12 / 14
第十二話 魔法使い
しおりを挟む
ガウェインによって呼び出された魔法使いは、アンリエットを、と言うか、アンリエットに掛けられている術式を懐かしそうに見つめて言った。
「おお。懐かしい。若い頃の俺が施した傑作だ!!」
そう言って、繁々とアンリエットに施された術式を見つめていたが、ガウェインにはアンリエットをいやらしい目つきで見ているようにしか見えなかった。
思わず、部下の魔法使いに殺意の籠もった視線を向けると、一瞬体を震わせた魔法使いは、全身に汗をかいて言い訳をしていた。
「ちっ、違います!!俺は、術式を見ていただけです!!無実です!!」
慌てふためく部下を無視したガウェインは、術式について尋問するかのようなキツイ口調で聞いていた。
「おい、その術式は一体なんなんだ?正直に吐け」
一瞬口ごもった魔法使いは、喉を鳴らしてから覚悟を決めた表情で言ったのだ。
「この術式は、発信元から受信元に脂肪を送るための術式です……」
「は?」
「ですから、あちらにいるご令嬢の脂肪を、こちらにいるご令嬢に転送―――」
その言葉を聞いたガウェインは、一層強い視線で部下の魔法使いを睨み付けていた。
睨み付けられていた魔法使いは、ガクガクと震えながらもガウェインが最も気にしていたことを言った。
「命を……脅かすような類いではありません……」
術式による命の危険はないと知ったガウェインは、安堵の息を吐いていた。
そして、一瞬で射殺さんばかりの表情に戻って、魔法使いに言ってのけたのだ。
「分かった。過去に仕出かしたことを今は問わない……」
その言葉を聞いた魔法使いは、顔中を涙と鼻水で汚しながらも感謝の言葉を口にした。
その後、鬼のように割り振られた、大量の仕事が回ってくることも知らずに。
「将軍……。ありがとうございます!!」
「ただし、今すぐこの不愉快な術式を解除しろ。いいな?」
冷酷将軍の名は伊達ではないと言わんばかりの、暗く刺すように冷たい、鋭い刃物のような視線に、魔法使いは声を出すことも出来ずに、治まったと思った涙と鼻水を洪水のように流しながら必死に頷いていた。
術式の解除は、実にあっさりと成された。
魔法使いが、術式を解除するための呪文を唱える間、ガウェインの部下にその身を押さえつけられて身動きが出来ないでいたジェシカは、ずっと叫んでいた。
「やめて!!いやーー!!そんな恐ろしいことやめて!!やめなさい!!許さない!!」
そんな叫びも無視して、魔法使いは淡々と呪文を唱え続けていた。
そして、魔法使いが、長い呪文を唱え終えた後に、アンリエットとジェシカの間の空間を切るように杖を動かしたのだ。
シンと静まり返ったその場所には、絹を裂くような音が鳴り響いていた。
ビリビリビリ!!!
そう、実際に絹のドレスが裂ける音が鳴り響いていたのだ。
「おお。懐かしい。若い頃の俺が施した傑作だ!!」
そう言って、繁々とアンリエットに施された術式を見つめていたが、ガウェインにはアンリエットをいやらしい目つきで見ているようにしか見えなかった。
思わず、部下の魔法使いに殺意の籠もった視線を向けると、一瞬体を震わせた魔法使いは、全身に汗をかいて言い訳をしていた。
「ちっ、違います!!俺は、術式を見ていただけです!!無実です!!」
慌てふためく部下を無視したガウェインは、術式について尋問するかのようなキツイ口調で聞いていた。
「おい、その術式は一体なんなんだ?正直に吐け」
一瞬口ごもった魔法使いは、喉を鳴らしてから覚悟を決めた表情で言ったのだ。
「この術式は、発信元から受信元に脂肪を送るための術式です……」
「は?」
「ですから、あちらにいるご令嬢の脂肪を、こちらにいるご令嬢に転送―――」
その言葉を聞いたガウェインは、一層強い視線で部下の魔法使いを睨み付けていた。
睨み付けられていた魔法使いは、ガクガクと震えながらもガウェインが最も気にしていたことを言った。
「命を……脅かすような類いではありません……」
術式による命の危険はないと知ったガウェインは、安堵の息を吐いていた。
そして、一瞬で射殺さんばかりの表情に戻って、魔法使いに言ってのけたのだ。
「分かった。過去に仕出かしたことを今は問わない……」
その言葉を聞いた魔法使いは、顔中を涙と鼻水で汚しながらも感謝の言葉を口にした。
その後、鬼のように割り振られた、大量の仕事が回ってくることも知らずに。
「将軍……。ありがとうございます!!」
「ただし、今すぐこの不愉快な術式を解除しろ。いいな?」
冷酷将軍の名は伊達ではないと言わんばかりの、暗く刺すように冷たい、鋭い刃物のような視線に、魔法使いは声を出すことも出来ずに、治まったと思った涙と鼻水を洪水のように流しながら必死に頷いていた。
