My Dr -貴女は僕の全てになった、だから貴女から僕以外の全てを奪おう

創作屋 鬼聴

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11章

2.蘇る楽園。

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その瞬間、ステンドガラスのドアが開いて
風が吹き混んできた。

その風は、懐かしい香りがした。

あの小児精神病棟の中庭。

私達が初めて会った場所。

黄緑色の葉が日に照らされてキラキラ光り、
青やピンク色の小さな花が風に靡いて、
甘い香りが広がっている。


「あ‥」


私が小さく声を漏らすと、ジョザイアは
私を優しく
中庭の内にあるソファーに下ろした。

花や、緑で満ちた中庭に置かれるには、
少し不自然な茶色いベルベットの
ふわふわしたソファーだった。

ジョザイアは私の横に座り、手で庭を指差す。


「みて!覚えてるよね?
僕らの過ごした日々‥僕らの楽園‥

それをそのまま作ったんだ」


「ええ‥本当にあの時のまま‥」 


なんで忘れていたのかと思うくらい
鮮明にあの頃が思い出された。


小さなジョザイアが
蝶を捕まえてはしゃいでいた、あの場所。

精神病棟の中庭で柔らかい日に包まれて、
幼い彼となんでもない話をしたあの場所。


私が幼い彼を置き去りにした場所‥



「ずっと‥先生をここに連れて行きたかった。
ずっとここに帰ってきて欲しかった‥
僕にとって凄く大切な場所‥」


「ええ、私にとっても大事よ‥
貴方との思い出が詰まってる。」


私がそう言うと彼は幸せそうに笑って
私をぎゅっと抱きしめた。
笑いながら私は彼の抱擁を受け入れる。


「ひゃっ‥!‥もう‥ジョザイアったら‥」


暖かくてくすぐったい。

私は抱きしめられたまま、彼の頭を撫でた。
子供にするみたいに、よしよしと撫でてあげると
ジョザイアは抱く力を強める。


「嬉しいよ‥先生‥好き‥大好き‥」


私はふと、気がついた。
彼は私をアイリーンではなく「先生」と
呼んでいることに。

あぁきっと、
私達の関係もあの頃に戻ったんだ。


友人同士の患者とカウンセラー。


‥そう考えると‥何故か胸が痛んだ。



「あっ!ねぇ、みて!先生」



彼は私を離して、蝶を指差した。
蒼くも、瑠璃色に輝く大きな蝶。


「………っ!」


その瞬間、
私の脳裏に二つの映像が浮かんだ。


小さなジョザイアが蝶の標本を
私にプレゼントしてくれた時のこと‥


『みて!先生』


と、無邪気に笑う彼‥


そして‥
蝶の標本の様に磔にされ、
血に塗れた両親の屍体‥

その横にあった‥


『みて!先生』


と、血で書かれたメッセージ‥


けれど

それは脳を掠めただけで、
点と点は結びつくことはなかった。


私は微塵も彼を疑っていなかったから‥
この時点で私は
彼に支配されていたのかもしれない。


彼は私のほおを包んで、
妖しく微笑む。


「先生にね、また蝶をプレゼントしたいんだ。


‥蝶の標本‥


先生‥喜んでくれるといいなぁ‥」


ジョザイアは目を細めてウトウトとしながら
寄りかかる様に私を抱きしめ直した。

ソファーの背もたれと彼に挟まれて、
暖かくて気持ち良い様な少し苦しい様な
妙な感覚。

私は肩越しに風に揺れる花をみながら、
彼の背を撫でる。


「ジョザイアのくれるものなら、
私はなんでも喜ぶわ」


「ほんと‥?‥よかっ‥たぁ‥
見せるのが‥たのし‥み‥だなぁ‥」


「‥?え‥ジョザイア‥?」


彼はそのまま眠りに落ちた。
私に身体を預けて、スースーと寝息を立てている。

「もう‥仕方ないわね‥」

呆れたように笑って私は彼の頭を撫でる。

きっと昨日の夜は寝ずに
私にずっと付き添ってくれていたのだろう‥
私の為に‥


ああ‥昔と一緒‥何も変わらない‥

優しくて可愛い‥私の小さな太陽‥


一度ぎゅっと抱きしめてから、ゆっくりと
彼を自分の膝に降ろした。


「‥‥」


私は眠る彼をじっと見つめる。


日に煌めく金色の髪が、
柔らかい風に靡いて、
彼の少し独特で美しい横顔に掛かる。

彼は昔も私の膝でよく眠っていた‥
その様子は今と同じで

とても、美しかった。

とても‥愛おしかった。


本当は彼を小児精神病棟に
置き去りになんてしたくなかった‥


「グレンと結婚しても、
きっと会いに来るわ‥

寂しい思いだって絶対にさせない‥
大好きよ‥ジョザイア‥」


ジョザイアには私が必要。
そして‥私にも‥彼が必要‥


だから‥
どうか変わらぬ関係でいてほしい。


このまま子供の様に
私の膝で眠っていてほしい。


このまま‥全てが元通りになってほしい。


ジョザイアは良い友人に戻り、
私とグレンは愛し合い‥婚約をするの‥。
もう一度‥


私は壁に囲まれた紺碧の空を見上げながら、


そう強く‥強く‥願った。




そして、それが叶うものと確信していた‥


これから
どんな惨劇が起こるとも知らずに‥





 
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