77 / 84
12章
7.愛に気づいて。《完結》
しおりを挟む
抱きしめたジョザイアの身体は暖かくて、
その温もりを失うのが怖かった。
何よりも怖くて、私は頷いてしまった。
私にできるの?私が‥グレンを‥
殺せるの‥?
頭の中には疑念、不安、焦燥、が混じる。
でも、やるしかない。
だって‥
私はジョザイアの顔を見上げる。
彼は泣き疲れたのか、少し虚ろで、
でも、とても嬉しそうだった。
彼の期待を裏切ることはできない。
窓の外の雨音が小さく聞こえる。
彼はゆっくり、私の手を離れると
ナイフを拾い上げ、私に差し出した。
「さぁ‥アイリーン‥僕のアイリーン‥
殺してよ。あいつを‥僕のために。」
彼の姿が外の薄暗く青い街灯に照らされる。
あぁ‥殺さなきゃ‥
ジョザイアを助けないと‥
ジョザイアを失うわけにはいかないもの‥
そんな想いだけで、私はナイフを手に取る。
そして、ゆっくりと振り返り、
磔にされたグレンの元へ歩き、目の前で足を止めた。
蒸せ返るような血の匂いと、痛々しい傷。
「グレン‥」
そう呟くと、グレンは重々しく口を開く。
私は小さく驚きの声を上げる。
彼に話す余力があるとは思っていなかった。
「アイリーン‥
あいつの言う事を聞くな‥
あいつは君の両親を殺した男だ‥
‥君は間違ってる‥
‥助けてくれ‥殺さないでくれ‥アイリーン‥」
「……」
私は彼の言葉をただ聞いていた。
ナイフを握る手に汗がにじむ。
身体が震える。呼吸が浅くなる。
本当に‥?本当に‥彼を殺していいの‥?
本当に‥私が‥殺すべきは‥?
そう考えた瞬間、背後から気配がして、
私はジョザイアに後ろ抱きにされた。
ジョザイアは私を挟んでグレンに話しかける。
「君ってさぁ‥自分勝手だよね。
アイリーンが助けてって言った時には
助けなかった癖に自分が助かろうと必死なんだもん」
私にそんな会話は耳に入らなかった。
不安と、やらなくては、という思いだけ。
怖い、怖い、グレンが死ぬ‥?私が殺すの?
でも、ジョザイアを助けないと‥
でも、みんなを殺したのは‥?
「ぁ‥あぁ‥」
涙を流しながら震えて、
迷う私を見て、彼は頭を撫でた。
彼の柔らかい唇が少しだけ耳に触れた。
そして、囁く。
彼の声だけが、頭によく響く。
まるで洗脳されているみたいに。
「大丈夫だよアイリーン
あんな奴らが死んだところで君が悲しむことない。
死んで当然。だってアイリーンを裏切った奴らだよ?
アイリーンが助けを求めた時、
あいつらが、なんて言ったか覚えてないの?」
ジョザイアがそういうと、私の脳裏に
声が響く。雨の音、私を糾弾する
グレンやジェシーの声。
『人殺し!』
『俺の前から消えてくれ!!今すぐに‥』
『‥アイリーン‥俺は君を愛してた‥
でも、今は違う。』
‥そうよ‥
みんな、私を裏切った。
みんなみんな‥ 酷い人達。
「ねぇアイリーン‥覚えてる?
あの時‥君の味方でいた人は誰?」
そう言われた瞬間、私の中で何かが変わった。
彼に支配されてしまった。
‥‥そうよね‥彼だけは‥‥いつもいつも‥
私を‥愛してくれてた‥
どうして気がつかなかったのかしら?
どうして、私は縛られていたんだろう!!?
ジョザイア‥ジョザイア‥私のジョザイア‥
彼だけは‥ずっと‥ずっと‥!
私のそばにいてくれたじゃない!!!
なんで今まで
彼の愛を受け入れなかったのかしら?!
グレンがいたから?
こんなに愛してくれてるのに!!!
彼だったらずっとそばにいてくれるのに!
邪魔な人達だって
みんな殺してくれたんじゃない!!
私のために!