術式の解除は、実にあっさりと成された。
魔法使いが、術式を解除するための呪文を唱える間、ガウェインの部下にその身を押さえつけられて身動きが出来ないでいたジェシカは、ずっと叫んでいた。
「やめて!!いやーー!!そんな恐ろしいことやめて!!やめなさい!!許さない!!」
そんな叫びも無視して、魔法使いは淡々と呪文を唱え続けていた。
そして、魔法使いが、長い呪文を唱え終えた後に、アンリエットとジェシカの間の空間を切るように杖を動かしたのだ。
シンと静まり返ったその場所には、絹を裂くような音が鳴り響いていた。
ビリビリビリ!!!
そう、実際に絹のドレスが裂ける音が鳴り響いていたのだ。
0
お気に入りに追加
3,016
あなたにおすすめの小説
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
絶対に離縁しません!
緑谷めい
恋愛
伯爵夫人マリー(20歳)は、自邸の一室で夫ファビアン(25歳)、そして夫の愛人ロジーヌ(30歳)と対峙していた。
「マリー、すまない。私と離縁してくれ」
「はぁ?」
夫からの唐突な求めに、マリーは驚いた。
夫に愛人がいることは知っていたが、相手のロジーヌが30歳の未亡人だと分かっていたので「アンタ、遊びなはれ。ワインも飲みなはれ」と余裕をぶっこいていたマリー。まさか自分が離縁を迫られることになるとは……。
※ 元鞘モノです。苦手な方は回避してください。全7話完結予定。
婚約破棄されたので30キロ痩せたら求婚が殺到。でも、選ぶのは私。
百谷シカ
恋愛
「私より大きな女を妻と呼べるか! 鏡を見ろ、デブ!!」
私は伯爵令嬢オーロラ・カッセルズ。
大柄で太っているせいで、たった今、公爵に婚約を破棄された。
将軍である父の名誉を挽回し、私も誇りを取り戻さなくては。
1年間ダイエットに取り組み、運動と食事管理で30キロ痩せた。
すると痩せた私は絶世の美女だったらしい。
「お美しいオーロラ嬢、ぜひ私とダンスを!」
ただ体形が変わっただけで、こんなにも扱いが変わるなんて。
1年間努力して得たのは、軟弱な男たちの鼻息と血走った視線?
「……私は着せ替え人形じゃないわ」
でも、ひとりだけ変わらない人がいた。
毎年、冬になると砂漠の別荘地で顔を合わせた幼馴染の伯爵令息。
「あれっ、オーロラ!? なんか痩せた? ちゃんと肉食ってる?」
ダニエル・グランヴィルは、変わらず友人として接してくれた。
だから好きになってしまった……友人のはずなのに。
======================
(他「エブリスタ」様に投稿)
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
出来の悪い令嬢が婚約破棄を申し出たら、なぜか溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
学術もダメ、ダンスも下手、何の取り柄もないリリィは、婚約相手の公爵子息のレオンに婚約破棄を申し出ることを決意する。
きっかけは、パーティーでの失態。
リリィはレオンの幼馴染みであり、幼い頃から好意を抱いていたためにこの婚約は嬉しかったが、こんな自分ではレオンにもっと恥をかかせてしまうと思ったからだ。
表だって婚約を発表する前に破棄を申し出た方がいいだろう。
リリィは勇気を出して婚約破棄を申し出たが、なぜかレオンに溺愛されてしまい!?
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。
【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…
まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。
お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。
なぜって?
お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。
どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。
でも…。
☆★
全16話です。
書き終わっておりますので、随時更新していきます。
読んで下さると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる