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第九話 激怒

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 ガウェインは、今にでも爆発してしまいそうな怒りを必死に抑えていた。
 何故か隣には、愛しいアンリエットではなく、その姉が居たからだ。
 自然と鋭くなる視線を国王に向けると、彼は目を泳がせていた。
 
 ガウェインは言いたかった。
 結婚したいのは君ではなく、君の妹のアンリエットなのだと。
 だが、婚約式の最中に、ガウェインからそんなことを言われてしまえば、彼女の名誉に関わってしまうと思うと、何も言い出せなかった。
 もし、彼女の名誉が傷付いたせいで、今後、彼女の結婚話に支障をきたしたらと思うと、言い出せなかったのだ。
 それに、そんなことをして、アンリエットに酷い男だと思われたら生きていけないと、情けないことも考えていたのだ。
 
 隣に並ぶジェシカは、うっとりとした表情でガウェインを見上げていた。
 そして、美しい声で言ったのだ。
 
「ガウェイン様。私を妻にと選んでいただきて光栄ですわ。ですが、大変申し訳無いことに、我が家には、醜く肥え太ったお荷物が居るので、家族ぐるみでのお付き合いで恥をかかせてしまうと思うと心苦しいですわ……」

 その言葉を聞いたガウェインは、大声で言い放っていた。
 
「彼女は、多少ぽっちゃりだが心のきれいな女性だ!!人を見た目で判断するような人間を俺は好かない!!」 
 
 
 そう言ったガウェインの声は、会場の空気を震わせていた。
 シンと静まり返った会場に、ジェシカの震えて引きつった声が響いた。
 
「な……、何を仰っていますの?あの子は、美しくなる努力もせずに、醜く肥え太っているのですよ?それに比べて、私は誰が見ても美しいと―――」

 表情を引きつらせて、必死にそう言うジェシカの言葉を遮って、ガウェインはきっぱりと言った。
 
「人を下に見て蔑む人間を美しいとは言わない。本当に美しい人は、芯が強く、心の優しい人のことだ!!アンリエット嬢は、心の優しい素晴らしい人だ!!」

 初めてアンリエットを見た時のこと。手紙のやり取りで知ったアンリエットの可愛らしいところ。
 全てが愛おしかった。
 そんな、大切な彼女を彼女の家族が蔑んだように扱うことに、ガウェインは頭に血が上っていた。
 
 気を抜けば、ジェシカの襟首を掴んで居たかもしれない。
 ジェシカの言葉を諌めようとしない、伯爵と婦人にどうしようもない怒りが湧いていた。
 
 そして、アンリエットを妻にしたいと言ったはずなのに、それを蔑ろにされたと感じで頭にきたガウェインは、目の前にいる国王に食って掛かっていた。
 
「俺が妻に望んだのはアンリエットです!!なぜ、こんな女がここに居るんです!!俺は、言いましたよね!!アンリエットを妻にしたいと!!」
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