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第一部 第七章
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懐から封印布を取り出したガスパーは、眉間にしわを寄せながらレイラたちに聞かせるのだ。
「これな……。ちょっと前に請け負った仕事で回収したものだ。曰くつきだっていう屋敷を調査したとき、死んだはずの屋敷の主がリッチ化していてな。でだ、それを討伐したときに、屋敷に施されていた術式でマナが澱んだみたいで、聖水やらなんやらぶっ掛けて、何とか澱みを解消したんだが、気味悪い箱からこれが出てきて……。これも定期的に聖水ぶっ掛けないと邪悪なオーラ出すしで、困ってたんだよ。結局、報酬以上に出費が嵩んで散々だ……。で、お前ならこれ何とかできないかと思って、探してたんだよ。その辺に捨てて、何かあるとヤバいしで、困ってたんだよ」
そう言って、本当に困った表情でギルベルトに頭を下げたのだ。
思わぬところで指を見つけたレイラとギルベルトは、お互いに顔を見合わせていた。
封印布のことを詳しくガスパーに説明するわけにもいかず、ギルベルトは何も言わずに封印布を受け取って言うのだ。
「分かった。それじゃ、ここはお前持ちで」
「あいよ。好きに食ってくれ。はぁ、これで無駄な出費に悩まされなくなって、清々するよ」
「ならよかったよ」
ギルベルトは、そう言って遠慮なくあれこれ追加注文をしていくのだ。
レイラは、「いいのかなぁ?」と思いつつも、どうすることも出来ずに遠慮気味に料理を口にするのだった。
その後、ガスパーと別れたレイラたちは、取っていた宿屋に移動していた。
レイラは、聖水の所為でなのか、力が弱くなっている封印布を前にしてギルベルトにこれからのことを相談していた。
「封印布の力が弱まっているから、今のうちに記憶を読んでぱぱっと開放することにするよ。中の記憶次第だけど、これで事件解決の糸口がつかめると思う」
「ああ」
短いやり取りの後に、レイラはいつものように封印布に意識を流し込んだのだ。
今回の指が持つ記憶では、指の持ち主とどこかで見たことのある女性が見えたのだ。
女性はすごく興奮した様子で、指の持ち主を罵っていたのだ。
「あの人は、私の夫なの! 酷いわ、私から愛する人を奪うって言うの?」
「……」
指の持ち主は、泣き叫ぶ女性に何も言えずに下を向いていた。そんな指の持ち主にイラっとした様子の女性は、引きつった表情で言うのだ。
「悪いと思うのなら、一度だけ私のお願いを聞いてよ! そうしてくれたら、貴方があの人と何をしようともう口を出さないわ」
何か企みがありそうな、そんな女性の言葉だったが、指の持ち主はただそれに頷くのだ。
「分かった。そうすれば、ボクと兄さんのこと許してくれるんだな?」
「ええ……」
小さくうなずいた後、女性は指の持ち主に言うのだ。
「私の願いは、貴方にこれをとある場所に届けてもらうことよ」
そう言って女性が差し出したのは、綺麗な細工の施された腕輪だった。
指の持ち主は、その腕輪を言われるままにとある場所に持っていくのだ。
指の持ち主が向かった先は、古びた宿屋の奥の一室だった。
そして、腕輪を持っていった場所にいたのは、二つ目の指の記憶で見たで見た男だった。
レイラは嫌な予感がしたが、これはただの記憶なのだ。だから、レイラが指の持ち主に警告をすることも出来ない。
指の持ち主は、待っていた男と顔見知りのようで、一瞬驚いた顔をしたが、何も言わずに腕輪を男に渡して、その場を離れようとしたのだ。しかし、男に腕を掴まれてしまい、部屋を出ることはかなわなかったのだ。
「な、なにを?」
腕を掴まれて驚く指の持ち主に向かって、男はニヤリと笑いながら、手に持っていた腕輪を指の持ち主に嵌めたのだ。
