97 / 111
翻訳版
第四十一話 〃
しおりを挟む
マリアとテレパシーで会話が出来るようになった華火は、心からの感謝を口にしていた。
―――マリア、こんなわたしを受け入れてくれてありがとう……。
―――ハナビお嬢様、あなたはとても素敵な方です。だから、ご自分のことを貶めるような言い方などしないでください。
―――うん……。
―――ふふふ。改めまして、私はマリア・テイルと申します。今年二十四歳になります。趣味は筋トレで、好きな人はハナビお嬢様です。
―――わ、わたしは、山田華火って言います。十七歳です。趣味は……、特にないかも……。でも、料理したりするのは好きです。
長いこと一緒に過ごしてきて、今更の自己紹介に華火とマリアは顔を合わせて小さく笑っていた。
ひとしきり笑った後、マリアは表情を改めてから、華火が知りたかった情報を教えてくれたのだ。
―――ハナビお嬢様、この世界は瘴気という脅威にさらされています。
―――うん。ウェインさんから聞いたよ。オニラノツって国が原因で瘴気が迫ってきてるって……。
―――はい。その瘴気対策として、国境沿いに大規模な結界を展開しているのですが、その結界が一部消滅したため、閣下が騎士団を引き連れて問題の場所に向かったのが今の状況です。
ウェインが戻らない理由を知った華火だったが、想像以上に状況が悪いことに驚く。
そんな華火を安心させるように、優しく包み込むように手を握り直したマリアは力強く言うのだ。
―――閣下なら大丈夫ですよ。今のところ、ゾディアス鉱山にいるそうなので。
―――ゾディアス鉱山?
―――はい。師匠の持ち帰った情報……。えっと、庭師のジンのことは分かりますよね?
マリアの「師匠」という言葉に、小さく首を傾げた華火のために、マリアは補足説明をしようとジンのことを口にする。
庭師のジンのことはもちろん知っているので、華火はコクリと首を縦に振った。
―――えっと、改めての説明になるのですが、私は元々王立騎士団で閣下の部下をしていました。一応、副団長補佐次席という職を頂いていました。因みに、閣下が王立騎士団副団長です。それでですね、私の身分は平民なんですけど、幼少期に庭師のジンに剣を教えてもらった事が切っ掛けで、平民ですが騎士になることができたんです。まぁ、そんな感じで、ジンは私の師匠なんですよ。
マリアの話から、なんとなく平民出身で騎士になるのは相当たいへんなのだろうということは伝わってきたものの、物静かで優し気なジンが剣を扱うという姿が想像できない華火は、目を丸くさせてしまっていた。
華火の驚きが伝わっていたマリアは、楽しそうにとんでもないことを華火に伝えてきたのだ。
―――今でこそ、物静かな青年風ですが、当時の師匠はすごかったんですから。口を開けば罵詈雑言が飛び出し、剣の修行をすれば、悪魔だって泣いて許しを請うようなハードを通り越してサイコチックなトレーニングメニューで……。はぁ……。
マリアが感じた苦々しい気持ちが伝わってきた華火は、自分の知るジンとマリアから聞くジンが別人に思えて仕方なかったが、自分だって昔の自分と今の自分は全く違っているのだから、そういうこともあるんだろうとマリアの話を受け入れていたのだ。
マリアは、それてしまった話を元の軌道に戻して続きを説明する。
―――それでですね、二年前にオニラノツ王国が消滅して間もないころ、瘴気がそこまで広がってはいなかった時期に師匠が部下を連れてオニラノツ王国の調査に行ったんです。師匠たちは、ありったけの防護結界服と聖水を持って行きました。ですが、事故が起こったと思われる場所は瘴気の中心で、防護結界服は、機能が低下していったそうです。高濃度の瘴気にさらされたせいで、命は助かったものの、師匠含め、調査に行った者たちは、当時の記憶を失っていました。瘴気の影響は、それだけにはとどまらず、調査用の魔法具も濃い瘴気のせいで、持ち帰った時には中の情報が見られなくなっていたんです。ですが、先日情報の解析が終わり、瘴気をどうにか出来る目途が立ったのです。
そこまで聞いた華火は、ゾディアス鉱山にある何かが瘴気に対抗するために必要になったのだと察したのだ。
テレパシーで繋がっているマリアは、華火の考えを感じてにっこりと微笑んで頷く。
―――はい。流石ハナビお嬢様。ゾディアス鉱山にある空石という鉱石が瘴気からこの世界を救う鍵になると分かったのです。
