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一章

君の刺したナイフが抜けない。

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私は真っ暗な道を歩く。
何もいないし、誰もいない。

ふと、後ろから声がした。


「アイリーン…」


声は私を呼ぶ。
けれど私は振り向けない。


声の主が誰か、わかっているから。


けれど声はまた私に話しかけてくる。



「アイリーン…なぁ痛いんだ
ナイフを抜いてくれないか?

なぁ…アイリーン」

 

「……っ」


心がヅキリと痛み、
私は前方に走り出す。

後ろにいる彼もグチャグチャと
気味の悪い足音を立てて追ってくる。


血塗れで足を引き摺る彼が
目に浮かぶ様だった。



私は逃げながら口走る。



「ごめんなさい…!!ごめんなさい…!!許して…


グレン…」



そう言い終わった瞬間
脚がもつれて、
真っ暗な床に叩きつけられた。

痛みはなく、ただ衝撃だけが
身体につたわっていた。


そして、
ヒタヒタと隣で足音がして…



顔を上げる。



目の前に彼の足元が見えた。
杭の跡がはっきりと残る彼の足。


起き上がろうとすると、彼に腕を掴まれ、乱暴に身体を起こされた。

「うっ…」


「なぁ…俺を見ろよ…アイリーン…
…君のせいで、痛いんだ…

どこもかしこもグチャグチャだ…

君の刺したナイフが抜けない。
痛いんだ。痛いんだよ…
痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」


グレンは私の首を掴んで、
馬乗りになった。

ボタボタと上から彼の血が
垂れてきて私に掛かる。


「なぁ…俺は死んだよ…
君に殺されて…生まれ変わったんだ…
きっと次はうまく行くよな…?」


彼の声は震えていた。
けれど、私はこう告げる。



「グレン…もう…終わったのよ…」


「…………」



グレンは血塗れの双眸を
大きく見開き黙り込む。


そして、腹に刺さったままのナイフに
手をかけて…


…無理矢理に引き抜く。



「ひっ…!?なにを…や…やめっ…」




「うゔ…うゔあぁあっ!!」




グレンは私の制止も聞かず
ナイフを抜き続ける。

肉が裂ける音がして
内蔵が引き出される。


「うゔっ…!ぐっ…」


グレンは吐血し、
腹からは止まりかけていた血が
新たに吹き出してナイフが抜けた。


その大量の血は私の胸に掛かり
その生温い感覚が胸から流れていく。


「…っっ」


抜いたナイフを握りしめたまま
グレンは私を見つめた。



「…終わらせはしない…


君は今でも俺の…


 婚約者フィアンセだ。」



そう言って私の胸に
ナイフを突き立てた。


……



「……っ!!!!!」


目が覚めると、ベットの上だった。
ジョザイアの用意してくれた
檻付きのベットの中。

私は安堵のため息を漏らしながら
檻に寄り掛かった。


「……もう…何ヶ月も前のことなのに…」


…檻越しに、窓を見ると
まだ日は登っていなかった。
真っ暗な中、部屋の時計に目を凝らす。
まだ2時だ…。私はまた、ため息をつく。


…あんな夢は杞憂よ…


「…彼はもう、死んだんだから…」


もう誰にも、私達の邪魔はできない。
私はジョザイアとずっと一緒に…


……


「……ジョザイア…。」


私は隣で眠るジョザイアの頬を撫でて
顔にかかった金色の髪を、
彼の耳に掛ける。

彼の整った綺麗な横顔がよく見える。
可愛らしい寝顔は昔から変わらない。

その顔を眺めていると
銀色の瞳が薄らと開かれる。


「アイリーン…??起きてるの…?」


「あっ…ごめんなさい…
起こしちゃった?」


彼は眠そうに目を擦る。


「…んー、大丈夫だよ。


……」


彼は暫く私の顔を見ると
眉尻を下げて、
寝転んだまま軽く首を傾げる。


「アイリーン…怖い夢でも見た?」


「えっ…と」


答える間も無く、
ジョザイアは私を抱き寄せる。

私は簡単に引き倒されて
ベットに沈み込み、
彼の腕の中に収めらた。

「……」

彼の腕の中は暖かくて、ほっとする。

 
「あの…ジョザイア…」


「アイリーン…大丈夫だから
怯えないで…。僕が先生をちゃんと
守ってあげるから…

安心してね…


大好きな僕のアイリーン先生…」


彼の腕の力が強くなる。
ギュッと抱きしめられて少し苦しいけど
それがとても嬉しかった。


「うん、ありがとう。ジョザイア…

おやすみなさい。愛してるわ」



私は彼を抱きしめ返して
軽く頬にキスをした。

そのまま、また私は眠りにつく、


…ええ、きっと大丈夫よね…。




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