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第十五話 幼馴染を貰ってあげようと思います

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 何度目かの行為の後、意識を失ってしまっていたシャロンに腕枕をしながら、アイザックは、複雑な思いを抱いていた。
 本来ならば、シェリーとの離婚後、すぐにでもシャロンの下に訪れるつもりだったのだ。
 大輪のバラの花束を持って、今までの愚かな行いを反省し、仲直りをしたのちに結婚の申し込みをするつもりだった。
 その時に、シェリーの頼みで偽装結婚していたことも明かして、本当に好きなのはシャロンなのだと言うつもりだった。
 十年前の出来事が死ぬほど恥ずかしくて、逃げていたことも素直に言おうと思っていたのだ。
 それなのに、昨日の晩にシャロンの縁談話を聞いたアイザックは、考える前に屋敷を飛び出してしまっていた。
 今思えば、これでよかったのだと思えるような気もしていた。
 もし、計画通りに動いたとして、アイザックが途中でヘタレな自分を発揮しなかったとも言えなくもないのだ。
 だから、勢いに任せてぶちまけたことがある意味功を奏したと、開き直ったともいえるアイザックは、腕の中のシャロンのふわふわの髪を梳きながら深く息を吐く。
 
「ごめんな。シャロンが可愛すぎて、やりすぎてしまった……。だが、怒られても今回は何があっても逃げないからな。それに、シャロンも俺のこと好きだって知ったことだし、これからは……。ふふふ、もう遠慮はしないからな。覚悟しろよ、可愛いシャロ」

 アイザックがひとり、そんなことをにやにやとしながら呟いているとシャロンのお腹がきゅーっとなっていた。
 その可愛らしい音を聞いたアイザックは、眉を寄せる。
 
「シャロン、本当にすまない……。起きたら、何か食べような」

 そう言って、シャロンを抱きしめていると、腕の中のシャロンが身じろいだ。
 
「ふぁぁ~~。お腹すいたぁ」

「くす。おはよう」

「うん……。あっなっ……。あああああアイザック!! っつ!!!」

 起きてすぐ目の前にいるアイザックに驚いたシャロンは、体を起こそうとして、下半身に走る違和感に目を丸くする。そして、腰に走る痛みに言葉を詰まらせたのだ。
 
「アイザック……。いろいろなところが変な感じするし、体が痛い……。お腹すいた……」

「ごめん……」

 しゅんとするアイザックを見たシャロンは、ぷっと小さく噴き出して、アイザックの黒い髪をわしゃわしゃと両手で掻き乱した。
 髪をぼさぼさにされたアイザックは、呆然とした後に、ふにゃりと力ない表情になってしまう。
 
「うん。もうしないでって言っても無理なのはわかってるから、これで許す。ふふん。髪がぼさぼさでかっこ……悪くないわね。髪が乱れても格好いいわ。これじゃお仕置にならないじゃない!!」

 そう言って、ぷくっと頬を膨らませたシャロン。
 しかし、アイザックの蛮行を許してくれるシャロンの懐の深さにアイザックは、一つの可能性に気が付き愕然とすることとなる。
 もしかすると、あの時避けることをしなければ、もっと早くシャロンと結婚出来ていた可能性だ。
 寝込みを襲われた事実をオブラートに包んで当時のシャロンに説明していればなどと過去を悔やんだのだ。
 シャロンは、あまり物事を深く考えない楽観的な性格をしている。だからこそ、今回アイザックの暴走から始まった行為を許してくれたうえ、再びアイザックに心を開いたのだ。
 過ぎたことを言っても仕方ないが、当時恥ずかしがらずにシャロンの傍に居続けることができたのならば、もっと早く二人は結ばれていただろう。
 
 そんな、可能性に気が付いたアイザックは、ただ項垂れたのだった。
 それでも、過去がどうでも、今シャロンと居られるという事実が重要だと頭を切り替えたアイザックは、用意していた飲み物と食事を運ぶためベッドから立ち上がった。
 
 テーブルに事前に用意していた紅茶とハチミツが生地に浸み込むほどたっぷりと掛かったお菓子を乗せたトレイを持ってベッドに戻る。
 お腹を空かせていたシャロンは、用意されていた紅茶とお菓子を美味しそうに頬張る。
 シャロンは、拳ほどの大きさのお菓子を両手で持って小さな口に運ぶ。
 一口食べれば、口の中に広がるハチミツの甘さとナッツの香ばしい食感にシャロンは瞳を輝かせる。
 ペロリと指先に付いていたハチミツを舐めとったシャロンは、瞳を輝かせてアイザックに言うのだ。

「なにこれ、甘くて美味しい!」

「よかった。もっとあるから、好きなだけ食べてくれていい」

「うん! アイザック、このお菓子はなんて言うの?」

「これは、ラパァヴという菓子だ」

「ふーん。初めて食べたけど美味しい。わたし、これ、すごく好きかも」

「そうか、また用意するな」

「うん!」

 嬉しそうに微笑むシャロンを優しく撫でたアイザックは、まだ皿に残っていたラパァヴを摘んでシャロンに食べさせるのだ。
 シャロンもアイザックから差し出されるラパァヴを夢中になって食べる。
 お腹がいっぱいになったシャロンは、思い出したように満面の笑みでアイザックに言うのだ。
 
「アイザック。仕方ないから、貴方をわたしの旦那様に貰ってあげるわ。感謝しなさい。よろしく旦那様?」

 天気の話でもするかのような気軽さでそう言ったシャロンのその言葉に、アイザックは、蕩けるような甘い笑みを浮かべてこう答えたのだ。
 
「ああ。これから末永くよろしくな、俺の可愛いお嫁様」

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