My Dr -貴女は僕の全てになった、だから貴女から僕以外の全てを奪おう

創作屋 鬼聴

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10章

3.死のギフト《グレン目線》

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俺は彼女が去った日の夜、
夢を見た。

夢の中で俺は旧式のエレベーターに乗って
下る‥下る‥下る‥永遠と。

エレベーターから見える廊下に
彼女が立っている。


何度もどの階にも彼女がいる。
悲しそうな眼をしてこちらを見ている。
あの時みたいに。


最下層に着くと一つの椅子と



首を吊るための縄がある。



椅子の上に二つの婚約指輪があって‥

俺はそれを無視し、
縄を首にかけ、椅子を蹴った。


そこで眼が覚めて飛び起きる。
ベットは
冷や汗でびっしょりと濡れている。


「はぁ‥あぁ‥」


フラフラと台所に向かって、コーヒーを淹れ、
グイッと飲み干す。

‥彼女の最後に言った
言葉が忘れられなかった。



『グレン‥
貴方が信じてくれなくても‥
私のこと愛してくれなくなっても‥

私は‥貴方の事、愛してるわ‥

今も、これからも‥

ずっと‥‥

‥さよなら‥』


涙を堪えながら、酷く悲しそうに
微笑んだ彼女の顔が頭から離れない。

俺は‥正しかったのだろうか‥


そう思って俺はあの後、彼女を追った。
雨の降る道を走って‥


けれど、彼女はもういなくて、


黒い車が走り去って行ったのだけが見えた。



冷たい雨が身を濡らし
空虚な想いと不安だけが、
俺に残った。


「アイリーン‥」


話くらい聞いてあげればよかった‥
彼女がせっかく戻ったのだから‥
涙を流して、抱きしめればよかった。

例え、彼女が殺人犯でも、
ジョザイア・マクベインの恋人だったとしても。

そして、
彼女はまた‥何処かへ消えてしまった‥


「…いや‥彼女に消えろと言ったのは俺か‥」



深く溜息をつくと、立ち上がり俺は新聞を取りに
自宅前の郵便受けに向かう。

なにか、彼女のことが載っていてほしい。
逮捕されたという記事でもいい‥。

俺はそれを見て、
彼女を嘲ることができたらいい
それができたらどれだけ楽なんだろう‥


そう思って、新聞を取ろうとすると
郵便受けの中になにかが入っているのを見つけた。



「黒い紙袋‥?」


それは随分と重く、変な匂いがした。
袋の表面には"グレンくんへ"とだけ‥


とにかく、それと新聞を、手に部屋に戻る。
濡れた芝生から水滴が跳ねて足元を濡らす。

俺はリビングのテーブルにそれを置いて、
ゆっくりと
その黒い紙袋を開封した。


「ッッッ‥!!!?」


袋の中身は眼を覆いたくなるような、
見ただけで吐き気をもよおす様なものだった。


血にまみれ、切り取られた女性の‥赤黒い‥


黒く変色した血にデロリとしたそれを見た途端、

気持ちの悪い汗がブワッと吹き出し
胃の内容物がせりあがるのを感じた。


「誰が一体‥っこんな‥」


胸を押さえ、吐き気をなんとか納める。
息はまだ荒く、喉がヒューヒューと音を立てる。


送り主は誰だ‥?

何の為に‥?!


たが‥


一番の問題はこれが"誰"かということだ‥


「…考えたくない‥考えたくない‥!
考えたくない!!」


嫌な想像が頭によぎる。

服を無理矢理に剥がされ、
犯されて、ナイフを向けられる彼女‥

アイリーン‥アイリーン‥アイリーン‥
違うはずだ‥違うはずだ‥

ジョザイアと彼女は共犯者なんだから‥
あの二人は恋人だったはずだ‥
‥いや‥共犯者だったから‥彼女は‥


「まて‥落ち着け‥彼女と決まった訳ではない‥!
そうだろ‥!!?」

頭を抑えて、
黒い紙袋の周りをグルグルと
気が狂った様に回りながら俺は叫ぶ。


「ああ‥そうだ‥警察に届ければ‥
血液でわかるかもしれない‥」


でも‥もし‥本当に彼女だったら‥??

俺は‥耐えられるだろうか‥

彼女は助けを求めたのに‥俺は聞かなかった‥
俺のせいじゃないのか‥?

俺があの時‥
彼女を護ってやれたんじゃないのか‥?


「ああ‥ああああ!!考えるな‥!考えるな‥!!
これは‥アイリーンじゃない‥!!
そのはずだ‥そのはずだ‥きっと‥」



袋をリビングに置き去りにして、
俺は逃げるように寝室に戻った。

ドアを叩きつける様に閉め
頭を抱え、ベットに潜る。



「彼女はジョザイアの所で幸せにしてるさ‥
アイリーンは、殺人犯で
ジョザイアの恋人じゃないか‥」


ブツブツと呟きながら俺は自分に暗示をかける。
この肉塊はアイリーンではないと。


警察に届けることすらできずに
ただ‥目を背けた。


俺は怖かったんだ‥
‥彼女が死んだなんて考えたくなかった。




そして、次の日‥郵便受けに絶望が届いた。



それは、婚約指輪をした女の指だった。





俺が彼女に贈ったもの。
あれは‥彼女が持っていった‥

俺は指を両手で抱えたまま、
膝から崩れ落ちた。


「俺があの時‥受け入れていれば‥
こうはならなかった‥のか‥?

消えてくれなんて‥言わなければ‥」


例え‥彼女が殺人犯だったとしても、
俺を裏切ったとしても‥

こんなのはあんまりだ‥


彼女に消えろと願った自分が
殺したいほどに憎い‥



けれど、俺はそんなに強い人間では無かった。
膝をついて、床を見ながらブツブツと呟く。


「でも、仕方がなかっただろ?
あの状況じゃ‥‥助けられる訳ないじゃないか‥」


俺のせいじゃない。


「俺は裏切られたし‥婚約だって破棄された‥

しかも、彼女は殺人犯で‥警察から逃げてた。

助ける方がどうかしてる‥そうだろ‥?」


彼女が死んだのは‥
俺のせいじゃない。


言い訳がましく、俺は自分に言い聞かせる。



何度も‥何度も‥
最期に見た、彼女の悲しそうな笑顔が
目に浮かんで消えていく。


目が熱い。


もし、夢の中のように
あのロープで首を吊り、彼女に逢えたなら‥


彼女は俺に何を言うのだろうか‥。
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