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12章

3.掛けられた呪縛

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「ジョザイア‥」


私は小さく呟いた。
彼がこの部屋から出て行ってから
まだ、1分もっていないのに‥。

私は部屋の端から端へ行き来しては
何度も溜息をついた。


不安だった。彼がいない事が。

彼はいつだって私のそばにいたのに‥。


でも、それも私の為に
出掛けたのだから仕方ない。

「うん、仕方ないわ‥」

私はテレビの前のソファーに腰掛け、
うずくまる。


あぁ‥ジョザイア‥ジョザイア‥ジョザイア。
早く戻ってこないかしら‥


「………」


彼は出かける時‥車よね‥
ガレージに行けば帰ってきてるかも。


「確か‥ガレージは‥」


少し迷いながらも、広いロビーを抜けて、
駆け足で階段を降りガレージに向かった。

ガレージへの道は
建物をぐるりと回る廊下から外れた

一本道だった。

私はガレージへのドアをガチャリと開ける。


「?‥あれ?」


すると、
ガレージにはまだ黒塗りの車があった。
彼がいつも使う車。

けれど、
ジョザイアの姿も、クロードさんの姿もない。


ガレージの中では
時計の音だけがカチカチと響き
私は立ち尽くす。


もしかして、車は使わなかったのかな‥?

‥なら、ここに居ても意味はないわね‥


少し肩を落としながら、
私はリビングに戻ろうと
入ってきたドアに手をかけた。

その瞬間、ドアの向こうから足音がした。
聞き覚えのある声も。


「‥クロード!
拷問用具くらい用意しておいてよ。」


「申し訳ありません。
マクベイン様は仕事以外では、
拷問はなさらなかったので‥」


「今回はいるに決まってるでしょ?
まあ‥いいや。早く車出して。」


「かしこまりました。以後気をつけます。」


足音はどんどん近づいてくる。


 
「え!?あぁ!とどうしよう!?なんで?!」


ガレージ内に掛けられた時計を確かめると
ジョザイアと別れを交わしてから
10分も経ってはいなかった。


「あれ?!一時間は経ったと思ったんだけど‥
あぁ!!今から出るんだわ‥どうしよう‥?!!」


そんな事を言っている間にも
足音はどんどん近づいてくる。

大人しく待ってるって言ったのに‥

こんなところにいたら幻滅されてしまうかも‥
最悪の場合、
逃げようとしたのだと思われてしまう!
そんな事になったら‥!!


ガレージへの通路は一本道。

ガレージ内は整理され、
隠れられる場所はない。
他のドアもない。シャッターは閉まっている。

私は必死で周りを見回す。


「あぁ‥!!どこか‥ないかしら!!?
隠れられる場所‥

あっ」



その時、ガレージのドアが開いた。

ジョザイアの後ろに付いたクロードさんは
ドアの前で眉をひそめる。


「??‥マクベイン様‥何か気配がしたような‥?」


「そうかな?‥気のせいじゃない?
それより早く行こうよ。
アイリーンに寂しい思いさせたくない。」


「‥‥‥」


幸い私には気がつかなかったみたい‥
私は車のトランクの中でほっと胸を撫で下ろす。


二人は首を傾げながらも、車に乗り込み
エンジンをかけた。

エンジンの振動が車を通して、
身体に伝わってくる。


出るなら今よね‥


私はトランクのドアに触れた。


「‥‥いえ‥待って‥」


このまま残るのはどうかしら‥?


彼が何をしに行くのかも気になるし‥


私と彼の為とは言ってたけど‥

さっき『拷問』‥とか話してた‥?
きっと気のせいよね?そのはずよね?


それに何より‥ついて行けば‥


彼から離れないで済む‥



私はこのまま車のトランクに残る事にした。



車は私を乗せたまま発進し、
屋敷のある丘を下る。


車の振動を感じながら、
私は考え事をしていた。


そういえば‥ジョザイアは‥
いつから私を愛していたんだろう‥

もし‥彼の愛に私が気付いていたら?

婚約者が出来る前に愛し合えたとしたら‥?


私達はどうなったのだろう?


今のままよね?だって‥
私は彼の望むような愛を
彼に抱いている訳じゃない‥はず‥


ええ‥そのはずよ‥


そんな事を考えていると車は停止し、
彼は車を降りていった。


外からは、子供の駆け回る声がする。
どうやら、郊外の街に来たみたい‥。

トランクを薄く開けると、
見覚えのある住宅地が広がっていた
私の家やグレンの家の近く‥。

夕日がトランクの隙間から
入り込み少し眩しい。
多分この場所はグレンの家の前のあたり。
 

きっとジョザイアは
彼に私の無実を伝えてくれている‥。
 

私は彼の外出の理由を知れて満足だった。

このまま帰ろう‥ばれないといいけど‥


‥‥



停車してから、随分と時間が経った。


夕暮れだった空は暗く染まり、
ポツポツと小降りの雨が降って来ていた。


クロードさんは車の中で1人、
ジョザイアを待っているみたい。


窓の水滴を払うワイパーの音が聞こえてきた。


‥にしても、遅い‥。


話し合いにしては時間がかかりすぎてる。


ジョザイアの身に何かあったのかしら‥?


例えば、グレンと揉めてるとか‥
取っ組み合いとかになってたらどうしよう‥?!


「いえ‥でもグレンは、
そんな事する人じゃないもの
きっとジョザイアは大丈夫‥大丈夫よね?」


心配だった‥

私がジョザイアとの約束を
忘れていたからこうなったのに‥

こんな事になったのは私の所為なのに‥


その結果で‥
彼らが傷つく事になったら‥私は耐えられない。


私の命よりも大切な二人だもの‥
絶対に失いたくない‥


父や母の様に‥
私が行った時にはもう手遅れなんて事は
もう、嫌‥。



‥‥‥




「‥行こう‥」



私はトランクの扉をゆっくりと開けて、
外に出た。冷たく湿った風が頬をかすめ、
冷たい雨が手や肩に当たって弾けた。


外はもう真っ暗で、空には黒々とした雲が
とぐろを巻くように不気味にうねっている。

真っ直ぐな道路の先で雷が光ったのが見えた。

雨は本降りに差し掛かかっているようで
どんどんと勢いを増していく。



私は腕で身を覆いながら、短い階段を登り


グレンの家の玄関に立った。


‥この場所を見ると、胸が締め付けられた‥


「グレン‥貴方は‥私を‥」


そんな事を考えかけて、
私は首を振る。

今はそんな事はいい。



両親の時の二の舞いは嫌。



例え、ジョザイアに幻滅されたとしても、
グレンにあの日の様に糾弾されたとしても、





「行かなきゃ‥‥。」




私はインターフォンを鳴らした。


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