―――マリア、こんなわたしを受け入れてくれてありがとう……。
―――ハナビお嬢様、あなたはとても素敵な方です。だから、ご自分のことを貶めるような言い方などしないでください。
―――うん……。
―――ふふふ。改めまして、私はマリア・テイルと申します。今年二十四歳になります。趣味は筋トレで、好きな人はハナビお嬢様です。
―――わ、わたしは、山田華火って言います。十七歳です。趣味は……、特にないかも……。でも、料理したりするのは好きです。
長いこと一緒に過ごしてきて、今更の自己紹介に華火とマリアは顔を合わせて小さく笑っていた。
ひとしきり笑った後、マリアは表情を改めてから、華火が知りたかった情報を教えてくれたのだ。
―――ハナビお嬢様、この世界は瘴気という脅威にさらされています。
―――うん。ウェインさんから聞いたよ。オニラノツって国が原因で瘴気が迫ってきてるって……。
―――はい。その瘴気対策として、国境沿いに大規模な結界を展開しているのですが、その結界が一部消滅したため、閣下が騎士団を引き連れて問題の場所に向かったのが今の状況です。
ウェインが戻らない理由を知った華火だったが、想像以上に状況が悪いことに驚く。
そんな華火を安心させるように、優しく包み込むように手を握り直したマリアは力強く言うのだ。
―――閣下なら大丈夫ですよ。今のところ、ゾディアス鉱山にいるそうなので。
―――ゾディアス鉱山?
―――はい。師匠の持ち帰った情報……。えっと、庭師のジンのことは分かりますよね?
マリアの「師匠」という言葉に、小さく首を傾げた華火のために、マリアは補足説明をしようとジンのことを口にする。
庭師のジンのことはもちろん知っているので、華火はコクリと首を縦に振った。
―――えっと、改めての説明になるのですが、私は元々王立騎士団で閣下の部下をしていました。一応、副団長補佐次席という職を頂いていました。因みに、閣下が王立騎士団副団長です。それでですね、私の身分は平民なんですけど、幼少期に庭師のジンに剣を教えてもらった事が切っ掛けで、平民ですが騎士になることができたんです。まぁ、そんな感じで、ジンは私の師匠なんですよ。
マリアの話から、なんとなく平民出身で騎士になるのは相当たいへんなのだろうということは伝わってきたものの、物静かで優し気なジンが剣を扱うという姿が想像できない華火は、目を丸くさせてしまっていた。
華火の驚きが伝わっていたマリアは、楽しそうにとんでもないことを華火に伝えてきたのだ。
―――今でこそ、物静かな青年風ですが、当時の師匠はすごかったんですから。口を開けば罵詈雑言が飛び出し、剣の修行をすれば、悪魔だって泣いて許しを請うようなハードを通り越してサイコチックなトレーニングメニューで……。はぁ……。
マリアが感じた苦々しい気持ちが伝わってきた華火は、自分の知るジンとマリアから聞くジンが別人に思えて仕方なかったが、自分だって昔の自分と今の自分は全く違っているのだから、そういうこともあるんだろうとマリアの話を受け入れていたのだ。
マリアは、それてしまった話を元の軌道に戻して続きを説明する。
―――それでですね、二年前にオニラノツ王国が消滅して間もないころ、瘴気がそこまで広がってはいなかった時期に師匠が部下を連れてオニラノツ王国の調査に行ったんです。師匠たちは、ありったけの防護結界服と聖水を持って行きました。ですが、事故が起こったと思われる場所は瘴気の中心で、防護結界服は、機能が低下していったそうです。高濃度の瘴気にさらされたせいで、命は助かったものの、師匠含め、調査に行った者たちは、当時の記憶を失っていました。瘴気の影響は、それだけにはとどまらず、調査用の魔法具も濃い瘴気のせいで、持ち帰った時には中の情報が見られなくなっていたんです。ですが、先日情報の解析が終わり、瘴気をどうにか出来る目途が立ったのです。
そこまで聞いた華火は、ゾディアス鉱山にある何かが瘴気に対抗するために必要になったのだと察したのだ。
テレパシーで繋がっているマリアは、華火の考えを感じてにっこりと微笑んで頷く。
―――はい。流石ハナビお嬢様。ゾディアス鉱山にある空石という鉱石が瘴気からこの世界を救う鍵になると分かったのです。
10
お気に入りに追加
1,132
あなたにおすすめの小説
