記憶喪失中の美少年は、眼帯青年を甘やかしたい!

バナナマヨネーズ

文字の大きさ
上 下
8 / 28
第一部 第二章

5

しおりを挟む
 ギルベルトの魔術展開が素早く行われたため、黒ずんだ箱から放出された黒いマナは薄れたのだった。
 しかし、一刻も早く箱の中にあるだろう核を壊さなければ、女性の生命力を媒体にまた黒いマナが作られる可能性があったのだ。
 ギルベルトは、一気に箱に駆け寄り、身体強化を最強強度で展開して、鉄製の箱を粉砕していた。
 レイラは、思いもよらなかったギルベルトの力技に目を丸くする。
 しかし、粉砕された箱の粒子に交じって、ボロボロの布に包まれた何かがポトリと地面に落ちたことに、レイラの意識は向かっていた。
 遠目ではあったが、レイラにはその布が何なのか分かったのだ。
 それの正体に気が付いていないギルベルトは、不審なぼろ布に眉を寄せて警戒する。
 レイラは、ギルベルトに指示を出していた。
 
「ギル、それは、封印布だ! それをこっちに持ってきて」

 聞いたことのない言葉に疑問は浮かんだギルベルトだったが、すぐにぼろ布を持ってレイラの元に戻っていた。
 手を差し出していたレイラに、そっとそのぼろ布を渡す。
 レイラは、手渡された封印布につつまれた何かを見て眉を寄せる。
 
「う~ん。厄介だなぁ」

 レイラのその言葉にギルベルトすぐに物騒な提案をする。
 
「それなら、俺が一瞬でこれを砕こうか?」

 レイラは、ギルベルト提案にとんでもないと首を振る。
 
「な、なんて危ないことを考えているんだ君は……。はぁ……。ギルには、教えなかったっけ? 特殊な術式を展開させるのに使う核、魔術核ね。それで、このボロボロの布はそれを封印する封印布だよ。封印布は、中に入っているものの力で封印の力を発揮するんだけど、それを破るには、封印布を傷つけずに、中のものを見通す必要があるんだ……」

 レイラの説明を聞いたギルベルトは、眉を吊り上げてレイラのしようとしていることを止めようとする。
 
「駄目だ! もしかしなくても、魔操術を使って、読み取るつもりだな?! 危険すぎる。彼女には悪いが、これは再封印してしまった方がいい」

 血相を変えてそう進言するギルベルトにレイラは首を振った。
 
「駄目だ。再封印しても、いつこの魔術核を使った術式が展開されるかわからない。これは危険だ。どう見ても危険な術式に見える。だから、術式は解体しないといけない」

「でも!」

「いい子だから、私を信じて任せてくれないかな?」

 レイラは、そう言って心底レイラを心配するギルベルトの頬を撫でる。
 そして、安心させるようにこう言うのだ。
 
「いろいろな記憶はないけど、魔術のこと、魔操術の知識だけは豊富だから。お姉ちゃんに任せなさい! って言っても知識があるだけで、魔術は使えなくなっちゃったんだけどね~。でもでも、魔操術はばっちり使えるはずだから!」

 そう言って、にこりと微笑むのだ。
 何を言っても、もうやると決めたレイラをギルベルトに止めることは出来なかった。
 だから、ギルベルトはレイラの横に座り胡坐をかいた。
 そして、胡坐をかいた足の上にレイラを座らせて、後ろから抱きしめるようにして、封印布を握るレイラの手をそっと両手で覆ったのだ。
 
「分かった。姉さんが戻ってこられるように、俺は呼び続けるから。だから、無茶だけはしないでくれ。危険だと思ったら、記録を読んでいる途中でも必ず戻ってきてくれ……。もう、俺の前から居なくならないでくれ……。お願いだ、姉さん」

 祈るような眼差しでそう訴えるギルベルトに視線を向けたレイラは頷く。
 
「うん。約束する。ギルとの約束、絶対に守る。だから私の手、何があっても離さないでね」

「ああ。約束する」

「うん。行ってきます」

 そう言ったレイラは、封印布の中に閉じ込められているものに意識を流し込む。
 体からレイラの意識が封印布の中のものに流れていくと、レイラは力を失ったようにギルベルトの胸にぐったりと寄り掛かる。
 それを見たギルベルトは、きつく眉を寄せて祈るように言うのだ。

「姉さん、気を付けて」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

処理中です...