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本編
008 また明日
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「いいえ、それでも聞きたいです。貴方の負った傷がどんな物だったのかを……」
エゼクは、二年前の戦争を思い出しながら語った。
隣国のセルジアナ王国がルトヴィア王国に攻めてきた日のことを。
国境で拮抗していた戦線が、ガウェインの参戦で大きく動きセルジアナ王国の国土に食い込んだ後のことだった。
その日は、ガウェインとは別の戦場で指揮を取りながら戦っていたエゼクだったが、敵の中に今までに出くわさなかったほどの強者が現れたのだ。
部下たちは次々にその男に膝をついていった。
その男は珍しく、鉤爪の付いた手甲で戦う拳士だった。
エゼクは、これ以上部隊に被害を出さないために、自ら男と対峙していた。
男の鉤爪とエゼクの剣が何度も打ち合うものの、力量は互角とも言えた。
エゼクは、荒々しい剣筋で男に切り込むものの、その刃が男の体に届くことはなかった。
そして、男の鉤爪もエゼクの剣に阻まれエゼクを傷つけることが出来ないでいた。
しかし、その拮抗状態は男が懐から出した暗器によって崩れ去った。
懐から出した暗器を既の所でエゼクは弾いたが、その暗器は弾かれた瞬間割れて中に入っていた液体がエゼクの顔を濡らした。
その瞬間、猛烈な痛みと熱さが顔を襲ったのだ。
なんとか腕で目元を庇うことで目には入らずに済んだが、液体が掛かった頬から顎にかけてが焼けるような熱さでエゼクを苦しめたのだ。
そして、ほんの一瞬だけ、意識が遠くなりかけたのだ。
その一瞬の隙きを突いた男の鉤爪が、エゼクを襲った。
反射的に身を反らしたが、鉤爪はエゼクの頬の肉を抉っていた。
なんとか身を躱しながら、男の突き出していた腕を片手で掴み、蹴り上げた膝で男の利き腕を折ることに成功したが、エゼクの負った怪我も深いものだった。
利き腕をダランとさせた男にさらなる手傷を負わせるために、エゼクは痛みに抗いながら剣を繰り出していた。
互いに血を流しならも剣と拳を交えてどのくらいの時間が過ぎただろうか、いつしか利き腕を封じられた男は防戦一方になっていた。
エゼクは、剣と足技を使って男を追い詰め、長い戦いを経てとうとう男の首を落とすことに成功したのだった。
その後、怪我の治療もそこそこに、別の戦場に駆け、開戦から十ヶ月後、ガウェインがセルジアナ王国の国王の首級を取り戦争は終結したのだった。
そう語り終えたエゼクは、ローグトリアムが泣いていることに驚いていた。
「何故泣くんだ……」
「ごめんなさい……。エゼクさんが淡々と話すものだから、なんだか悲しくて。大変だったんですね……。辛かったですね……。頑張ったんですね……」
そう言って、ローグトリアムは、エゼクの頬を優しくひと撫でした後に、エゼクの頭をその胸に抱いていた。
少年特有の薄い胸板に額を押し付けるような形になったエゼクは、ローグトリアムが自分を思って泣いてくれたことが嬉しくて仕方なかった。
どのくらいそうしていたのだろうか、ローグトリアムの胸から顔を上げたエゼクは、優しい瞳で自分を見つめるローグトリアムと目が合い、自然と互いの顔が近づくのが分かり、それに身を任せた。
しかし、後もう少しで唇が触れ合うという所で、ローグトリアムが我に返ったように身を反らしたのだ。
「ご、ごめんなさい。私、今日はもう帰ります!」
そう言って、慌てて帰り支度したローグトリアムは、あっという間に走り出していた。
そんな、ローグトリアムの背中にエゼクは声を掛けずにはいられなかった。
「リアム!!明日もまた会えるか!」
エゼクがそう声をかけると、ローグトリアムは、後ろを振り返り言ったのだ。
「は、はい!!明日もまたここで!!エゼクさん、また明日!!」
ローグトリアムの「また明日」と言う言葉に、エゼクは知らず識らずの内に口元を綻ばせていたのだった。
エゼクは、二年前の戦争を思い出しながら語った。
隣国のセルジアナ王国がルトヴィア王国に攻めてきた日のことを。
国境で拮抗していた戦線が、ガウェインの参戦で大きく動きセルジアナ王国の国土に食い込んだ後のことだった。
その日は、ガウェインとは別の戦場で指揮を取りながら戦っていたエゼクだったが、敵の中に今までに出くわさなかったほどの強者が現れたのだ。
部下たちは次々にその男に膝をついていった。
その男は珍しく、鉤爪の付いた手甲で戦う拳士だった。
エゼクは、これ以上部隊に被害を出さないために、自ら男と対峙していた。
男の鉤爪とエゼクの剣が何度も打ち合うものの、力量は互角とも言えた。
エゼクは、荒々しい剣筋で男に切り込むものの、その刃が男の体に届くことはなかった。
そして、男の鉤爪もエゼクの剣に阻まれエゼクを傷つけることが出来ないでいた。
しかし、その拮抗状態は男が懐から出した暗器によって崩れ去った。
懐から出した暗器を既の所でエゼクは弾いたが、その暗器は弾かれた瞬間割れて中に入っていた液体がエゼクの顔を濡らした。
その瞬間、猛烈な痛みと熱さが顔を襲ったのだ。
なんとか腕で目元を庇うことで目には入らずに済んだが、液体が掛かった頬から顎にかけてが焼けるような熱さでエゼクを苦しめたのだ。
そして、ほんの一瞬だけ、意識が遠くなりかけたのだ。
その一瞬の隙きを突いた男の鉤爪が、エゼクを襲った。
反射的に身を反らしたが、鉤爪はエゼクの頬の肉を抉っていた。
なんとか身を躱しながら、男の突き出していた腕を片手で掴み、蹴り上げた膝で男の利き腕を折ることに成功したが、エゼクの負った怪我も深いものだった。
利き腕をダランとさせた男にさらなる手傷を負わせるために、エゼクは痛みに抗いながら剣を繰り出していた。
互いに血を流しならも剣と拳を交えてどのくらいの時間が過ぎただろうか、いつしか利き腕を封じられた男は防戦一方になっていた。
エゼクは、剣と足技を使って男を追い詰め、長い戦いを経てとうとう男の首を落とすことに成功したのだった。
その後、怪我の治療もそこそこに、別の戦場に駆け、開戦から十ヶ月後、ガウェインがセルジアナ王国の国王の首級を取り戦争は終結したのだった。
そう語り終えたエゼクは、ローグトリアムが泣いていることに驚いていた。
「何故泣くんだ……」
「ごめんなさい……。エゼクさんが淡々と話すものだから、なんだか悲しくて。大変だったんですね……。辛かったですね……。頑張ったんですね……」
そう言って、ローグトリアムは、エゼクの頬を優しくひと撫でした後に、エゼクの頭をその胸に抱いていた。
少年特有の薄い胸板に額を押し付けるような形になったエゼクは、ローグトリアムが自分を思って泣いてくれたことが嬉しくて仕方なかった。
どのくらいそうしていたのだろうか、ローグトリアムの胸から顔を上げたエゼクは、優しい瞳で自分を見つめるローグトリアムと目が合い、自然と互いの顔が近づくのが分かり、それに身を任せた。
しかし、後もう少しで唇が触れ合うという所で、ローグトリアムが我に返ったように身を反らしたのだ。
「ご、ごめんなさい。私、今日はもう帰ります!」
そう言って、慌てて帰り支度したローグトリアムは、あっという間に走り出していた。
そんな、ローグトリアムの背中にエゼクは声を掛けずにはいられなかった。
「リアム!!明日もまた会えるか!」
エゼクがそう声をかけると、ローグトリアムは、後ろを振り返り言ったのだ。
「は、はい!!明日もまたここで!!エゼクさん、また明日!!」
ローグトリアムの「また明日」と言う言葉に、エゼクは知らず識らずの内に口元を綻ばせていたのだった。
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