わたしを嫌う妹の企みで追放されそうになりました。だけど、保護してくれた公爵様から溺愛されて、すごく幸せです。

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
上 下
81 / 111
翻訳版

第二十五話 〃

しおりを挟む
 庭園の一角にしゃがみ、土を掘っては埋めるを繰り返す華火は、頬を染めながらぼんやりとしていた。
 昨日から今朝にかけて起こった出来事を思い出してのことだった。
 朝の時間を大分過ぎた時間にウェインの寝室に現れたマリアは、特に何も言うこともなく、いつものように華火の身支度をしてくれたのだ。
 ただ、マリアが寝室に現れた時点でキスの効果が切れてしまったようで、身支度を手伝ってくれたマリアの言葉を理解することは出来なかったのだ。マリアとも話ができると思っていた華火は心からガッカリしてしまっていた。
 しかし、話をするためだとは言え、人前でウェインとキスをすることなど到底無理だった華火は、再び、言葉の分からない日常が戻ってきてしまっていたのだ。
 
 それでも、ウェインの気持ちを知り、自分の思いを伝えられたことに浮かれていた華火は、無駄に土を掘るという行動をするに至ったのだ。
 ぼーっとしながらも、シャカシャカ、ペタペタと掘っては埋めるという行動を繰り返していた華火だったが、自分が犯してしまった重大なミスに気が付きその手を止めていた。
 呆然とする華火は、ぽつりと自分の犯したミスを口にして、項垂れるのだ。
 
「わたしったら……。折角うぇいんさんとお話しできたのに、何もお話しできてない……」

 気持ちを伝えただけで、自己紹介すら出来ていなかったことに気が付いてしまったのだ。
 小さく両手を握った華火は、「うぇいんさんが戻ってきたら、改めて自己紹介しなくちゃ」と勢い込むのだった。
 
 そして、多少冷静さを取り戻した華火は、何故急に言葉が分かるようになったのかと首を傾げていた。
 一瞬、超能力が暴走したのかとも思ったが、そんな気配はなかった。
 それに、キスをしないといけないという制約も超能力が関係しているとは思えなかったのだ。
 そんなことを考えていた華火は、ふとウェインとのキスを思い出してしまい、無意識に自分の唇を指先で触れていた。
 
 胸から込み上げる、嬉しさ、恥ずかしさ、愛おしさ、切なさ、一言では言い表せない沢山の思いが胸がら溢れて零れ落ちてしまいそうだった。
 胸元で両手を抱えるように握った華火は、ウェインに会いたいと思ってしまう。
 離れてから、そんなに時間は経っていないのに、もう恋しくて仕方なかったのだ。
 
 
 そんな、華火を少し離れた場所にいたマリアは、複雑な思いで華火を見守っていた。
 二人から何も聞いていなくても、何かあったことはすぐに分かったのだ。
 華火の立ち居振る舞いから、辛うじて少女のまま・・・・・・・・・だと判断したが、二人の間に何かあったことは察が付いていた。
 マリアがよく知るウェインなら、華火が大人になるまで手を出さないと言い切れたのだが、最近のウェインを見ていると、そうとも言い切れないような気がしたのだ。
 だからこそ、ウェインが戻ってきたら「そういうことは、結婚してからにしてください」と、釘を刺しておこうと思うマリアだった。
 
 
 
 
 華火と気持ちが通じ合ったウェインは、書類に目を通しつつ、頭を抱えていた。
 キスに夢中になるあまり、華火のことを何も聞くことが出来ず、自分のことも話していないことに気が付いたのだ。
 自分の理性がここまで役に立たないという事実に、頭を抱えながら、今回の事象について考えてみたが、奇跡としか言いようがなかった。
 それでも、華火と話ができるという事実が重要だった。
 会話が出来れば、華火のことを知ることができるのだ。
 そのことが嬉しくて仕方ないウェインは、書類に判を押しながら、今度華火とどこかに出かけようと浮かれた事を考えていたのだ。
 
 しかし、そんな浮かれた思考はすぐに吹き飛ぶような事態がすぐそこまで近づいていたのだった。
 
 
 
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス
恋愛
 家庭にも学校にも居場所がない女子高生の花梨は、ある日夢で男の子に出会う。  その日から毎晩夢で男の子と会うが、時間のペースが違うようで1ヶ月で立派な青年に?  ある日、龍の娘として治癒の力と共に、成長した青年がいる世界へ行くことに! 「ヴィラ(青年)に会いたいけど、会いに行ったら龍の娘としての責任が!なんなら言葉もわからない!」  混乱しながらも花梨が龍の娘とした覚悟を決めて、進んでいくお話。 ※こちらの作品は2007年自サイトにて連載、完結した小説です。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します

大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。 「私あなたみたいな男性好みじゃないの」 「僕から逃げられると思っているの?」 そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。 すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。 これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない! 「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」 嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。 私は命を守るため。 彼は偽物の妻を得るため。 お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。 「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」 アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。 転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!? ハッピーエンド保証します。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

処理中です...