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第一部 第四章
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十年前、レイラが儀式を行うために、屋敷を出る前にギルベルトに言ったのだ。
「ギルベルト、今回の儀式で私は死ぬだろう。私が死んだら、屋敷に残した人型が割れる。そうしたら、次はお前が当主になれ。頼んだぞ」
「姉さん! いやだ。まだ、教えて欲しいことがたくさんあるんだ」
「ふん。お前はいつまでたっても甘えただな。だが、私に残されているのは……、いや、何でもない。私の喪が明けたら、地下にある儀式場で当主の議を行え。あとは、その指輪が道を指し示すだろう。お前は、私の跡を継いで、成すべきことを成せ。すまんな……、いや、何でもない。ギルベルト、じゃぁな」
「姉さん……、ありがとう」
こうして短い分けれの言葉を交わした数日後、レイラが残した人型が粉々になったのだ。
遺体のないレイラの葬儀を終えたとき、レイズが集まった一族をまとめてギルベルトに宣言したのだ。
「長らく、前当主の我儘に付き合ってくれたこと感謝する。これからは、血族の正統な後継者である私が、当主の座に就く」
レイズのその言葉に、ギルベルトは反論した。
「レイズ様! 何を言うのですか?! 姉さんは、俺を次期当主と―――」
ギルベルトが最後まで言う前に机を叩いたレイズは、きつい眼差しを向けて言うのだ。
「うるさい!! 私が本来の当主なのだ!! お前のようなガキが口をはさむな!! まあ、お前の籍は残してやるが、今後は好きに生きるんだな」
「なっ?!」
レイズの言い分に呆気に取られていたギルベルトは、無理やり体を押さえつけられて、当主の証たる指輪を奪われてしまっていたのだ。
「そ……それは! 返せ! 返せ!!」
「ふん。お前を放逐する。二度とこの屋敷に踏み入るな!」
こうして、少ない金と荷物だけを叩きつけられたギルベルトは、スレイブ家から追い出されたのだった。
それからは、レイラに教えられた魔術と剣術を用いてハンターとして旅してまわったのだ。
しかし、レイラが死んだあと、彼女の力で施されたギルベルトの力が暴走することがあり、一時期は人里離れた場所で暮らしていたこともあったのだ。
ギルベルトには、人を魅了し意のままに操る魅了の力があったのだ。
その力は、生前のレイラによって封印されていた。
しかし、レイラが死んだことで封印の力が弱まり、一族を放逐された一年後には魅了の力が溢れるようになっていたのだ。
その力は、ギルベルトの左目に宿っていた。
ギルベルトの赤い左目に見られた者は、ギルベルトの意のままになってしまうのだ。
レイラがいない今、自分で力を制御しなければならないギルベルトは、数年の時をかけて魅了の力を抑え込むことができたのだ。
それでも、意図せず魅了してしまうことを恐れたギルベルトは、左目に封印具の眼帯を付けることで常に警戒していたのだ。
だれの心も奪ったりはしないと。
それからは、何の目的もなく気が向くままに生きていたのだ。
話せることをすべて話し終わったギルベルトは、レイラの反応を恐る恐る見つめる。
しかし、話を聞いていたレイラは、眉を寄せて申し訳なさそうな顔をするだけだった。
「ギル……。ごめん。自分が何かの儀式をして死んだことは理解しているよ。でも、それ以外の記憶が……。それに、君に辛い思いをさせたね。本当にごめん。謝って済むことじゃないけど。それでも、ごめん……」
下を向いてそう言うレイラの白く細い項を見ながら、ギルベルトは否と答える。
「いいんだ。すべては終わったことだ。でも、約束を果たせなくて、俺はずっとそのことが……」
ギルベルトが、暗い声でそう言うと、レイラは体を捻って、ギルベルトの胸に顔を擦り付けて言うのだ。
「ごめんね。ずっと、苦しかったんだね。もう、自由になって? ギルは、ギルのために生きていいんだ」
「姉さん……。ああ、ありがとう。俺は誰かにそう言って欲しかっただけかもしれないけど、なんだか心が軽くなった。姉さん……ありがとう」
「うん。ギル、今までありがとう」
しばらく抱き合っていた二人だったが、日も暮れてきて気温が低くなったこともあり、そろそろ村に戻ることにしたのだ。
濡れた足を拭いてズボンを履いたレイラは、少し足が動くようになっていたことに気が付き瞳を輝かせるのだ。
「ギル、見て。足が!」
レイラはそう言って、一人で震えながらも立って見せたのだ。
しかし、立ち上がるのがやっとで、ふらつく体をギルベルトが慌てて支える。
「危ない! 無理はしないでくれ」
「うん……。でも、もう少し泉に入り続けれは、もしかして……」
レイラが興奮気味にそういうも、ギルベルトは首を横に振るのだ。
「駄目だ。こんなに体が冷えてる。明日も来てもいいけど、浸かるのは短時間じゃないと駄目だ」
「え~」
「それに、俺が姉さんの足になるから、何も心配しなくてもいい」
「え~~」
その後、数日間泉に通い続けたものの、レイラが歩けるようにはならなかった。
