記憶喪失中の美少年は、眼帯青年を甘やかしたい!

バナナマヨネーズ

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第一部 第三章

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 立ち寄った街でギルベルトがハンターギルドの仕事を請け負ったり、時には街を観光しつつ二人の旅は続いていた。
 レイラは、日々の中で少しずつ歩く練習を重ねていたが、未だに一人で歩くとは出来ていなかった。
 そんなレイラにギルベルトは、「姉さんのことは、俺が一生面倒みるから大丈夫だ」と謎の励ましを掛けるので、そのたびに、レイラは頬を膨らませていたのだ。
 しかし、ギルベルトには、「可愛らしいレイラの姿が見られて得をした」という気持ちにさえるだけだったことをレイラは知らなかった。

 そんな二人が今回立ち寄ったのは、蒸しパンが美味しいと有名なとある町に来ていた。
 そこは、本当に小さな町で、これと言った観光地はなかったが、ハチミツの生産地として、知る人ぞ知る町だった。
 ギルベルトは、旅をする中でレイラが甘いものが大好きなことに気が付き、度々レイラのためにそれとなくを装って、甘いお菓子が名物な土地に足を運んでいた。
 甘いものを美味しそうに食べるレイラを見ていると、昔ギルベルトを扱き倒した鬼の如くなレイラが嘘のようだった。
 そして、ふと思うのだ。赤髪のレイラは、甘い物がこれほど好んで食べていただろうかと。
 しかし、大切なのは今目の前で美味しそうにお菓子を頬張る方のレイラだった。
 
 町に着いた二人は、さっそく宿屋に向かっていた。
 小さな町のため、宿屋の数は少なく、下手をすると泊まれない可能性もあるため、出来るだけ早く部屋を取ることにしたのだ。
 無事に部屋を取った二人は、いつものようにギルベルトがレイラを横抱きにした状態で町の中を見て回った。
 白金の美しい髪をハーフアップに結い上げて、美しい少女が花のような笑顔を浮かべ、その美少女を大切そうに抱きかかえる黒髪黒目でミステリアスな眼帯を付けた、これまた美しい青年が歩く姿は人目を引いた。
 レイラは特に気にはしなかったが、じろじろと不躾な視線を向けられたことに気づいていたギルベルトは、不機嫌そうな表情になっていた。
 そんなギルベルトに気が付いたレイラは、眉を寄せて自分を抱き上げてくれているギルベルトの頬を優しく撫でるのだ。
 
「こーら。そんなに不機嫌そうにしないの。ほら?」

 そう言って、指先でギルベルトの頬をツンツンとレイラは突いた。
 レイラの細い指先で頬をいたずらされていたギルベルトは、ついつい頬を緩めてしまう。
 
「くすくす。そうだよ、これは楽しい旅行なんだから」

「わかったよ、姉さん」

 そう言って、ギルベルトの機嫌を取ったレイラは、目的地である蒸しパン屋の軒先に到着し、瞳をキラキラと輝かせるのだ。
 目の前には、蒸し器でホカホカに蒸しあげられた美味しそうな蒸しパンが並んでいたのだ。
 店員に聞くと、今の時期は、栗の入った蒸しパンと、サツマイモが入ったものが人気だという。
 悩んだ結果、ギルベルトと半分こしつつ、数種類の味を食べることにしたレイラは、ギルベルトに買ってもらった蒸しパンを店先で食べることにした。
 もちろん、ベンチに座るギルベルトの膝の上に座る形で、レイラは蒸しパンを頬張る。
 そして、当然の如くレイラはギルベルトに蒸しパンを食べさせるため「はい。ギル、あーん」とするのだ。
 これには、店番をしていた中年の女性も顔を赤くさせてニヨニヨと二人を盗み見てしまっていた。
 レイラは美味しい蒸しパンを、ギルベルトはレイラのあーんで機嫌を良くしている二人の耳に、気になる話が飛び込んでくる。
 向かい側のパラソル付きのベンチに座る、二人の女性は、眉を顰めてひそひそと噂話に興じていた。
 
「また、呪いの屋敷で事故だってさ」

「ああ、聞いた聞いた。でも、領主様も懲りないねぇ」

「本当よ。工事に入る職人が何人も怪我してるっていうのに……」

「ねえ。でも、聞いた話だと、あの呪いの屋敷の離れにはすっごい財宝が眠ってるって!」

「う~ん。それは私も聞いたことあるけど……」

「うん」

「こんな田舎で、すごい財宝ってすごく、ないわね」

「そうね……。そころで、あっちのベンチの!」

「うん。私も気が付いたわよ」

「「イケメーン。本当に格好いいわね~」」

 途中からギルベルトの格好良さに話題が変わっていた向こう側の二人に、レイラは軽く手を振って見せる。
 すると、向こう側の二人の女性は、頬を染めてうっとりとレイラを見つめて言うのだ。
 
「「美少女ちゃんに手を振られちゃった~」」

 そんな、楽しそうな女性二人から、眉をピクリとさせて少し不機嫌そうな表情になっているギルベルトに視線を向けたレイラはくすくすと微笑む。
 
「可愛い二人だね」

「別に……」

「まあまあ。ところで、お嬢さん方の話。興味深いよね」

 そう言って、話題を変えたレイラにギルベルトも同意する。
 
「確かに。何かあるとみて間違いないな。面倒ごと―――」

 ギルベルトが面倒ごとはごめんだと言おうとしたがすでに遅かった。
 瞳を輝かせたレイラが、下からギルベルトを見上げて言うのだ。
 
「お宝、財宝。う~ん。ロマンがるよね! ねぇ、ここで観光は無理だと思っていたけど、宝探しが出来そうでワクワクするね!」

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