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第一部 第一章
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ルナは、一人考え込んでいる男に向かって、にこりと微笑んで提案するのだ。
「お兄さん。私、お兄さんと一緒に居たい。なんだか、お兄さんと一緒に居れば、記憶が戻るかもしれないし。それに、もし、私が本当にお兄さんのお姉さんだったら、お兄さん嬉しでしょ?」
ニコニコとそう言うルナに、男は困惑した様子ではあったが、きっぱりと否定の言葉を口にしていた。
「いや……。駄目だ。連れて行けない」
きっぱりとそう言う男に、一抹の寂しさを感じつつも、ルナはあっさりと頷く。
「そっか。そうだよね。ごめんなさい。無理言って困らせて……。うん……」
しょんぼりとそう言ったルナは、肩を落として、車椅子を動かしていた。そして、小さく男に手を振ってから、舞台裏に戻って行くのだった。
その場に残された男は、自分で断ったくせに、名残惜しそうに去っていくルナの背中を見つめていたのだった。
しょんぼりとした様子のルナが戻ってきたのを見たリンダは、困った様に眉を寄せた後に、母親のような優しい瞳でルナに言うのだ。
「ルナ……。さっきの男、もしかして知り合いかい?」
リンダの言葉に、どう答えていいかわからなかったルナだったが、素直な気持ちを口にしていた。
「分からない。でも、あの人がすごーく気になる。でも、付いてくるなって……。そうだよね。私、こんなんだし……。迷惑だよね……」
しょんぼりとそう口にするルナの頬を優しく両手で包んだリンダは、慈愛の籠った瞳でルナを見つめて言うのだ。
「あたしは、ルナをすっごく可愛いって思ったことはあっても、迷惑だなんて思ったことなんて一度もないよ? 確かに、歩けないあんたは、いろいろ大変だと思うよ。でも、あたしたちは、それも含めてあんたが好きなんだよ? あたしたちのこと見くびる子はこうしてやるさ」
そう言って、リンダは優しくルナの頬を引っ張るのだ。そして、コツンと額をぶつけた後に、言うのだ。
「あんたの持ち味は、素直で思ったら即行動なところだよ。記憶を取り戻す可能性がある気になる男が目の前に居たら、齧りつきな。可愛いあんたにお願いされたら、絶対に落ちるよ。さぁ、がんばりな。それと、ルナって名前は返してもらうよ。記憶が戻ったら、本当の名前を教えに会いに来なね?」
そう言って、リンダはルナと名付けた少年の車椅子を押して歩き出したのだ。
リンダは、すぐに少年が先ほどまで話していた男を見つけて声をかける。
「ちょっと、あんた!!」
男はリンダの声に振り向き、そして、少年に視線を向けて眉を寄せるのだ。
そんな男の様子を見たリンダは、「あぁ~、これは、あと少し背中押したらいけるやつだわ」と感じ、躊躇いなく男に言うのだ。
「この子は、可愛い可愛い、あたしたちの歌姫だ。大切にしてくれなきゃ、ど突きにいくからね!! あんたも、しっかりおやり」
そう言って、リンダは車椅子から手を放して少し距離を置いた場所でふんすと仁王立ちで二人を見守る体勢になるのだ。
残された二人は、無言で見つめ合っていたが、少年が先に声をかける。
「お願い。歩けない私は、すごーく迷惑な存在だって理解してる。でも、あなたがすごく気になって、離れちゃダメな気がするの……。お願い、傍に居させて!」
少年のその懇願を聞いた男は、困ったように眉を寄せた後に、そっぽを向いて小さく頷くのだ。
それをしっかりと瞳に映していた少年は、大輪の花のような笑顔になる。
「うん!」
そんな二人のやり取りを見ていたリンダは、やれやれと言った様子で肩をすくめる。
男は、可愛らしい笑顔の少年を車椅子から抱き上げて、横抱きにすると、リンダの元にやってきて言った。
「姉さん……、いや、あんたらの歌姫は俺がしっかり守るから安心してくれ」
「ああ、うちの子をよろしく頼んだよ」
「ああ。任せろ」
そんな男とリンダのやり取りに少年は可笑しそうに笑って言うのだ。
「リンダさんも、お兄さんも。今生の別れじゃないんだよ? リンダさん、記憶が戻ったら……。ううん。戻らなくても、そのうち会いに来るからね」
少年のその言葉を聞いたリンダは、豪快に笑う。
「あははは!! そうだね。いつでも会いに帰ってきなよ。いつでも大歓迎さ」
「うん! リンダさん、今までありがとう。行ってきます!!」
「ああ、頑張んなよ!」
こうして、リンダと一座のみんなに見送られながら、男に横抱きにされた少年は旅立ったのだ。
少し離れた場所にある宿に移動した男は、二人分の宿代を払って部屋に向かった。
そして、そっと少年をベッドに降ろして、改めて自己紹介をするのだ。
「俺は、ギルベルト・スレイブだ。いろいろな土地を旅しながら、ハンターとして生計を立てている」
ギルベルトの自己紹介にくすくすと笑った後、少年は楽しそうに自分もと自己紹介をする。
「私は、記憶喪失で名前がないの。好きなことは歌うこと。これからよろしくね、ギル」
ギルと愛称で呼ばれたギルベルトは、くすぐったさそうに眉を寄せた後に、少年の頭を優しく撫でる。
「よろしく……。姉さん?」
「うん。ギルが呼びやすい様に呼んでいいよ」
