記憶喪失中の美少年は、眼帯青年を甘やかしたい!

バナナマヨネーズ

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第一部 第三章

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 ギルベルトの呼びかけで意識を浮上させることができたレイラは、ボロボロと涙を溢しながら、自分を心配そうに見つめるギルベルトに抱き着いていた。
 ギルベルトは、レイラが落ち着くまでトントンと背中を優しく叩いてくれた。
 ようやく落ち着きを取り戻したレイラは、一つ深呼吸をする。
 レイラは、ギルベルトに言って、女性が領主と下男を殺した場所へと移動していた。
 そして、その部屋に隠すように設置されていた見覚えのある黒ずんだ箱を見つけるのだ。
 見つけた箱は、以前のように黒いマナを出してはいなかった。
 それを見たギルベルトは、自分がなすべきことを理解し、念のためと、一度目よりも手早く浄化の術式を展開させていた。
 その後、箱を壊したギルベルトは、今回も中から封印布に包まれた指と思わしき物を取り出していた。
 顔を涙で濡らすレイラを心配したギルベルトだったが、意志の強い瞳で見られたことでしぶしぶ封印布をレイラに渡していた。
 レイラは、渡された封印布を受け取って、その中身に意識を流し込む。
 今回も、ギルベルトに後ろから抱きしめられるような体勢で魔操術を施行していた。
 
 そして、今回レイラが見た場面は、先ほどのことと相まってレイラに精神的なダメージを与えたのだ。
 レイラが見た指の記憶は、レイラに指の持ち主の感じた恐怖を擦り付けたのだ。
 
 指の持ち主の心が引き裂かれるように叫び声をあげていた。
 
 痛い。怖い。兄さん助けて。嫌だ嫌だ嫌だ!
 
 そんな気持ちがレイラにダイレクトに流れてきたのだ。何事だろうと周囲を見回したレイラは口を両手で覆って悲鳴を飲み込んだ。
 眼下に広がったシーンは、指の持ち主の男が、体格のいい男に無理やり犯されている場面だったのだ。
 体格のいい男は、無理やり指の持ち主の男の口を塞いで、無理やり挿入を続ける。
 尻の穴が切れているのだろう、ベッドは血に塗れていた。
 指の持ち主の男は、泣きながら何度も許しを請い、助けを求めていたのだ。
 体格のいい男が体を震わせて、欲望を指の持ち主の男に向かって吐き出すのと同時に指の記憶は途切れたのだった。
 レイラは、絶叫と共に意識を浮上させていた。
 
 悲鳴を上げるレイラを抱きしめて落ち着けようとするギルベルトの腕の中で、レイラは何度も荒い呼吸を繰り返す。
 気持ちが記憶の中の指の持ち主の男に引っ張られて、レイラはパニックを起こしている。
 ヒューヒューと喉が鳴り、レイラは過呼吸を起こしてしまっていた。
 ギルベルトは、そんなレイラを落ち着けるため、彼の小さく薄い唇を覆う様に塞いでいた。
 レイラの呼吸が落ち着くまで、ギルベルトはその唇を自身の唇で覆い続けたのだ。
 次第にレイラの呼吸も落ち着きを取り戻していった。
 ぼんやりとする視界の中に映るギルベルトに手を伸ばしたレイラは、安心させるように笑顔を見せるのだ。
 レイラの唇を解放したギルベルトは、呼吸の落ち着いたレイラの小さな体をぎゅっと抱きしめていた。
 
「レイラ、レイラ!」

 必死に自分の名前を呼ぶギルベルトの頬を優しく撫でたレイラは、ぼんやりとした様子で言った。
 
「ぎる……。ごめん……。ありがとう……」

 そう言うと、レイラはぐったりとして意識を失ってしまうのだ。
 意識を失ったレイラの手からは、封印布から左の小指が転がり落ちていたのだった。
 
 レイラが意識を失った後、ギルベルトはその華奢な体を抱きしめていた。
 苦しむレイラをただ抱きしめることしかできない自分が不甲斐なくて仕方がなかったのだ。
 術式の核を取り除いたことで、それまで漂っていた不快な空気はなくなっていた。
 恐らく、今後不可思議な出来事は起こらないであろうことが伺い知れた。
 ギルベルトは、気を失ったレイラを横抱きにして取っている宿に戻ることにした。
 気配を消す魔術を使って、誰にも気が付かれることなく宿に戻ったギルベルトは、レイラをベッドの上に寝かせて、その疲れ切った顔のレイラを撫でる。
 柔らかい頬を撫でると、レイラの表情がふと柔らかいものに変わっていた。
 
「姉さん……。無理はしないでくれ……。もう、大切な人を失うのはごめんだ」


 その後、目覚めたレイラは、自分が見たことをギルベルトに語ったのだ。
 話を聞いたギルベルトは、難しい顔で言うのだ。
 
「そうだったのか……。場になった場所にあった怨念と術式に使われた指の記憶……。二つに関係性はないと思うが……。どちらも嫌な事件だったな……。もう魔術式は壊したし、もう忘れよう。こんなこと忘れた方がいいさ」

 ギルベルトは、元気のないレイラを見てそう言って励ましていた。
 レイラも、ギルベルトの気持ちを理解して小さく頷いていた。
 
 こうして、二つ目の指にかかわる事件は後味の悪さを二人に残して解決したのだった。

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