腕輪を嵌められたすぐの瞬間、指の持ち主は、腹の奥が熱くなるのを感じで驚愕する。
指の持ち主の反応を見た男は、楽しそうに言うのだ。
「お前が届けてくれたそれは、淫紋を刻むマジックアイテムだ。男の所為を腹に受けないと、いつまでも体が疼くんだよ」
何を言われたのか、遅れて理解した指の持ち主は、逃げようとしたが無駄だった。男にベッドに押し倒されてしまい、あっという間に服を引き裂くようにして脱がされたのだ。
指の持ち主が悲鳴をあげたのとリンクするようにレイラも悲鳴をあげたのだ。
レイラが意識を浮上させたとき、心配そうな表情のギルベルトを見て、現実に戻ってきたと安心するのと同時に、記憶の中で感じた、腹の奥の疼きがまだ残っているような気がして、何とも言えない気持ちになったのだ。
現実に戻ってきたレイラは、記憶の中での出来事をかいつまんで話していた。
そして、封印布の中から出てきた指を見てレイラは確信するのだ。
「残る指はあと一本だと思う」
レイラの言葉にギルベルトも頷いていた。
その理由は簡単だった。なぜなら、今まで回収した指がすべて左手だったから。そのことから、ギルベルトは一連の出来事に何か関連性はないのかと、それまでのことを思い浮かべるのだ。
そして、あることに気が付き、これまで指を回収した場所を地図に書き込んでいくのだ。
ギルベルトが地図に書き込み終えた時、最後の指の場所もはっきりとしたのだ。
地図に書かれた指の場所を線でつなぐとある形が出来上がったのだ。その出来上がった形は、五角形だった。
そして、そのうちの一か所にまだ見つけていない指があるのだと簡単に想像ができた。
レイラとギルベルトは、お互いの顔を見合わせて、次に行くべき先を確認し合う。
この先に、何が待ち受けているのか、この時の二人には想像も付かなかった。
それでも、誰かが意図的に仕組んだことをこのまま放置するべきではないとそう思ったからこそ、二人はここまでやってきたのだ。
そして二人は知ることとなるのだ。
スレイブ辺境伯が抱える秘密と悲劇。
そして、記憶をなくした少年の真実の姿をだ。
「これな……。ちょっと前に請け負った仕事で回収したものだ。曰くつきだっていう屋敷を調査したとき、死んだはずの屋敷の主がリッチ化していてな。でだ、それを討伐したときに、屋敷に施されていた術式でマナが澱んだみたいで、聖水やらなんやらぶっ掛けて、何とか澱みを解消したんだが、気味悪い箱からこれが出てきて……。これも定期的に聖水ぶっ掛けないと邪悪なオーラ出すしで、困ってたんだよ。結局、報酬以上に出費が嵩んで散々だ……。で、お前ならこれ何とかできないかと思って、探してたんだよ。その辺に捨てて、何かあるとヤバいしで、困ってたんだよ」
そう言って、本当に困った表情でギルベルトに頭を下げたのだ。
思わぬところで指を見つけたレイラとギルベルトは、お互いに顔を見合わせていた。
封印布のことを詳しくガスパーに説明するわけにもいかず、ギルベルトは何も言わずに封印布を受け取って言うのだ。
「分かった。それじゃ、ここはお前持ちで」
「あいよ。好きに食ってくれ。はぁ、これで無駄な出費に悩まされなくなって、清々するよ」
「ならよかったよ」
ギルベルトは、そう言って遠慮なくあれこれ追加注文をしていくのだ。
レイラは、「いいのかなぁ?」と思いつつも、どうすることも出来ずに遠慮気味に料理を口にするのだった。
その後、ガスパーと別れたレイラたちは、取っていた宿屋に移動していた。
レイラは、聖水の所為でなのか、力が弱くなっている封印布を前にしてギルベルトにこれからのことを相談していた。
「封印布の力が弱まっているから、今のうちに記憶を読んでぱぱっと開放することにするよ。中の記憶次第だけど、これで事件解決の糸口がつかめると思う」
「ああ」
短いやり取りの後に、レイラはいつものように封印布に意識を流し込んだのだ。
