拝み屋一家の飯島さん。

創作屋

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歪なデート

ただ操人呪術の一種です。

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あの後
私は了さんに連れ回されて、 
服を見たりバック見たり
フツーのデートをしてカフェに入った。


私はぼんやりとカフェの店内を
見つめる。心の整理がつかなくて。


カフェの壁はフェイクのツタと
花で覆われていて、間接照明が
ぼんやりと店内を照らしていた。


「…」


「ちょっと見て下さいよ!楓さん!

このパフェ思ってた5倍はありますよ!!
デカくないですか?!
半分こしましょう!」


洒落たカフェの中で大きなチョコレートパフェにスマホを向けながら
了さんは無邪気に笑う。


「あの…了さん。」


「ん?なんです?楓さん」


了さんは写真を撮るのを止めて
こちらに微笑みかける。


…何もなかったみたいに。


「あの、
さっきのなんだったんですか…?」


「?…ああ、さっきのですか。

あれはただの操人呪術そうじんじゅじゅつですよ。」


彼はケロッとした顔でそう答え、
パフェに刺さっていたクッキーを頬張る。


「呪術…?じゃあ了さんが…やっぱり…」


私は自分の着ているワンピースの
裾を握りしめる。


「……」


了さんは
そんな私をじっとりと見つめていた。
まるで獲物を捉える狐みたいに、
眼を細めて。


「そんな顔しないでくださいよ。

だって、ムカつくじゃないですか
楓さんは俺の恋人なのに。」


彼は席を立って、
向かいにいた私の横へと座った。

そして、私の髪を背後から撫でて
耳元で囁く。


「他の奴のモノだった時があるなんて
耐えられない。

他の奴に触られたことがあるなんて、

他の奴に笑いかけたことがあるなんて.


…嫌なんですよ。


だって、俺は楓さんの事…本気で…」



彼は更に距離を積める。
太腿同士が触れ合うくらいに近く。


「…ねぇ楓さん、他にもいますか?

俺が…殺すべき相手は。」


…!!

私は弾かれた様に彼の方を向いて
首を振る。


「いない!!いないから…!」


…了さんはそれを聞くと
安心した様に笑った。


「そうですか!それはよかった!
手間が省けます!

てか、そんなことより、
写真撮りましょうよ!パフェ入れて
ツーショしたくって。」


さっきまでの圧が嘘みたいに
了さんは楽しそうにスマホを取り出して
私の肩を抱く。

あまりの変わり様に私は唖然と呟く。


「写真……」


「ええ!だからわざわざ、
席を移動したんじゃないですか!」


「移動したのそうゆう
理由だったの!?」


はぁ…なんだか、力が抜ける。
本当にこの人…極端というか二面的というか…
なんというか…


微妙な表情をする私を横目に
了さんはスマホでツーショを連写して
向かいの席に戻った。

…ハートポーズ凄い上手い。


「うん、うん!
いい感じです!このフィルター
盛れるんでお気になんですよー。

どれが一番、
楓さんが綺麗に写ってるかなー」



了さんはすっかりいつもの調子に戻って
デートを満喫している。

……


「これ良い感じですよ!
送っときますね!
待ち受けにしてください!!」

着信音が私のスマホから鳴る。


「あ、そうだ。
禊にも自慢で送って良いですか?」


「え、うん。いいけど…」


了さんは凄い勢いで禊さんに
写真を送りつける。


「禊はいっつも振られまくりですからね
きっと苦い顔しますよー。」


「振られまくりなんだ…」


「ええ!まあ。

でも、それこそ禊の操人呪術を使えば
一発だと思うんですけど、」


操人呪術そうじんじゅじゅつ…さっき了さんが使ったやつ…
詳しく聞いた方がいいかも…

逃げる時にそんなの使われたら…。


「あの、了さん"操人呪術"って何…?
さっき聞きそびれちゃったし、
教えて…?」

 
「え、いいですよ。
…楓さんが興味を持つとは意外ですね」


了さんはちょっと驚いた素振りを
見せつつ、
テーブルの端にあったテーブルナフキンを
とってボールペンで何か描き始める。


「えっと、基本的にはですね
式神とかと同じで、命令を聞かせる。

言霊を使った呪術です。」


何か挿絵を描いてくれたらしい
テーブルナフキンが目の前に差し出されたが…


「……」


何もわからない。


なにこれ…ウニ…?
ペガサスにもみえる…?


まぁいっか…


「じゃあ誰にでも
言うこと聞かせられちゃうの?」


「いえ、この術には、

"相手の名前"
"相手の額に触れること"
"命令を唱えること"
"眼を合わせること"

が必要です。

唱え終わる前に避けられたら
出来ないですし、

そもそも素質が無いと無理ですね。
我が家ですら出来るのは数名です。」


「…なるほど、」


じゃあ、あまり怖くないかも…
眼を閉じちゃえばいいってことだし…

私は溶けかけたパフェのアイスを
一口頬張った。


「でも、油断しちゃダメですよ。

飯島家の操人呪術の申し子には
そんな手順は不要なんですよ。

あの、禊にはね。」


「禊さんが?」


あの、パンクロッカーみたいな人…
そんなの出来るんだ…


「例えば、禊が、
『また、ここに来るといい』と
言ったとしましょう。」


ビクリと心臓が跳ねる。
昨日夜…あの人に会ったの…
バレてる?たまたま…?


「は、はい…言ったとすると?」


「言われた人は必ず禊の元に戻る。

どんなに禊を嫌っていても、
不信感を持っていてもね」


…そんなこと出来るんだ…
でも、助けてくれそうだったし
悪い人じゃない…よね?


「ま、その程度なら可愛いものですが
前に、事件を起こしましてね。」


「…事件?」


「ええ、あれ以来、家の中でも
禊は危険視されてるほどですよ。
近づかない方がいい。

それにアイツは異常な…」


息を飲んで了さんの言葉を聞いていた
その時、ウェイターが声を掛けてきた。


「ラストオーダーのお時間になりますが
追加のご注文等ございますか?」

 
「あれ、もうそんな時間ですか。
そろそろ帰りましょうか?
楓さん。」


「え、うん。そうしよっか」


言葉の続きを聞くことなく
私は了さんの後に付いて店を出る。


"禊は危険視されてる"

"事件を起こした"

"それにアイツは異常な…"


…異常な…何?…
あの人に頼って本当にいいのかな…


でも…


私は了さんの横顔を見つめる。


…この人からは、逃げないと…
私は、白石さんみたいになりたくない。山崎みたいにもなりたくない。


今日だって逃げ出すのは失敗したし、


禊さんが危ない人でも…
手段は選んでいられない。
 

街はビルやお店から漏れる光、
看板などで照らされて
夜なのに眩しいくらいだ。
私達はその光の中を手を繋いで歩く。


「楓さん、今日どうでした?
少しは俺のこと、知れましたかね?」


考えている所に話しかけられて
少し驚く。

これは…
楽しかったって言わないと怒るよね…


「え、今日?た、楽しかったよ。
了さんのこともまぁ…知れた、かな」


了さんのこと"知れた"って言っても、
かなり嫌な意味でだけど。


「それはよかったです!

ちょっと邪魔は入りましたけど
俺も楓さんと一緒にいれて、
とっても楽しかったですよ。」


彼は眼を見て、屈託なく笑う。
たぶん…本心なんだろう…


「楓さんとデートするの
夢だったんですよ。
貴女を付け回していた時から。

これからは、結婚して、
ずっと一緒なんですよね

…ほんとうに、嬉しいです。」


彼は顔を少し赤らめて
穏やかに微笑む。


「…了さん…」


なんというか…凄く複雑な気持ち。

彼はそれを分かってか、
わからないでか、私の手をとる。


私の両手は
彼の冷たくて大きな手で包まれて、
了さんは私の眼を見つめている。


「楓さん…俺は楓さんが凄く好きです。

…本気なんです。

他の人の時とは違う…
どうしても、楓さんがいい。
楓さんと結婚したい。」


了さんは私の手を少しだけ強く握った。
不意に胸の鼓動が高鳴る。


「愛しています。楓さん。」


彼はそう言って眼を閉じ、


私にキスをした。


口に触れる感覚は柔らかくて
熱かった。



























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