しかし、短い時間なら一人で立ち上がり、数歩だけではあるが、足を動かすことは出来るようになったのだった。
「ギルベルト、今回の儀式で私は死ぬだろう。私が死んだら、屋敷に残した人型が割れる。そうしたら、次はお前が当主になれ。頼んだぞ」
「姉さん! いやだ。まだ、教えて欲しいことがたくさんあるんだ」
「ふん。お前はいつまでたっても甘えただな。だが、私に残されているのは……、いや、何でもない。私の喪が明けたら、地下にある儀式場で当主の議を行え。あとは、その指輪が道を指し示すだろう。お前は、私の跡を継いで、成すべきことを成せ。すまんな……、いや、何でもない。ギルベルト、じゃぁな」
「姉さん……、ありがとう」
こうして短い分けれの言葉を交わした数日後、レイラが残した人型が粉々になったのだ。
遺体のないレイラの葬儀を終えたとき、レイズが集まった一族をまとめてギルベルトに宣言したのだ。
「長らく、前当主の我儘に付き合ってくれたこと感謝する。これからは、血族の正統な後継者である私が、当主の座に就く」
レイズのその言葉に、ギルベルトは反論した。
「レイズ様! 何を言うのですか?! 姉さんは、俺を次期当主と―――」
ギルベルトが最後まで言う前に机を叩いたレイズは、きつい眼差しを向けて言うのだ。
「うるさい!! 私が本来の当主なのだ!! お前のようなガキが口をはさむな!! まあ、お前の籍は残してやるが、今後は好きに生きるんだな」
「なっ?!」
レイズの言い分に呆気に取られていたギルベルトは、無理やり体を押さえつけられて、当主の証たる指輪を奪われてしまっていたのだ。
「そ……それは! 返せ! 返せ!!」
「ふん。お前を放逐する。二度とこの屋敷に踏み入るな!」
こうして、少ない金と荷物だけを叩きつけられたギルベルトは、スレイブ家から追い出されたのだった。
それからは、レイラに教えられた魔術と剣術を用いてハンターとして旅してまわったのだ。
しかし、レイラが死んだあと、彼女の力で施されたギルベルトの力が暴走することがあり、一時期は人里離れた場所で暮らしていたこともあったのだ。
ギルベルトには、人を魅了し意のままに操る魅了の力があったのだ。
その力は、生前のレイラによって封印されていた。
しかし、レイラが死んだことで封印の力が弱まり、一族を放逐された一年後には魅了の力が溢れるようになっていたのだ。
その力は、ギルベルトの左目に宿っていた。
ギルベルトの赤い左目に見られた者は、ギルベルトの意のままになってしまうのだ。
レイラがいない今、自分で力を制御しなければならないギルベルトは、数年の時をかけて魅了の力を抑え込むことができたのだ。
それでも、意図せず魅了してしまうことを恐れたギルベルトは、左目に封印具の眼帯を付けることで常に警戒していたのだ。
だれの心も奪ったりはしないと。
それからは、何の目的もなく気が向くままに生きていたのだ。
話せることをすべて話し終わったギルベルトは、レイラの反応を恐る恐る見つめる。
しかし、話を聞いていたレイラは、眉を寄せて申し訳なさそうな顔をするだけだった。
「ギル……。ごめん。自分が何かの儀式をして死んだことは理解しているよ。でも、それ以外の記憶が……。それに、君に辛い思いをさせたね。本当にごめん。謝って済むことじゃないけど。それでも、ごめん……」
下を向いてそう言うレイラの白く細い項を見ながら、ギルベルトは否と答える。
「いいんだ。すべては終わったことだ。でも、約束を果たせなくて、俺はずっとそのことが……」
ギルベルトが、暗い声でそう言うと、レイラは体を捻って、ギルベルトの胸に顔を擦り付けて言うのだ。
「ごめんね。ずっと、苦しかったんだね。もう、自由になって? ギルは、ギルのために生きていいんだ」
「姉さん……。ああ、ありがとう。俺は誰かにそう言って欲しかっただけかもしれないけど、なんだか心が軽くなった。姉さん……ありがとう」
「うん。ギル、今までありがとう」
しばらく抱き合っていた二人だったが、日も暮れてきて気温が低くなったこともあり、そろそろ村に戻ることにしたのだ。
濡れた足を拭いてズボンを履いたレイラは、少し足が動くようになっていたことに気が付き瞳を輝かせるのだ。
「ギル、見て。足が!」
レイラはそう言って、一人で震えながらも立って見せたのだ。
しかし、立ち上がるのがやっとで、ふらつく体をギルベルトが慌てて支える。
「危ない! 無理はしないでくれ」
「うん……。でも、もう少し泉に入り続けれは、もしかして……」
レイラが興奮気味にそういうも、ギルベルトは首を横に振るのだ。
「駄目だ。こんなに体が冷えてる。明日も来てもいいけど、浸かるのは短時間じゃないと駄目だ」
「え~」
「それに、俺が姉さんの足になるから、何も心配しなくてもいい」
「え~~」
その後、数日間泉に通い続けたものの、レイラが歩けるようにはならなかった。
しかし、短い時間なら一人で立ち上がり、数歩だけではあるが、足を動かすことは出来るようになったのだった。
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