今回の指が持つ記憶では、指の持ち主とどこかで見たことのある女性が見えたのだ。
女性はすごく興奮した様子で、指の持ち主を罵っていたのだ。
「あの人は、私の夫なの! 酷いわ、私から愛する人を奪うって言うの?」
「……」
指の持ち主は、泣き叫ぶ女性に何も言えずに下を向いていた。そんな指の持ち主にイラっとした様子の女性は、引きつった表情で言うのだ。
「悪いと思うのなら、一度だけ私のお願いを聞いてよ! そうしてくれたら、貴方があの人と何をしようともう口を出さないわ」
何か企みがありそうな、そんな女性の言葉だったが、指の持ち主はただそれに頷くのだ。
「分かった。そうすれば、ボクと兄さんのこと許してくれるんだな?」
「ええ……」
小さくうなずいた後、女性は指の持ち主に言うのだ。
「私の願いは、貴方にこれをとある場所に届けてもらうことよ」
そう言って女性が差し出したのは、綺麗な細工の施された腕輪だった。
指の持ち主は、その腕輪を言われるままにとある場所に持っていくのだ。
指の持ち主が向かった先は、古びた宿屋の奥の一室だった。
そして、腕輪を持っていった場所にいたのは、二つ目の指の記憶で見たで見た男だった。
レイラは嫌な予感がしたが、これはただの記憶なのだ。だから、レイラが指の持ち主に警告をすることも出来ない。
指の持ち主は、待っていた男と顔見知りのようで、一瞬驚いた顔をしたが、何も言わずに腕輪を男に渡して、その場を離れようとしたのだ。しかし、男に腕を掴まれてしまい、部屋を出ることはかなわなかったのだ。
「な、なにを?」
腕を掴まれて驚く指の持ち主に向かって、男はニヤリと笑いながら、手に持っていた腕輪を指の持ち主に嵌めたのだ。
腕輪を嵌められたすぐの瞬間、指の持ち主は、腹の奥が熱くなるのを感じで驚愕する。
指の持ち主の反応を見た男は、楽しそうに言うのだ。
「お前が届けてくれたそれは、淫紋を刻むマジックアイテムだ。男の所為を腹に受けないと、いつまでも体が疼くんだよ」
何を言われたのか、遅れて理解した指の持ち主は、逃げようとしたが無駄だった。男にベッドに押し倒されてしまい、あっという間に服を引き裂くようにして脱がされたのだ。
指の持ち主が悲鳴をあげたのとリンクするようにレイラも悲鳴をあげたのだ。
レイラが意識を浮上させたとき、心配そうな表情のギルベルトを見て、現実に戻ってきたと安心するのと同時に、記憶の中で感じた、腹の奥の疼きがまだ残っているような気がして、何とも言えない気持ちになったのだ。
現実に戻ってきたレイラは、記憶の中での出来事をかいつまんで話していた。
そして、封印布の中から出てきた指を見てレイラは確信するのだ。
「残る指はあと一本だと思う」
レイラの言葉にギルベルトも頷いていた。
その理由は簡単だった。なぜなら、今まで回収した指がすべて左手だったから。そのことから、ギルベルトは一連の出来事に何か関連性はないのかと、それまでのことを思い浮かべるのだ。
そして、あることに気が付き、これまで指を回収した場所を地図に書き込んでいくのだ。
ギルベルトが地図に書き込み終えた時、最後の指の場所もはっきりとしたのだ。
地図に書かれた指の場所を線でつなぐとある形が出来上がったのだ。その出来上がった形は、五角形だった。
そして、そのうちの一か所にまだ見つけていない指があるのだと簡単に想像ができた。
レイラとギルベルトは、お互いの顔を見合わせて、次に行くべき先を確認し合う。
この先に、何が待ち受けているのか、この時の二人には想像も付かなかった。
それでも、誰かが意図的に仕組んだことをこのまま放置するべきではないとそう思ったからこそ、二人はここまでやってきたのだ。
そして二人は知ることとなるのだ。
スレイブ辺境伯が抱える秘密と悲劇。
そして、記憶をなくした少年の真実の姿をだ。
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