「わかった」
こうして、記憶のない少年とギルベルトの旅が始まったのだった。
「お兄さん。私、お兄さんと一緒に居たい。なんだか、お兄さんと一緒に居れば、記憶が戻るかもしれないし。それに、もし、私が本当にお兄さんのお姉さんだったら、お兄さん嬉しでしょ?」
ニコニコとそう言うルナに、男は困惑した様子ではあったが、きっぱりと否定の言葉を口にしていた。
「いや……。駄目だ。連れて行けない」
きっぱりとそう言う男に、一抹の寂しさを感じつつも、ルナはあっさりと頷く。
「そっか。そうだよね。ごめんなさい。無理言って困らせて……。うん……」
しょんぼりとそう言ったルナは、肩を落として、車椅子を動かしていた。そして、小さく男に手を振ってから、舞台裏に戻って行くのだった。
その場に残された男は、自分で断ったくせに、名残惜しそうに去っていくルナの背中を見つめていたのだった。
しょんぼりとした様子のルナが戻ってきたのを見たリンダは、困った様に眉を寄せた後に、母親のような優しい瞳でルナに言うのだ。
「ルナ……。さっきの男、もしかして知り合いかい?」
リンダの言葉に、どう答えていいかわからなかったルナだったが、素直な気持ちを口にしていた。
「分からない。でも、あの人がすごーく気になる。でも、付いてくるなって……。そうだよね。私、こんなんだし……。迷惑だよね……」
しょんぼりとそう口にするルナの頬を優しく両手で包んだリンダは、慈愛の籠った瞳でルナを見つめて言うのだ。
「あたしは、ルナをすっごく可愛いって思ったことはあっても、迷惑だなんて思ったことなんて一度もないよ? 確かに、歩けないあんたは、いろいろ大変だと思うよ。でも、あたしたちは、それも含めてあんたが好きなんだよ? あたしたちのこと見くびる子はこうしてやるさ」
そう言って、リンダは優しくルナの頬を引っ張るのだ。そして、コツンと額をぶつけた後に、言うのだ。
「あんたの持ち味は、素直で思ったら即行動なところだよ。記憶を取り戻す可能性がある気になる男が目の前に居たら、齧りつきな。可愛いあんたにお願いされたら、絶対に落ちるよ。さぁ、がんばりな。それと、ルナって名前は返してもらうよ。記憶が戻ったら、本当の名前を教えに会いに来なね?」
そう言って、リンダはルナと名付けた少年の車椅子を押して歩き出したのだ。
リンダは、すぐに少年が先ほどまで話していた男を見つけて声をかける。
「ちょっと、あんた!!」
男はリンダの声に振り向き、そして、少年に視線を向けて眉を寄せるのだ。
そんな男の様子を見たリンダは、「あぁ~、これは、あと少し背中押したらいけるやつだわ」と感じ、躊躇いなく男に言うのだ。
「この子は、可愛い可愛い、あたしたちの歌姫だ。大切にしてくれなきゃ、ど突きにいくからね!! あんたも、しっかりおやり」
そう言って、リンダは車椅子から手を放して少し距離を置いた場所でふんすと仁王立ちで二人を見守る体勢になるのだ。
残された二人は、無言で見つめ合っていたが、少年が先に声をかける。
「お願い。歩けない私は、すごーく迷惑な存在だって理解してる。でも、あなたがすごく気になって、離れちゃダメな気がするの……。お願い、傍に居させて!」
少年のその懇願を聞いた男は、困ったように眉を寄せた後に、そっぽを向いて小さく頷くのだ。
それをしっかりと瞳に映していた少年は、大輪の花のような笑顔になる。
「うん!」
そんな二人のやり取りを見ていたリンダは、やれやれと言った様子で肩をすくめる。
男は、可愛らしい笑顔の少年を車椅子から抱き上げて、横抱きにすると、リンダの元にやってきて言った。
「姉さん……、いや、あんたらの歌姫は俺がしっかり守るから安心してくれ」
「ああ、うちの子をよろしく頼んだよ」
「ああ。任せろ」
そんな男とリンダのやり取りに少年は可笑しそうに笑って言うのだ。
「リンダさんも、お兄さんも。今生の別れじゃないんだよ? リンダさん、記憶が戻ったら……。ううん。戻らなくても、そのうち会いに来るからね」
少年のその言葉を聞いたリンダは、豪快に笑う。
「あははは!! そうだね。いつでも会いに帰ってきなよ。いつでも大歓迎さ」
「うん! リンダさん、今までありがとう。行ってきます!!」
「ああ、頑張んなよ!」
こうして、リンダと一座のみんなに見送られながら、男に横抱きにされた少年は旅立ったのだ。
少し離れた場所にある宿に移動した男は、二人分の宿代を払って部屋に向かった。
そして、そっと少年をベッドに降ろして、改めて自己紹介をするのだ。
「俺は、ギルベルト・スレイブだ。いろいろな土地を旅しながら、ハンターとして生計を立てている」
ギルベルトの自己紹介にくすくすと笑った後、少年は楽しそうに自分もと自己紹介をする。
「私は、記憶喪失で名前がないの。好きなことは歌うこと。これからよろしくね、ギル」
ギルと愛称で呼ばれたギルベルトは、くすぐったさそうに眉を寄せた後に、少年の頭を優しく撫でる。
「よろしく……。姉さん?」
「うん。ギルが呼びやすい様に呼んでいいよ」
「わかった」
こうして、記憶のない少年とギルベルトの旅が始まったのだった。
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