大好きな第三王子の命を救うため全てを捨てた元侯爵令嬢。実は溺愛されていたことに逃げ出した後に全力で気付かされました。
バナナマヨネーズ
恋愛
ラファ侯爵家の双子の妹として生まれたアストレイアには、六歳の時に一目見て恋に落ちた相手がいた。
その相手とは、このセブンスディス王国の第三王子、ヴィラジュリオ=ラス・セブンスディス。アストレイアが恋に落ちた相手は、一番次期国王に相応しく、そして最もその座に遠いと人だった。人々は、そんな彼のことを悲運の王子と呼んだ。
そんなヴィラジュリの運命を変えるべく、アストレイアはその持ちうる全てを持って立ち向かうのだ。
その結果が、裏切りと離別だとしても。
この物語は、好きになった人の幸せのために必死に頑張る元侯爵令嬢と、好きになった人に伝えたくても伝えられない想いを抱えた第三王子の長い長いすれ違いの末に幸せを掴む、そんな恋の物語。
※序盤に物語の展開上BLっぽい?BLに見せかけた?BLな展開がありますが、この物語は間違いなく男女間での恋愛物語です。
全35話
※R18版をムーンライトノベルズ様で掲載中です。
聖女様から「悪役令嬢竹生える」と言われた男爵令嬢は、王太子の子を身籠ってしまったので、全力で身を隠すことにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚によって召喚された少女は、魔王討伐のために勇者パーティーとして集められた三人の人物を見て目を丸くしたのだ。そして、魔法使いとしてその場にいた男爵令嬢のジグリールを見て言ったのだ。
「うわ~。男爵令嬢まじかわ。これで悪役令嬢なんて草、大草原不可避を通り越して、竹生える。あっ、でも、もしかしてここって、製品版の方じゃなくて、同人時代の方? あちゃ~、そうなると、シナリオちょっと変わってくるかも? 私、製品版の方しかプレイしてないしなぁ。しかも、同人版って、悪役令嬢存在しないし……。まぁ、なんとかなるよね?」と謎の言葉を発したのだ。
その後、王太子率いる勇者パーティーが魔王討伐のため旅立ったのだ。
聖女の的確な助言によって、あっという間に魔王討伐を果たす勇者パーティーだった……。
魔王討伐から三年、ジグと名乗る少女は、二歳になる息子のイヴァンと共に、ハジーナ村でスローライフを送っていたが、そこにかつての仲間が偶然やってきて?
全13話
※小説家になろう様にも掲載しています。
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
嫌われ貧乏令嬢と冷酷将軍
バナナマヨネーズ
恋愛
貧乏男爵令嬢のリリル・クロケットは、貴族たちから忌み嫌われていた。しかし、父と兄に心から大切にされていたことで、それを苦に思うことはなかった。そんなある日、隣国との戦争を勝利で収めた祝いの宴で事件は起こった。軍を率いて王国を勝利に導いた将軍、フェデュイ・シュタット侯爵がリリルの身を褒美として求めてきたのだ。これは、勘違いに勘違いを重ねてしまうリリルが、恋を知り愛に気が付き、幸せになるまでの物語。
全11話
追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する
もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。
だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く
竜王の加護を持つ公爵令嬢は婚約破棄後、隣国の竜騎士達に溺愛される
海野すじこ
恋愛
この世界で、唯一竜王の加護を持つ公爵令嬢アンジェリーナは、婚約者である王太子から冷遇されていた。
王太子自らアンジェリーナを婚約者にと望んで結ばれた婚約だったはずなのに。
無理矢理王宮に呼び出され、住まわされ、実家に帰ることも許されず...。
冷遇されつつも一人耐えて来たアンジェリーナ。
ある日、宰相に呼び出され婚約破棄が成立した事が告げられる。そして、隣国の竜王国ベルーガへ行く事を命じられ隣国へと旅立つが...。
待っていたのは竜騎士達からの溺愛だった。
竜騎士と竜の加護を持つ公爵令嬢のラブストーリー。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる