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第十話 〃
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ウェインは、移動中の馬車の中で不機嫌さを隠そうともせずに黙り込んでいた。
そんなウェインの様子に眼鏡の青年は、焦りながらもなんとか、ウェインの気分を向上させようと口を開くもそれが逆方向に作用していることに眼鏡の青年が気が付いた時には何もかもが手遅れだった。
「ウェイン先輩~。そんな嫌そうな顔はしないでくださいよ。まぁ、あんなに可愛らしい子だったら、離れがたいという気持ちは分かりますけど……。あれ? ちょっと先輩? 何でさらに機嫌が悪くなるんですか?」
「黙れ。ハナビ嬢が愛らしいのは自然の摂理。ランジヤに言われるまでもない。俺はハナビ嬢から離れられない事情は書状で送ったよな? お前には補佐として俺がいない間のことは任せたはずだが?」
そう言ったウェインは、ランジヤと呼ばれた眼鏡の青年を睨みつける。
睨みつけられたランジヤは、表情を引きつらせながら言い訳を口にする。
「はいはい。読みました。一方的に仕事を押し付ける旨の書状ですがね! ですけど! 今回は無理です! 私、今まで結構頑張ってたんですよ? でも、陛下からの登城命令は私にはどうにもできません。はぁ……。異世界から来たハナビ嬢の体のためにも先輩が傍に居た方がいいのは私も医師から聞いて知ってますけど……。あんな風に抱っこする必要性あります? あれって、軽くセクハラなのではないですか?」
最終的には、反撃とばかりにウェインの痛いところをチクチクと攻撃するランジヤだったが、ウェインからの殺気にヤバいと表情を引きつらせることとなる。
「うるさい。黙れ」
「は……はい」
それから無言になった馬車の中で、ウェインは、華火のことを思い浮かべる。
苦しそうな表情で目を瞑る儚げな少女。それが第一印象だった。
そして、医務室に運ぶために抱き上げた時、その軽さに驚き、同時に愛おしさを感じた。
この儚い少女を自分が守らなければと。
そして、医務室で華火の体のことを知って、さらにその思いは強くなった。
最低なことだと分かっていても、一番最初に華火に回復魔法をかけたのが自分でよかったと。
その回復魔法の所為で、華火を苦しめたのが自分だとしても、彼女に自分以外の魔力を触れさせたくはないという独占欲が湧いたことにウェインは、心底驚いたのだ。
しかし、驚きは一瞬だった。
ウェインは、すぐに自覚したのだ。
名も知らぬ少女に心を奪われたということを。
華火に初めて名前を呼ばれた時、ウェインは思ったのだ。
この子を絶対に何者からも守ろうと。
そして、華火の名前を初めて呼んだ時、込み上げる愛おしさに眩暈がした。
しかし、そんな気持ちもすぐに吹き飛ぶこととなった。
名前を呼び合ってすぐに、華火が血を吐いたのだ。
背を擦り、小さな体を抱きしめるとイヤイヤと首を振り離れようとする華火にウェインは、心が悲しく痛んだ。
「すまない。ハナビ。俺が、不用意に回復魔法をかけたせいで……。すまない。辛いと思うが耐えてくれ……」
ウェインは、知らなかったとはいえ華火を苦しめる原因になったことを心から詫びていた。
華火は、この世界に溢れる魔素への耐性が全くないという事実を医師から聞いたウェインは、不用意な回復魔法で華火を苦しめてしまったことを悔いながらも、この世界で生きるためにいつかは、誰かが華火の体に魔力を流す必要があったことを知り、それが偶然とはいえ自分でよかったと喜んでいた。
この世界の空気には、人が魔法を使うための元となる魔素が含まれていた。
そして、すべての人間がその魔素から身を守るための外皮と内膜というものを持って生まれるのだ。
しかし、稀に身を守るための内膜が生まれつき薄い赤子が生まれることがあった。
そう言った赤子は、母親の母乳を飲む際に母親が回復魔法をかけることで内膜を厚くしていくのだ。
中には、回復魔法を使えない母親や、生まれてすぐに母親を亡くすケースもある。そう言った場合は、回復魔法が使える者が赤子に与えるミルクを自らの魔力を込めた聖水で作り、そのミルクを与えながら回復魔法をかけるのだ。
そうすることで、徐々に内膜を厚くしていくことができるのだ。
外皮も内膜も持たない華火は、内膜を作るため、ウェインの魔力が込められた食事やお茶といったものを摂取し、その魔力が馴染むように、ウェインが回復魔法をかけている状態が続いていたのだ。
そして、華火を診断した医師から外皮については、「前例がないため治療方法について調べておく」と言われたウェインは、医師に聞いたのだ。
「外皮についてだが、俺の魔力が肌に馴染めば外皮が出来たりはしないだろうか?」
その言葉に、その可能性は否定できないと考えた医師は、その時軽い気持ちで言ったのだ。
「そうですね。その可能性は捨てきれませんね。それなら、少しでも彼女と触れ合う時間を作ってみるのもいいかもしれませんね」
そんな医師の言葉を受けたウェインは、ならば出来るだけ華火の傍で過ごそうと考えたのだ。ただし、その触れ合いの時間が、医師の想像を超える度合だということを知る者はいなかった。
