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第十三話

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 その後、瘴気対策と拉致魔法で無理やりこの世界に連れてこられた華火と恭子を元の世界に戻す研究についての話し合いをしたが、これと言った進展はなかった。
 ウェインとしては、華火を元の世界に帰してあげたいという気持ちはあるが、この先も自分の傍に居て欲しいという気持ちもあったのだ。
 だが、華火の気持ちを無視して、ここに留まらせることはしたくはなかった。だから、帰したくない気持ちはあっても、その方法を研究しないという選択肢はなかったのだ。
 
 本当は、話し合いだけをして帰るつもりだったが、久しぶりに王城に来たこともあり、騎士団や各所から様々な用件で引き留められてしまい、屋敷に帰るのがすっかり遅くなってしまっていた。
 ウェインは、華火に夕食を食べさせることができなかったと残念に思うも、お腹をすかせたまま待たせることはしたくなかったので、仕方なかったと思うことにしたのだ。
 しかし、屋敷に戻ったウェインを迎えた華火の姿に眩暈を起こすこととなったのだ。
 いつもは、ウェインの帰りを迎える執事や侍女の登場が遅く、首を傾げていると、遅れて現れた執事たちの後ろから花の刺繍が施された可愛らしいエプロンを付けた華火が付いてきたのだ。
 あまりの可愛らしい姿に、戦場ですら膝を付いたことのないウェインが、生まれて初めて膝を付く事態となったのだ。
 執事や侍女たちは、ウェインが華火を掌中の珠の如く可愛がっていることを知っているため、膝を付くその姿の理由にすぐに気が付いたが、事情を知らない華火は、突然膝を付いてしまったウェインに驚き、慌てて駆け寄っていた。
 
「※※※※うぇいん※※※※※※※※※」

 名前しか聞き取れなかったが、恐らくウェインを心配する言葉をかけたのだろう華火は、心配そうにウェインの手を取っていた。
 
 華火を安心させるように、出来るだけ優しい微笑みを浮かべたウェインは、手触りのいい華火の黒髪に手を滑らせる。
 
「大丈夫だ。心配をかけてすまない。俺は大丈夫だ。ただいま、ハナビ嬢」

 そう言いながら、もう片方の手で華火の小さな手をキュッと握ると、華火は恥ずかしそうに頬を染めて小さく微笑みを浮かべた。
 
 華火を立たせたウェインは、当然の流れだとでもいうかのように、そのまま華火を横抱きにして歩き出していた。
 そして、すぐそばで肩を震わせていたマリアに鋭い視線を向けて状況の確認をするのだ。
 
「それで、ハナビ嬢のこの可愛い姿はどういうことだ?」

 そう言われたマリアは、ウェインが出かけた後の出来事を楽しそうに話し始めたのだ。
 
「ふふふ。ハナビお嬢様は、何を着ても超可愛いんですよね~。それでですね、そのエプロンなのですが、今日、閣下が出かけられた後に、ハナビお嬢様が調理場に向かわれたことが発端ですね」

「調理場?」

「お言葉は分からなかったのですが、恐らく閣下のために何か差し入れを作りたいといった感じだったように思います。それで、たまたま持っていた・・・・・・・・・エプロン・・・・をお貸しした次第です」

 たまたま持っていたわけではなさそうなエプロンではあったが、華火にとても似合っていたので、ウェインは特にそのことに突っ込みを入れることはなった。
 そのまま黙ってマリアの話の続きを聞くウェインは、腕の中の華火から微かに香る甘い香りに、彼女への愛おしさを強くしていく。
 
「ハナビお嬢様は、とても素晴らしい方ですね。多少私どもがお手伝いをしましたが、あっという間に美味しいお菓子を作ってくれました!」

「美味しい……?」

「はい! ほっぺたが落ちるかと思いました! ハナビお嬢様の小さなおててが捏ねた生地で作られたクッキーは天上の果実のような極上の美味しさで…………。あっ……」

 夢見心地でそこまで一気に話したマリアは、自分が犯した失敗について遅れて気が付いてしまい、慌てて口を噤んだが、すべてが手遅れだった。
 
「ほう……。ハナビ嬢の手作りを俺よりも先に食したと?」

「えっと……。わ…私だけじゃないです! 料理長も執事も侍女長もです!!」

 ウェインから漂う嫉妬の念を感じたマリアは、慌てて共犯者の名を口にしていく。
 それに対して、名前を出された執事たちは慌てることなく、すすすっと気配を消してしまっていた。
 気が付いた時には、仲間たち共犯者たちの姿が消えていたことにマリアは、乾いた笑みを浮かべて、親指を立ててウェインにこう言ったのだ。
 
「あはは。ハナビお嬢様のお菓子は最高に美味しかったですよ。閣下の分ももちろんありますから、お持ちしますね」

 多少声を震わせながらもそう言ったマリアにウェインは、ため息を吐いた後に持っていた袋を受け取るように言った。
 
「はぁ……。まあいい。それと、この中にある茶葉でお茶を入れてくれ……」

「かしこまりました。それと、ハナビお嬢様が閣下と共に夕食をお召し上がりになりたい―――」

「何故それを早く言わない。すぐに夕食の準備をしてくれ」

「それについては、執事たちが用意していると思うので晩餐室に向かいましょう」

 逃げた執事たちに対して、多少の棘のある言い方をしたマリアだったが、すぐにいつもの調子を取り戻し華火とウェインの給仕をするのだった。
 
 食事を終えたウェインは、華火が作ったというクッキーを口にしていた。
 料理長が作る菓子類とはまた別の美味しさにウェインは、手が止まらなくなるという経験を初めてしたのだった。
 そして、膝の上に大人しく座る華火はというと、ウェインがお土産として買ってきた蜜茶をとても美味しそうに飲んでいた。
 
 その姿に、ウェインは思うのだ。
 華火の喜ぶ姿が見られるのなら、また美味しいお茶を仕入れてもいいかと。

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