします」
「え? はーーーーー?!」
フェデルのいろいろな驚きの混じった叫び声を聞きながらウェインは、技術部門の研究室に向かっていた。
運び込まれた空石は、相当な大きさをしていた。三メートルはあるだろう空石を見て、ウェインは勝利を確信する。
技術主任の計算では、あと三日で完成するということだったので、その間に準備を進める。
フェデルの前では精鋭を募るとは言ったが、連れて行く人間はもう決めていたのだ。
空石への魔法式の付与が終わるまでの三日のうちにウェインは話を付けていた。
そして、華火には出発当日までそのことを言い出せずにいたのだ。
もちろん生きて帰ってくる自信はあった。
ただ、どんな姿で戻ってくることになるのかについては、決して無事な姿でと言えるほどの自信はなかったのだ。
それでもあの日誓った約束は違えたくなかったウェインは、出発の前日の夜に華火にそのことを告げていた。
「ウサ、アッタニノトクタテッタクミンニスーユトニクオユス。イアナムス。アッタカネサディーーニミク。ンオリトム、オユアキトツルケットドメチキウザラナク」
「明日……」
「イアナムス。アディアオヌスラゲロ、エチソツカシアトネホサムアチサヒウオヨヌグオハム。ウリエッタカワホトクレッチオヲトカネッタク。アンネモグ。オメデロアネッタカンノクアクレルケチエッタム?」
答えを口にするまで何度も口を開いては閉じるを繰り返していた華火は、困ったような表情で泣くのを我慢して言うのだ。
「いって……らっしゃい……」
「ウルケッチ」
翌日、ウェインは華火たちに見送られながら瘴気の中心地に向かって出発したのだった。
ただし、ウェインに同行したのはジンのみだったことを華火たちが知るのは、彼らが国境を超えた後だったのだ。
ウェインは、国境に着くと引き連れていた部隊を国境付近の警備に残して、ジンのみを連れて空石を乗せた荷馬車を走らせていたのだ。
当然疲れ切っている華火は、マリアに命じて屋敷に帰していた。
ウェインは、緊急招集に応じた面々に、空石の効果を説明していた。
「今回技術者たちが用意した空石の効果は絶大でした。そこで、俺から提案があります」
そう言ったウェインは、心配そうな表情の華火が頭を過ったが、それでもとある計画を口にしていた。
「王都に帰還している途中で、ゾディアス鉱山で巨大な空石が発掘されたと報告がありました。そこで、その空石に魔法式を付与するようにすでに指示は出しています。付与が出来次第、それを持って、爆心地に向かいます」
ウェインの発言を聞いた周囲の人間はひゅっと息をのんでいた。
ウェインの言いたいことはその場にいる全員が分かっていたが、それは自殺行為でもあったのだ。
「まて……。焦る気持ちも分かる。だが、空石を使って、徐々に計画を進めることは……」
「そうです。徐々に瘴気の範囲を小さくしていけば……」
周囲の反応は至極当然のものだとウェインには理解できていた。だが、それでは時間も空石も足りなかった。
「ゾディアス鉱山で見つかったような、空石が他であるか分からない状況で、悠長なことを言っている時間は俺たちにはない。時間が経てば経つほど瘴気は広がり濃度も濃くなる一方だ。恐らくだが、中心地の瘴気がこれ以上濃くなったら、それを対処できるほどの空石があるかも分からない。だったら、いまやるべきだ」
そう言い切ったウェインは、フェデルに向かって言うのだ。
「陛下。準備が出来次第、精鋭を募って出発します」
「すまない……」
「何を謝っているのですか? 死ぬ気なんてないですよ。俺は、帰ってきたらハナビを妻に向かえて、のんびりと暮らすんですから。と言う訳で、帰還後は騎士団副団長の職はお返しします」
「え? はーーーーー?!」
フェデルのいろいろな驚きの混じった叫び声を聞きながらウェインは、技術部門の研究室に向かっていた。
運び込まれた空石は、相当な大きさをしていた。三メートルはあるだろう空石を見て、ウェインは勝利を確信する。
技術主任の計算では、あと三日で完成するということだったので、その間に準備を進める。
フェデルの前では精鋭を募るとは言ったが、連れて行く人間はもう決めていたのだ。
空石への魔法式の付与が終わるまでの三日のうちにウェインは話を付けていた。
そして、華火には出発当日までそのことを言い出せずにいたのだ。
もちろん生きて帰ってくる自信はあった。
ただ、どんな姿で戻ってくることになるのかについては、決して無事な姿でと言えるほどの自信はなかったのだ。
それでもあの日誓った約束は違えたくなかったウェインは、出発の前日の夜に華火にそのことを告げていた。
「ウサ、アッタニノトクタテッタクミンニスーユトニクオユス。イアナムス。アッタカネサディーーニミク。ンオリトム、オユアキトツルケットドメチキウザラナク」
「明日……」
「イアナムス。アディアオヌスラゲロ、エチソツカシアトネホサムアチサヒウオヨヌグオハム。ウリエッタカワホトクレッチオヲトカネッタク。アンネモグ。オメデロアネッタカンノクアクレルケチエッタム?」
答えを口にするまで何度も口を開いては閉じるを繰り返していた華火は、困ったような表情で泣くのを我慢して言うのだ。
「いって……らっしゃい……」
「ウルケッチ」
翌日、ウェインは華火たちに見送られながら瘴気の中心地に向かって出発したのだった。
ただし、ウェインに同行したのはジンのみだったことを華火たちが知るのは、彼らが国境を超えた後だったのだ。
ウェインは、国境に着くと引き連れていた部隊を国境付近の警備に残して、ジンのみを連れて空石を乗せた荷馬車を走らせていたのだ。
20
お気に入りに追加
1,160
あなたにおすすめの小説

【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜
近藤アリス
恋愛
家庭にも学校にも居場所がない女子高生の花梨は、ある日夢で男の子に出会う。
その日から毎晩夢で男の子と会うが、時間のペースが違うようで1ヶ月で立派な青年に?
ある日、龍の娘として治癒の力と共に、成長した青年がいる世界へ行くことに!
「ヴィラ(青年)に会いたいけど、会いに行ったら龍の娘としての責任が!なんなら言葉もわからない!」
混乱しながらも花梨が龍の娘とした覚悟を決めて、進んでいくお話。
※こちらの作品は2007年自サイトにて連載、完結した小説です。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します
大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。
「私あなたみたいな男性好みじゃないの」
「僕から逃げられると思っているの?」
そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。
すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。
これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない!
「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」
嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。
私は命を守るため。
彼は偽物の妻を得るため。
お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。
「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」
アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。
転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!?
ハッピーエンド保証します。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました
しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。
つきましては和平の為の政略結婚に移ります。
冷酷と呼ばれる第一王子。
脳筋マッチョの第二王子。
要領良しな腹黒第三王子。
選ぶのは三人の難ありな王子様方。
宝石と貴金属が有名なパルス国。
騎士と聖女がいるシェスタ国。
緑が多く農業盛んなセラフィム国。
それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。
戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。
ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。
現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。
基本甘々です。
同名キャラにて、様々な作品を書いています。
作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。
全員ではないですが、イメージイラストあります。
皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*)
カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m
小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる