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第一部 第二章
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レイラを抱えたギルベルトは、周囲のマナを探っていた。
十年以上前のことだ。赤髪の方のレイラにギルベルトが引き取られて、初めて習った魔術がマナ感知だった。
赤髪のレイラは、まだ小さかったギルベルトにこう教えたのだ。
「ギルベルト。魔術師は、マナを何よりも敏感に感じなければならない。あんたには才能がある。その才能をスレイブ家のために伸ばせ。そして、私が死んだら、私の後を継いでスレイブ辺境伯となり※※※を使って、※※を守れ」
幼いギルベルトには、自分を引き取った養母のレイラが、真剣な翠眼の瞳でそう言ったことが心に残ったのだ。
ただ、スレイブ辺境伯になった後、何を守ればいいのかという部分の記憶だけがぽっかり抜け落ちていたのだ。
ギルベルトは、赤髪のレイラの実の弟ではなかった。
正確な関係は義理の親子だった。
孤児だったギルベルトの魔術師の才能を見出したレイラが、ギルベルトを養子として引き取ったのだ。
ただ、歳の近かったギルベルトに「母さん」と呼ばれるのを嫌ったレイラが、幼いギルベルトに「私のことは姉と呼ぶように。それ以外で呼んだら……。分かるよな?」と言って脅した結果、ギルベルトは、レイラのことを「姉さん」と呼ぶようになったのだ。
昔を思い出していたギルベルトは、街の西側でマナが不自然に淀んでいる場所を感知した。
通常、世界に満ちているマナは、決して滞ることなどないのだ。
常に、風のように世界を流れ優しく人々を包み込む物なのだ。
ギルベルトは、そこに何かあると考え、腕の中のレイラに声をかけて走るスピードをあげた。
魔術で身体強化を施し、さらに周辺の空気の流れを魔術で操って見せたのだ。
もちろん、レイラに負担がかからないように、レイラを包むように守りの障壁を張ることを忘れない。
あっという間にたどり着いた場所は、驚くほど穢れたマナで満ちていたのだ。
ギルベルトは、何故これほどの穢れに今まで気が付かなかったのかと目を見開く。
そんなギルベルトの驚きを知ってか知らずか、レイラは朽ちかけた貴族のものと思われる屋敷のある一画を指さしていた。
「ギル、あそこに!」
レイラの指示した場所には、ぐったりとした様子で横たわる女性がいたのだ。
恐らく、彼女がギルベルトたちが探していた、消えた女性なのだろう。
数歩で女性の元に駆け寄ったギルベルトは、暗闇の中でも分かるほど顔色の悪い女性の脈をとる。
非常に弱いがその女性はまだ、辛うじてだが息をしていた。
女性に守りの障壁を張り、同時に周囲の水を操り、女性がこれ以上濡れないように術を施す。
ギルベルトは、意識のない女性をレイラを抱えているのとは反対側の腕で持ち上げて肩に担いだ。
しかし、足を踏み出そうとした瞬間、屋敷を蔽う様に掛けられている術式に気が付いたのだ。
「もしかすると……。あの屋敷を蔽っている術式が、この不自然なマナの滞りを作っている原因なのか?」
ギルベルトがそう口にすると、レイラが確信を持った様子で言ったのだ。
「ギル、その女の人、生命力をその術式に吸われてる……。このままだと……。ギル、あの術式の核になっている物をどうにかしないと駄目だ」
レイラにそう言われたギルベルトは、女性に向かって意識を集中する。
そして気が付く。確かに、細い糸で女性と術式を繋ぐようにして、少しずつ生命力が術式に向かって流れ出ていたのだ。
肩に担いでいた女性を下したあと、レイラのこともそっと地面に降ろしたギルベルトは、術式の核を探すのだ。
目を瞑り、周囲のマナの流れを読み取るように心を広げる。
あまり心を広げるのは危険なため、慎重に周囲を読み取っていると、屋敷の近くに生えている木の根元深くから微かな魔力を感じることができたギルベルトは、パッと目を開けて、突き止めた場所を魔術を使って一気に掘り起こす。
そして、掘り起こした場所からは、黒ずんだ鉄製と思われる小さな箱が出てきたのだ。
その箱は、ギルベルトが掘り起こした瞬間から、息を詰まらせるような黒いマナを放出しだしていたのだ。
レイラは、ギルベルトの服を引っ張り強い口調で指示をする。
「ギル! あれは、危険な術式だ! すぐに浄化術式を全方位展開! 急いで!」
ギルベルトは、考える前にレイラから指示された最高位の浄化術式を展開させた。
ただし、浄化と言っても本当に穢れたマナを消せるわけではなかった。
周囲の正常なマナを取り込み、穢れたマナを薄めるのだ。
そして、薄めたマナを広範囲に攪拌させることで、マナの流れを人工的に作り出すのだ。
そうすることで、穢れたマナが溜まって引き起こす魔術災害を回避することができるのだ。
ただし、これは穢れたマナがそこまで多くないことが前提の方法だった。
もし、この場で発見した黒いマナがもっと多ければ、掘り出した時点で大災害を引き起こしていた可能性があったのだ。
十年以上前のことだ。赤髪の方のレイラにギルベルトが引き取られて、初めて習った魔術がマナ感知だった。
赤髪のレイラは、まだ小さかったギルベルトにこう教えたのだ。
「ギルベルト。魔術師は、マナを何よりも敏感に感じなければならない。あんたには才能がある。その才能をスレイブ家のために伸ばせ。そして、私が死んだら、私の後を継いでスレイブ辺境伯となり※※※を使って、※※を守れ」
幼いギルベルトには、自分を引き取った養母のレイラが、真剣な翠眼の瞳でそう言ったことが心に残ったのだ。
ただ、スレイブ辺境伯になった後、何を守ればいいのかという部分の記憶だけがぽっかり抜け落ちていたのだ。
ギルベルトは、赤髪のレイラの実の弟ではなかった。
正確な関係は義理の親子だった。
孤児だったギルベルトの魔術師の才能を見出したレイラが、ギルベルトを養子として引き取ったのだ。
ただ、歳の近かったギルベルトに「母さん」と呼ばれるのを嫌ったレイラが、幼いギルベルトに「私のことは姉と呼ぶように。それ以外で呼んだら……。分かるよな?」と言って脅した結果、ギルベルトは、レイラのことを「姉さん」と呼ぶようになったのだ。
昔を思い出していたギルベルトは、街の西側でマナが不自然に淀んでいる場所を感知した。
通常、世界に満ちているマナは、決して滞ることなどないのだ。
常に、風のように世界を流れ優しく人々を包み込む物なのだ。
ギルベルトは、そこに何かあると考え、腕の中のレイラに声をかけて走るスピードをあげた。
魔術で身体強化を施し、さらに周辺の空気の流れを魔術で操って見せたのだ。
もちろん、レイラに負担がかからないように、レイラを包むように守りの障壁を張ることを忘れない。
あっという間にたどり着いた場所は、驚くほど穢れたマナで満ちていたのだ。
ギルベルトは、何故これほどの穢れに今まで気が付かなかったのかと目を見開く。
そんなギルベルトの驚きを知ってか知らずか、レイラは朽ちかけた貴族のものと思われる屋敷のある一画を指さしていた。
「ギル、あそこに!」
レイラの指示した場所には、ぐったりとした様子で横たわる女性がいたのだ。
恐らく、彼女がギルベルトたちが探していた、消えた女性なのだろう。
数歩で女性の元に駆け寄ったギルベルトは、暗闇の中でも分かるほど顔色の悪い女性の脈をとる。
非常に弱いがその女性はまだ、辛うじてだが息をしていた。
女性に守りの障壁を張り、同時に周囲の水を操り、女性がこれ以上濡れないように術を施す。
ギルベルトは、意識のない女性をレイラを抱えているのとは反対側の腕で持ち上げて肩に担いだ。
しかし、足を踏み出そうとした瞬間、屋敷を蔽う様に掛けられている術式に気が付いたのだ。
「もしかすると……。あの屋敷を蔽っている術式が、この不自然なマナの滞りを作っている原因なのか?」
ギルベルトがそう口にすると、レイラが確信を持った様子で言ったのだ。
「ギル、その女の人、生命力をその術式に吸われてる……。このままだと……。ギル、あの術式の核になっている物をどうにかしないと駄目だ」
レイラにそう言われたギルベルトは、女性に向かって意識を集中する。
そして気が付く。確かに、細い糸で女性と術式を繋ぐようにして、少しずつ生命力が術式に向かって流れ出ていたのだ。
肩に担いでいた女性を下したあと、レイラのこともそっと地面に降ろしたギルベルトは、術式の核を探すのだ。
目を瞑り、周囲のマナの流れを読み取るように心を広げる。
あまり心を広げるのは危険なため、慎重に周囲を読み取っていると、屋敷の近くに生えている木の根元深くから微かな魔力を感じることができたギルベルトは、パッと目を開けて、突き止めた場所を魔術を使って一気に掘り起こす。
そして、掘り起こした場所からは、黒ずんだ鉄製と思われる小さな箱が出てきたのだ。
その箱は、ギルベルトが掘り起こした瞬間から、息を詰まらせるような黒いマナを放出しだしていたのだ。
レイラは、ギルベルトの服を引っ張り強い口調で指示をする。
「ギル! あれは、危険な術式だ! すぐに浄化術式を全方位展開! 急いで!」
ギルベルトは、考える前にレイラから指示された最高位の浄化術式を展開させた。
ただし、浄化と言っても本当に穢れたマナを消せるわけではなかった。
周囲の正常なマナを取り込み、穢れたマナを薄めるのだ。
そして、薄めたマナを広範囲に攪拌させることで、マナの流れを人工的に作り出すのだ。
そうすることで、穢れたマナが溜まって引き起こす魔術災害を回避することができるのだ。
ただし、これは穢れたマナがそこまで多くないことが前提の方法だった。
もし、この場で発見した黒いマナがもっと多ければ、掘り出した時点で大災害を引き起こしていた可能性があったのだ。
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