私のために!!彼は‥彼は‥ジョザイアは‥
ありとあらゆる手を尽くしてくれた。
私の心は真っ黒い液体の中に浸かっていくように
溶けていくように
穏やかな喜びと後悔に満ちていた。
「ごめんなさいジョザイア‥
貴方の愛に気づけなくて‥
ずっと頑張ってくれてたのに‥
ずっと愛してくれてたのに‥」
それを聞くと彼の顔がぱぁっと明るくなる。
ニコニコとした可愛らしい笑顔。
「わかってくれて嬉しいよ‥アイリーン‥
アイリーンも‥僕のこと愛してくれてる?」
「ええ!もちろん。」
「じゃあ‥出来るよね。」
ジョザイアは美しい銀色の瞳を細めて笑う。
その笑顔は、子供の頃と変わらない。
私は彼に微笑み返す。愛おしい彼に。
きっと私はこれをずっと望んでたのよ‥
あぁ、随分遠回りしてしまったけど‥
もう大丈夫‥
私は目が醒めたの。
そうよ、目が醒めた。
私は
グレンの体に突きつけたナイフに力を入れた。
「おい‥!やめろ‥!!やめてくれ!!
アイリーン‥!!アイ‥」
‥‥
「さようならグレン。
『私は貴方を愛してた‥でも、今は違う。』わ。」
グシャッ‥
グレンの喉から血が吹き出す。
生暖かい血がナイフを伝い、私の腕を伝う。
「‥‥ふふっ」
凄く愉快な気分だった。
ずっと曇っていた空が晴れたような、
爽快な気分。
「‥ふふっ
うふふ!あははは!!
やった!やったわ!!!
ジョザイア‥
私にはもう‥貴方だけ‥」
私はグレンの元から離れ、ジョザイアに抱きつく。
二度と離さないように。力強く縋り付くように、
ボロボロ流れる涙が彼の服に沁みていく。
「うん‥アイリーン.よく頑張ったね。
偉いよ。凄く嬉しいよ‥僕、すっごく幸せ‥」
ジョザイアは満足そうに笑い、
私を抱きしめる。
それが凄く嬉しかった。
ずっと、ずっと、彼の笑顔がみたい。
彼から二度と離れたくない。
私には彼しかいないんだから‥
「ジョザイア‥ジョザイア‥‥
貴方だけは‥どこにも行かないで‥
ずっと‥私のそばにいてね‥ずっと‥。」
「もちろん‥離れたりしないよ。
アイリーンが離してっ泣き叫んでも
絶っ対、絶対、離さない。
ずっーと、永遠に
僕の腕の中で、大切にしてあげるからね。
愛してるよ、僕のアイリーン‥」
「ええ‥私も愛してるわ‥
ジョザイア‥」
暫くの間、私達は血まみれのまま抱き合っていた。
とても、暖かくて、幸せだった。
そして、この幸せは永遠に続くの。
永遠に‥
その温もりを失うのが怖かった。
何よりも怖くて、私は頷いてしまった。
私にできるの?私が‥グレンを‥
殺せるの‥?
頭の中には疑念、不安、焦燥、が混じる。
でも、やるしかない。
だって‥
私はジョザイアの顔を見上げる。
彼は泣き疲れたのか、少し虚ろで、
でも、とても嬉しそうだった。
彼の期待を裏切ることはできない。
窓の外の雨音が小さく聞こえる。
彼はゆっくり、私の手を離れると
ナイフを拾い上げ、私に差し出した。
「さぁ‥アイリーン‥僕のアイリーン‥
殺してよ。あいつを‥僕のために。」
彼の姿が外の薄暗く青い街灯に照らされる。
あぁ‥殺さなきゃ‥
ジョザイアを助けないと‥
ジョザイアを失うわけにはいかないもの‥
そんな想いだけで、私はナイフを手に取る。
そして、ゆっくりと振り返り、
磔にされたグレンの元へ歩き、目の前で足を止めた。
蒸せ返るような血の匂いと、痛々しい傷。
「グレン‥」
そう呟くと、グレンは重々しく口を開く。
私は小さく驚きの声を上げる。
彼に話す余力があるとは思っていなかった。
「アイリーン‥
あいつの言う事を聞くな‥
あいつは君の両親を殺した男だ‥
‥君は間違ってる‥
‥助けてくれ‥殺さないでくれ‥アイリーン‥」
「……」
私は彼の言葉をただ聞いていた。
ナイフを握る手に汗がにじむ。
身体が震える。呼吸が浅くなる。
本当に‥?本当に‥彼を殺していいの‥?
本当に‥私が‥殺すべきは‥?
そう考えた瞬間、背後から気配がして、
私はジョザイアに後ろ抱きにされた。
ジョザイアは私を挟んでグレンに話しかける。
「君ってさぁ‥自分勝手だよね。
アイリーンが助けてって言った時には
助けなかった癖に自分が助かろうと必死なんだもん」
私にそんな会話は耳に入らなかった。
不安と、やらなくては、という思いだけ。
怖い、怖い、グレンが死ぬ‥?私が殺すの?
でも、ジョザイアを助けないと‥
でも、みんなを殺したのは‥?