ウェインに助言をした医師がもし、現在の華火が一日の半分以上をウェインに抱きしめられて過ごしているという事実を知れば、あの時の軽い気持ちで助言をした過去の自分をなんとしてでも止めたことだろう。
そんなウェインの様子に眼鏡の青年は、焦りながらもなんとか、ウェインの気分を向上させようと口を開くもそれが逆方向に作用していることに眼鏡の青年が気が付いた時には何もかもが手遅れだった。
「ウェイン先輩~。そんな嫌そうな顔はしないでくださいよ。まぁ、あんなに可愛らしい子だったら、離れがたいという気持ちは分かりますけど……。あれ? ちょっと先輩? 何でさらに機嫌が悪くなるんですか?」
「黙れ。ハナビ嬢が愛らしいのは自然の摂理。ランジヤに言われるまでもない。俺はハナビ嬢から離れられない事情は書状で送ったよな? お前には補佐として俺がいない間のことは任せたはずだが?」
そう言ったウェインは、ランジヤと呼ばれた眼鏡の青年を睨みつける。
睨みつけられたランジヤは、表情を引きつらせながら言い訳を口にする。
「はいはい。読みました。一方的に仕事を押し付ける旨の書状ですがね! ですけど! 今回は無理です! 私、今まで結構頑張ってたんですよ? でも、陛下からの登城命令は私にはどうにもできません。はぁ……。異世界から来たハナビ嬢の体のためにも先輩が傍に居た方がいいのは私も医師から聞いて知ってますけど……。あんな風に抱っこする必要性あります? あれって、軽くセクハラなのではないですか?」
最終的には、反撃とばかりにウェインの痛いところをチクチクと攻撃するランジヤだったが、ウェインからの殺気にヤバいと表情を引きつらせることとなる。
「うるさい。黙れ」
「は……はい」
それから無言になった馬車の中で、ウェインは、華火のことを思い浮かべる。
苦しそうな表情で目を瞑る儚げな少女。それが第一印象だった。
そして、医務室に運ぶために抱き上げた時、その軽さに驚き、同時に愛おしさを感じた。
この儚い少女を自分が守らなければと。
そして、医務室で華火の体のことを知って、さらにその思いは強くなった。
最低なことだと分かっていても、一番最初に華火に回復魔法をかけたのが自分でよかったと。
その回復魔法の所為で、華火を苦しめたのが自分だとしても、彼女に自分以外の魔力を触れさせたくはないという独占欲が湧いたことにウェインは、心底驚いたのだ。
しかし、驚きは一瞬だった。
ウェインは、すぐに自覚したのだ。
名も知らぬ少女に心を奪われたということを。
華火に初めて名前を呼ばれた時、ウェインは思ったのだ。
この子を絶対に何者からも守ろうと。
そして、華火の名前を初めて呼んだ時、込み上げる愛おしさに眩暈がした。
しかし、そんな気持ちもすぐに吹き飛ぶこととなった。
名前を呼び合ってすぐに、華火が血を吐いたのだ。
背を擦り、小さな体を抱きしめるとイヤイヤと首を振り離れようとする華火にウェインは、心が悲しく痛んだ。
「すまない。ハナビ。俺が、不用意に回復魔法をかけたせいで……。すまない。辛いと思うが耐えてくれ……」
ウェインは、知らなかったとはいえ華火を苦しめる原因になったことを心から詫びていた。
華火は、この世界に溢れる魔素への耐性が全くないという事実を医師から聞いたウェインは、不用意な回復魔法で華火を苦しめてしまったことを悔いながらも、この世界で生きるためにいつかは、誰かが華火の体に魔力を流す必要があったことを知り、それが偶然とはいえ自分でよかったと喜んでいた。
この世界の空気には、人が魔法を使うための元となる魔素が含まれていた。
そして、すべての人間がその魔素から身を守るための外皮と内膜というものを持って生まれるのだ。
しかし、稀に身を守るための内膜が生まれつき薄い赤子が生まれることがあった。
そう言った赤子は、母親の母乳を飲む際に母親が回復魔法をかけることで内膜を厚くしていくのだ。
中には、回復魔法を使えない母親や、生まれてすぐに母親を亡くすケースもある。そう言った場合は、回復魔法が使える者が赤子に与えるミルクを自らの魔力を込めた聖水で作り、そのミルクを与えながら回復魔法をかけるのだ。
そうすることで、徐々に内膜を厚くしていくことができるのだ。
外皮も内膜も持たない華火は、内膜を作るため、ウェインの魔力が込められた食事やお茶といったものを摂取し、その魔力が馴染むように、ウェインが回復魔法をかけている状態が続いていたのだ。
そして、華火を診断した医師から外皮については、「前例がないため治療方法について調べておく」と言われたウェインは、医師に聞いたのだ。
「外皮についてだが、俺の魔力が肌に馴染めば外皮が出来たりはしないだろうか?」
その言葉に、その可能性は否定できないと考えた医師は、その時軽い気持ちで言ったのだ。
「そうですね。その可能性は捨てきれませんね。それなら、少しでも彼女と触れ合う時間を作ってみるのもいいかもしれませんね」
そんな医師の言葉を受けたウェインは、ならば出来るだけ華火の傍で過ごそうと考えたのだ。ただし、その触れ合いの時間が、医師の想像を超える度合だということを知る者はいなかった。
ウェインに助言をした医師がもし、現在の華火が一日の半分以上をウェインに抱きしめられて過ごしているという事実を知れば、あの時の軽い気持ちで助言をした過去の自分をなんとしてでも止めたことだろう。
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