拝み屋一家の飯島さん。

創作屋

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廃屋調査

禊の計画。 禊目線

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僕は長い廊下を歩きながら
冷や汗をダラダラ流しながら頭を抱え
溜息を吐きまくっている。

足取りは重く、
足元のミシミシと木の軋む音が煩い。
廊下もやけに長く感じる。

「うぅ…なんで?なんで…
僕、呼ばれてんの…??」

今日、朝一番に
了が僕を呼んでいると
使用人から通達があった。

家の前に止めてあるバンに来いって。

…もしかして、バレた?
鈍い了の事とは言え、
術の掛け方があからさまだった??


昨日の夜の楓と居たのがバレたら
僕はタダじゃ済まない。
使用人のいないとこでバレたりしたら…

「…最悪、殺される…」

玄関で
使用人に差し出された靴を眺めながら
大きく溜息をついた。

逃げ出した方がいい…か…??
いや、それもボコボコ不可避。

しかも、不信がられる。
了に警戒されるわけにはいかない…



僕の"計画"の為には、



なんとしてでも、絶っっ対に…

"楓を連れ出さなきゃいけない。"

僕には彼女が不可欠だ。


バレていてもバレていなくても…
行かない選択肢はとれない。
「あぁ…怖いなぁ…もう…」


でも、行くしかない。意を結したように、
靴に足をねじ込み一歩踏み出す。

もしバレていたらかなりキツいけど…
強硬手段だ…。

今日この場で
"贄女計画"を実行するしかない。
そう考えながらポケットに手を突っ込むと
硬い感触があった。


こんな時の為に用意したスタンガンだ。
秋葉原の店の中で一番威力の高いものを買った。

でも…スタンガンこんなもの
あの了がなんとかなると思えない…


…バレてないに越したことは無い…祈っておこう…


屋敷前に止まるバンの扉を開く。 
手をかけた取手が手汗でヌルつく。

もう既に二人は車内で待っており
運転手はまだ来ていない。

楓は何故か凄くお洒落してる、
…マジでなんで??本当に何??

僕の顔を見ると楓は気まずそうに
挨拶してきた。

「…あっ!
…おはようございます…禊さん」

「…うん…おはよ……」

もしかしてこの女…
何か了に何か漏らしたのか?
そうじゃないといいけど…

僕は無意識に彼女を睨む。

そんな視線を察したのか
彼女は慌てて小さく首を振る。


「…………」


了は僕の方をチラッと見て
すぐに手元のノーパソに視線を戻した。

まぁ、要する無視。平常運転だ…

バンの中は運転席と助手席を除いて
背もたれが倒してあり、
フラットにされていた。

その上でピクニックでもしてるみたいに二人は座っていて、僕もそこに加わる。


「………」


静まり返った車内にエンジン音とタイプ音だけが静かにこだまして

時間が無常に過ぎていく。

…黙っててもしょうがない…。
なんで呼ばれたか聞かないと…


ポケットの中のスタンガンを握りしめて、
了に向き直る。スタンガンを握る手は汗でグッショリ濡れていた。

「ぁ…あの…了くん…

なんで僕…呼ばれたのかな…?
覚え…ないんだけど…」

僕の言葉を聞いて
了はパソコンを弄る手を
ピタリと止めた。

「覚えがないって事はないと
思いますけど?禊。」


「…ないよ。
了くんに呼ばれる覚えなんて…」



一先ず、シラを切る。

了は感は鈍いけど…
人の心を読むのは上手い…。用心しないと…


「では、質問です。禊。」


了はぐっと近づいて来て
僕の唇と耳に繋がったピアスの
チェーンをクイっと指に引っ掛けた。


「!!…」
ビクリと体が震える。中学の時、この人に
ピアスを引っ張られて、唇と耳を引き裂かれたことがある…。

理由は確か…当時、了の好きだった子に
話しかけたから

…だったけ。

小さな頃から僕は
この暴君にやられっぱなしだ。


「………」


生ぬるい汗が流れて
心臓がバクバク鳴る。…やるか??今…??

ポケットの中でスタンガンの
電源に手を掛けた時、了が僕に聞いた。

「…なぁ、禊。
廃屋には一体何がいると思います?」


「え…」


廃屋…??なんの話??質問の内容からして
昨日の事はバレてない…?

驚きに目を見開きつつも、
すこし肩を撫で下ろした。

でも、何が言いたいんだ…??


「…廃屋?廃屋なんて無人でしょ…」


僕がそう答えると彼女も同様に少し気が抜けたのか会話に入ってきた。

「あ、幽霊とか?」

それを聞くと了は深刻そうに首を振る。


「違いますよ…楓さん、
それは霊とは違い…恐ろしいものです。
…正解を言いましょうか…?」

「了くんの怖いものなんて…あ」

確かに一つ思い当たるものがあった…

その瞬間、了は僕の肩をガッシリ掴んで
とんでもない大声で車を揺らした。

「わかりましたか!?禊!!

そう!!!!!
キモくて!速くて!ウゾウゾと動く!!

この世でもあの世でも
最ッッ低!最ッッ悪の生き物!!!!

"虫"ですよ!!"虫"っ!!!!

いいですか?!!我が家の中でも
虫1匹通さない結界を作れるのは

お前だけです!!!
頼みましたよ!禊!!」



その答えを聞いて
全身の力が抜けて、大きな溜息が出た…
なんっっだそれ…

「…はぁぁぁぁ…ぼ…僕、
虫除けの為に休日潰されるの…?
てか、明日の夕方から
ライブあんだけど…」

そう言いかけると
了が僕の髪をグシャリと掴む。
安定の暴君っぷり。

むしろ安心する。

「お前のライブなんて
知った事じゃありませんよ。

飯島家 規範 第五十八番。
"本家の人間には必ず"ー?」

飯島家規範…
くだらない家訓みたいなやつだ。

「"従わなければならない"でしょ…
…わかってるよ…はぁー、嫌な家。」

そんな風にいいながら
内心、かなりホッとしていた。
楓もそんな顔をしてる…わかりやすい…。

暫くすると了は気が済んだのか僕から手を離し気持ち悪いくらいニッコリ笑うと
楓に声をかけた。アイツのあんな笑顔初めて見た。

「それより楓さん?
そんなに禊の近くにいたら
陰気なのが移っちゃいます。

俺の膝にどうぞ?
そろそろ、運転手もくる頃ですし。」
 

彼が首輪を軽く引っ張ると
困った顔をしながら彼女は従順に
了の膝に座った。

…毎回思ってるけど
一体なんのプレイを見せられてるんだ…
いつも彼女に首輪つけてるけど性癖?

そう思いながら車の窓越しに我が家を見ると使用人が走ってきたのが見えた。
その使用人は運転席のドアを勢いよく開いて
息を切らし入ってくる。


オカメの面をしていて、着物ではなく、
運転用のスーツを着ている女だ。

…たしか新人の…


「お待たせいたしましたぁ!!
了様!!禊様!楓様!

運転係を仰せ使りました!
新堀にいぼりと申します!

よろしくおねしゃす!!!」


彼女は馬鹿でかい声で
そう挨拶をして仮面を外した。
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