「ぁ‥あぁ‥」
涙を流しながら震えて、
迷う私を見て、彼は頭を撫でた。
彼の柔らかい唇が少しだけ耳に触れた。
そして、囁く。
彼の声だけが、頭によく響く。
まるで洗脳されているみたいに。
「大丈夫だよアイリーン
あんな奴らが死んだところで君が悲しむことない。
死んで当然。だってアイリーンを裏切った奴らだよ?
アイリーンが助けを求めた時、
あいつらが、なんて言ったか覚えてないの?」
ジョザイアがそういうと、私の脳裏に
声が響く。雨の音、私を糾弾する
グレンやジェシーの声。
『人殺し!』
『俺の前から消えてくれ!!今すぐに‥』
『‥アイリーン‥俺は君を愛してた‥
でも、今は違う。』
‥そうよ‥
みんな、私を裏切った。
みんなみんな‥ 酷い人達。
「ねぇアイリーン‥覚えてる?
あの時‥君の味方でいた人は誰?」
そう言われた瞬間、私の中で何かが変わった。
彼に支配されてしまった。
‥‥そうよね‥彼だけは‥‥いつもいつも‥
私を‥愛してくれてた‥
どうして気がつかなかったのかしら?
どうして、私は縛られていたんだろう!!?
ジョザイア‥ジョザイア‥私のジョザイア‥
彼だけは‥ずっと‥ずっと‥!
私のそばにいてくれたじゃない!!!
なんで今まで
彼の愛を受け入れなかったのかしら?!
グレンがいたから?
こんなに愛してくれてるのに!!!
彼だったらずっとそばにいてくれるのに!
邪魔な人達だって
みんな殺してくれたんじゃない!!
私のために!
私のために!!彼は‥彼は‥ジョザイアは‥
ありとあらゆる手を尽くしてくれた。
私の心は真っ黒い液体の中に浸かっていくように
溶けていくように
穏やかな喜びと後悔に満ちていた。
「ごめんなさいジョザイア‥
貴方の愛に気づけなくて‥
ずっと頑張ってくれてたのに‥
ずっと愛してくれてたのに‥」
それを聞くと彼の顔がぱぁっと明るくなる。
ニコニコとした可愛らしい笑顔。
「わかってくれて嬉しいよ‥アイリーン‥
アイリーンも‥僕のこと愛してくれてる?」
「ええ!もちろん。」
「じゃあ‥出来るよね。」
ジョザイアは美しい銀色の瞳を細めて笑う。
その笑顔は、子供の頃と変わらない。
私は彼に微笑み返す。愛おしい彼に。
きっと私はこれをずっと望んでたのよ‥
あぁ、随分遠回りしてしまったけど‥
もう大丈夫‥
私は目が醒めたの。
そうよ、目が醒めた。
私は
グレンの体に突きつけたナイフに力を入れた。
「おい‥!やめろ‥!!やめてくれ!!
アイリーン‥!!アイ‥」
‥‥
「さようならグレン。
『私は貴方を愛してた‥でも、今は違う。』わ。」
グシャッ‥
グレンの喉から血が吹き出す。
生暖かい血がナイフを伝い、私の腕を伝う。
「‥‥ふふっ」
凄く愉快な気分だった。
ずっと曇っていた空が晴れたような、
爽快な気分。
「‥ふふっ
うふふ!あははは!!
やった!やったわ!!!
ジョザイア‥
私にはもう‥貴方だけ‥」
私はグレンの元から離れ、ジョザイアに抱きつく。
二度と離さないように。力強く縋り付くように、
ボロボロ流れる涙が彼の服に沁みていく。
「うん‥アイリーン.よく頑張ったね。
偉いよ。凄く嬉しいよ‥僕、すっごく幸せ‥」
ジョザイアは満足そうに笑い、
私を抱きしめる。
それが凄く嬉しかった。
ずっと、ずっと、彼の笑顔がみたい。
彼から二度と離れたくない。
私には彼しかいないんだから‥
「ジョザイア‥ジョザイア‥‥
貴方だけは‥どこにも行かないで‥
ずっと‥私のそばにいてね‥ずっと‥。」
「もちろん‥離れたりしないよ。
アイリーンが離してっ泣き叫んでも
絶っ対、絶対、離さない。
ずっーと、永遠に
僕の腕の中で、大切にしてあげるからね。
愛してるよ、僕のアイリーン‥」
「ええ‥私も愛してるわ‥
ジョザイア‥」
暫くの間、私達は血まみれのまま抱き合っていた。
とても、暖かくて、幸せだった。
そして、この幸せは永遠に続くの。
永遠に‥
10
お気に入りに追加
620
あなたにおすすめの小説


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる