My Dr -貴女は僕の全てになった、だから貴女から僕以外の全てを奪おう

創作屋 鬼聴

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11章

4.夕陽とロープ《グレン目線》

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あの血に塗れた臓器が送られてきて、
もう一週間近くが経った。

俺はどうすることもできず、
仕事を休み、


ソファーに座り込んで頭を抱えていた。
朝から夜までずっと‥


もう、部屋には傾いた日が窓を通り、
床にあのロープの影を落とさせていた。

夢で見た、先端が輪になったロープは
僕の目の前に現実となってぶら下がっている。


「…馬鹿馬鹿しいよな‥」


俺はそう呟いて、クマだらけの目を擦って、
天井のフックから下がるロープを見つめた。


「アイリーンのあとを追って、
死んだとして何も解決しない‥

もし、あの世で彼女に逢えたとしても‥」


俺はまた頭を抱え込み、
彼女について考える。


もう‥考えるのはよせばいいのに

彼女はもうこの世に居ないのだから。

彼女は愚かな人だったのだから。


あいつに惚れて利用されて、
人殺しまでして‥最後には自分が殺された。


「馬鹿な人だな‥本当に‥」


目が熱くなって、床にポタポタと
涙が落ちていく。

彼女は俺を裏切った、気にすることじゃない‥
もうあんな人を愛したりはしない‥絶対に‥

そう考えても、
彼女の最後の言葉が忘れられない。


『グレン‥
貴方が信じてくれなくても‥
私のこと愛してくれなくっても‥

私は‥貴方の事‥愛してるわ‥

今も‥これからも‥ずっと‥


‥さよなら‥』




俺は、君を愛してなんていないと、

助ける気なんてないと、

指輪を投げ付けて、
消えてくれと言ったのに‥それでも‥彼女は‥


「‥いや、きっと‥本心じゃない‥
ジョザイアに棄てられそうになったから
言っただけだ。

助かりたかっただけ。

俺を利用したかっただけ‥。」




そのはずだ‥。



そんな人の為に死ぬなんて、馬鹿馬鹿しい。

アイリーンが死んだのは‥自業自得だ。

あの時‥助けなくて良かった。
彼女を見捨てて良かった‥


「ああ‥良かったんだ‥」



俺は、自分に言い聞かせるように呟いて、
天井のフックからロープを下ろし、
ゴミ箱に捨てた。


彼女との写真も、
彼女のくれたネクタイも、
棄てられずにいたものも、


全て捨てた。


何かを捨てるたび、心の靄が腫れていく。
なぜこんな物を棄てられずにいたのか
不思議なくらいだ。



「…これでいい。あとは‥」



俺は、冷蔵庫を見つめた。

あとは、あれを捨てるだけだ。
冷蔵庫の中にある‥あれを。

あれさえ捨てれば、
もう、あんな人の事を思い出す事もない。


冷蔵庫の扉に手をかけた瞬間。





《ーーーーピンポーン‥》




静かな部屋にインターフォンのチャイムが響いた。
この一週間、人が訪ねてくる事などなかったのに‥


一体‥誰だ‥?


少しだけ空いた冷蔵庫から冷気が漏れ
ヒヤリとした空気が、足に触れた。


なんだか‥嫌な予感がする。


俺は棚からナイフを手に取ると、

引き寄せられるように、
一歩また一歩と玄関に近づく。


フローリングが歩くたびに
ギシリギシリ‥と音を立てた。


「‥‥」


俺は玄関に掛かった
鍵とチェーンを外して
防犯用の南京錠の鍵を取り出し、錠を開けた。


そして、ドアノブを握りしめる。


ドアの向こうには確かな気配があった‥
不気味で悍ましい気配が。



「…っ!!」



意を決して、


俺は勢いよくドアを開けた。


‥‥‥




「……‥?」





ドアの向こうには
いつも通りの住宅街が広がっていた‥

夕日に照らされた幅の広い道路を
何台かの車が横切る。

オレンジ色に染まった街は平和そのものだった。



「…‥」



確かにチャイムが鳴った筈なのに‥


俺は溜息を吐いて、
玄関から差し込む陽に背を向け、
靴箱に寄りかかる。


「俺は気が狂ったのか‥?
‥もしくは‥子供のイタズラ‥?」


額に手を当て考える。

玄関から差し込む夕日は室内に
長い影を作り出していた。


俺の背後に立つ、悪魔の影を。



ゴッッー



鈍い音がしたと同時に

後頭部にこの世のものとは思えないような
激痛が走った。


床に飛び散った血に気付いた時には

俺は床に倒れていた。


「あ‥‥?!ぐっ‥」


訳も分からないまま、
床に突っ伏し、
どんどん広がっていく血溜まりを眺める。


その血溜まりに男は、当然の如く足を踏み入れ、
真っ白い皮靴を赤く染めた。


‥こいつが誰なのか俺は知ってる。
でも、なぜ今更‥


そんなことを考える間もなく、
男は、床に突っ伏す俺の脇腹を
思い切り蹴り上げる。

内臓の潰れるような酷い痛みに悶える俺を
奴は嗤いながら眺めていた。



「やぁ‥グレンくん。

この一週間‥苦しんでくれてた?
そのために君を生かしてたんだけど‥

今日はもっともっと苦しくしてあげる。
死んだ方が楽なくらいに‥

僕のアイリーンに手を出しておいて
簡単に死ねると思わないでね?」



ジョザイア・マクベインは、持っていた
トランクを開き、俺の目の前にその中身を
ぶち撒けた。


ペンチに、ナイフ、釘、注射器、
ハンマー、鋸、鉄針、ありとあらゆる‥


拷問器具。



「君に報いを受けてもらえるのを
僕はたのしみにしてたんだよ。グレンくん。

これできっと、君もアイリーンも
思い知ってくれるはず。


アイリーンは僕のものだって‥。」



奴は嗤ったまま、
俺の頭を鷲掴みにし家の奥へ引きずっていく、


奴の血塗れの笑顔が、夕日に照らされていた。


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