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第一部 第二章
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封印布の中のものに意識を流し込んだレイラは、その中にあったものの記録……、否、記憶を追体験していた。
レイラは、苦しくて悲しくて、死んでしまいたいと思った。
正確には、封印布の中にあったのもが、だが。
心の中に流れ込む、複雑な感情を読み取り、封印布の中身が人体の一部なのだとレイラは理解する。
それと同時に、封印布の中身の人物の狂おしいほどの悲しみ、恐怖、後悔と言った感情に押し流されてしまいそうだった。
それでも、この封印の核に使われた記憶を読み取り、解放する必要があった。
レイラは、周囲に視線を向けると、その場には封印布の中身となった人物以外に誰かがいたことに気が付く。
聞き取りにくいが、声が聞こえた。
レイラは、もっと深く記憶を読み取ろうと、意識を同調させる。
すると、先ほどよりもクリアに音が耳に入ってきたのだ。
「兄さん……。ごめん、ごめんなさい……」
「※※※、お願いだ、嘘だと言ってくれ! お前だけは、私を裏切らないでくれ! 私にお前を傷つけさせないでくれ!!」
「ごめん、ごめん……。兄さん、ごめんなさい」
一部の音が雑音で聞こえなかったが、兄弟と思われる二人が言い争っている場面だった。
泣き崩れる弟と思わしき人物が、恐らく封印布の中身なのだろうと、レイラは感じた。
そして、その弟を悲しそうな表情で叱りつける、兄と思われる人物。
レイラが、兄と思われる人物に視線を向けると、その手には鈍く光るナイフが握られていたのだ。
危ない、とレイラが思い、体を動かそうとしたが無駄だった。
これは、記憶の中の世界。すでに起こったことを変えることなど出来ないのだ。そして、レイラは、ただの傍観者なのだ。すべて見ていることしかできないのだ。
レイラが、どうしようもなく歯がゆい思いをしていると、兄と思われる人物は、持っていたナイフで、封印布の中身の人物の胸を深々と抉っていた。
薄れゆく意識の中で、封印布の中身の人物は、心を痛めていた。体に走る痛みよりも、自分を殺した兄を思って、心で涙を流す。そして、祈るようにこう叫んだのだ。
「誰か、兄さんを止めて!! 兄さんを助けて!!」
レイラは、その悲痛な叫びを聞きながら意識を浮上させた。
体に意識が戻った反動で、レイラは激しく咳き込む。
そんなレイラの背中を優しく擦りながら、ギルベルトは言うのだ。
「よかった……。姉さん、お帰り」
泣きそうな顔でそう呟くギルベルトの頬を撫でたレイラは、荒い呼吸を何とか整えて笑顔を見せる。
「ただいま」
息を整えたレイラは、手の中の封印布に包まれたものをそっと撫でた後に、ゆっくりと布を解いていった。
そして、現れたものに眉を寄せるのだ。
封印布の中から現れたものは、人間の指だった。
先ほど見た記憶の中で、ナイフで刺された人物の左手の人差し指がそこにあったのだ。
レイラは、中から出てきたものに驚くギルベルトに説明をする。
「封印布に包まれている物……。今回は指だけど、封印を解くには、中に入っているものの記録を読み取って、外に開放することが条件なんだよ。だから、私が入っていた指に残されていた記憶を読み取った時点で、封印布の効果は切れて、布は解ける。そうすると……。見て、魔術の術式が崩壊していくよ」
レイラが指さした方向にあったはずの禍々しささえ感じさせていたあの術式が瓦解していたのだ。
「そんなことで……。いや、魔操術で記録を読み取るのは危険なことだ。下手をすれば、精神が記録にのまれて廃人になる可能性もある……。姉さん……、もう無茶はやめてくれ……」
「ごめん。でも、先に謝っておく。多分、まだこの力を使って、封印布を解く必要があるんだと思う……」
そう言ったレイラは、指から読み取った記憶をギルベルトに伝える。ギルベルトは、顎に手を当てて考え込む。
「確かに……。指一本だけと言うのが引っ掛かるな。恐らく、指の数だけ……」
「うん。あと四つ。もしくは九つある可能性大だね~」
そう言って、ふにゃりと笑うレイラにギルベルトは、眉を寄せる。
「止めても聞かないんでしょうね……。はぁ、次は、俺が魔操術で―――」
「それは認められない」
「なっ!」
「だって、ギルって魔術の才能は超超超~天才的だったのに、なんでか魔操術ヘタッピだったよね?」
「ぐっ……」
「そんな子に、こんな危険なことお願いできないよ。もし、次に魔操術で記録を読む必要があったら、私にやらせてね」
そう言って、決意の籠る紫の瞳で見つめられたギルベルトは、唸ることしかできなかった。
肯定も否定も出来ずただ唸ったのだ。
そんな、ギルベルトの心を感じ取ったレイラは、手を伸ばしてギルベルトの頭を撫でる。
「ごめんね?」
ギルベルトは、大きなため息を吐く。
姉は昔から……、そこまで考えて、今の復活したレイラに複雑な思いが沸き上がるギルベルトだったが、その複雑な気持ちを掘り下げることが危険な気がして、そっとその思いに蓋をするのだった。
レイラは、苦しくて悲しくて、死んでしまいたいと思った。
正確には、封印布の中にあったのもが、だが。
心の中に流れ込む、複雑な感情を読み取り、封印布の中身が人体の一部なのだとレイラは理解する。
それと同時に、封印布の中身の人物の狂おしいほどの悲しみ、恐怖、後悔と言った感情に押し流されてしまいそうだった。
それでも、この封印の核に使われた記憶を読み取り、解放する必要があった。
レイラは、周囲に視線を向けると、その場には封印布の中身となった人物以外に誰かがいたことに気が付く。
聞き取りにくいが、声が聞こえた。
レイラは、もっと深く記憶を読み取ろうと、意識を同調させる。
すると、先ほどよりもクリアに音が耳に入ってきたのだ。
「兄さん……。ごめん、ごめんなさい……」
「※※※、お願いだ、嘘だと言ってくれ! お前だけは、私を裏切らないでくれ! 私にお前を傷つけさせないでくれ!!」
「ごめん、ごめん……。兄さん、ごめんなさい」
一部の音が雑音で聞こえなかったが、兄弟と思われる二人が言い争っている場面だった。
泣き崩れる弟と思わしき人物が、恐らく封印布の中身なのだろうと、レイラは感じた。
そして、その弟を悲しそうな表情で叱りつける、兄と思われる人物。
レイラが、兄と思われる人物に視線を向けると、その手には鈍く光るナイフが握られていたのだ。
危ない、とレイラが思い、体を動かそうとしたが無駄だった。
これは、記憶の中の世界。すでに起こったことを変えることなど出来ないのだ。そして、レイラは、ただの傍観者なのだ。すべて見ていることしかできないのだ。
レイラが、どうしようもなく歯がゆい思いをしていると、兄と思われる人物は、持っていたナイフで、封印布の中身の人物の胸を深々と抉っていた。
薄れゆく意識の中で、封印布の中身の人物は、心を痛めていた。体に走る痛みよりも、自分を殺した兄を思って、心で涙を流す。そして、祈るようにこう叫んだのだ。
「誰か、兄さんを止めて!! 兄さんを助けて!!」
レイラは、その悲痛な叫びを聞きながら意識を浮上させた。
体に意識が戻った反動で、レイラは激しく咳き込む。
そんなレイラの背中を優しく擦りながら、ギルベルトは言うのだ。
「よかった……。姉さん、お帰り」
泣きそうな顔でそう呟くギルベルトの頬を撫でたレイラは、荒い呼吸を何とか整えて笑顔を見せる。
「ただいま」
息を整えたレイラは、手の中の封印布に包まれたものをそっと撫でた後に、ゆっくりと布を解いていった。
そして、現れたものに眉を寄せるのだ。
封印布の中から現れたものは、人間の指だった。
先ほど見た記憶の中で、ナイフで刺された人物の左手の人差し指がそこにあったのだ。
レイラは、中から出てきたものに驚くギルベルトに説明をする。
「封印布に包まれている物……。今回は指だけど、封印を解くには、中に入っているものの記録を読み取って、外に開放することが条件なんだよ。だから、私が入っていた指に残されていた記憶を読み取った時点で、封印布の効果は切れて、布は解ける。そうすると……。見て、魔術の術式が崩壊していくよ」
レイラが指さした方向にあったはずの禍々しささえ感じさせていたあの術式が瓦解していたのだ。
「そんなことで……。いや、魔操術で記録を読み取るのは危険なことだ。下手をすれば、精神が記録にのまれて廃人になる可能性もある……。姉さん……、もう無茶はやめてくれ……」
「ごめん。でも、先に謝っておく。多分、まだこの力を使って、封印布を解く必要があるんだと思う……」
そう言ったレイラは、指から読み取った記憶をギルベルトに伝える。ギルベルトは、顎に手を当てて考え込む。
「確かに……。指一本だけと言うのが引っ掛かるな。恐らく、指の数だけ……」
「うん。あと四つ。もしくは九つある可能性大だね~」
そう言って、ふにゃりと笑うレイラにギルベルトは、眉を寄せる。
「止めても聞かないんでしょうね……。はぁ、次は、俺が魔操術で―――」
「それは認められない」
「なっ!」
「だって、ギルって魔術の才能は超超超~天才的だったのに、なんでか魔操術ヘタッピだったよね?」
「ぐっ……」
「そんな子に、こんな危険なことお願いできないよ。もし、次に魔操術で記録を読む必要があったら、私にやらせてね」
そう言って、決意の籠る紫の瞳で見つめられたギルベルトは、唸ることしかできなかった。
肯定も否定も出来ずただ唸ったのだ。
そんな、ギルベルトの心を感じ取ったレイラは、手を伸ばしてギルベルトの頭を撫でる。
「ごめんね?」
ギルベルトは、大きなため息を吐く。
姉は昔から……、そこまで考えて、今の復活したレイラに複雑な思いが沸き上がるギルベルトだったが、その複雑な気持ちを掘り下げることが危険な気がして、そっとその思いに蓋をするのだった。
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