転校してきた七不思議。〈ヤンデレ恋愛怪異奇譚 〉

創作屋 鬼聴

文字の大きさ
上 下
9 / 34
転校生

あんな奴より 

しおりを挟む


「…美味しかった。」


何事もなく昼食を食べ終わり、
私の警戒心は肩透かしを食らっていた。

具合が悪くなったりもしない。
ちょっと生臭いような…?
不思議な味のものもあった気がしたけど…

免色くんのお弁当に変なものは
入っていなかった…と思う。たぶん。

私は空になった弁当箱を
見ながら心底ホッとした。

免色くんはというと
食べ初めから食べ終わりまで、
自分の昼食も摂らずに私を眺め続けていた。

「えへへ…
美味しく食べてもらえてよかったぁ…!

明日も明後日も毎日、ずっーと、
ご飯作ってあげるね!!」

その発言に私は冷や汗をかく。

「えっ!?や…えっと…

いいよ!!?そんな事しないで…
その…申し訳ないし!!」


申し訳ないっていうか…
こんなハラハラする食事は嫌だし…
それって毎日、免色くんとご飯食べなきゃいけなくなるよね?

それはもっと嫌だ…。
そんな意図も全く解さずに免色くんは

「えー…そう?遠慮しなくて良いのに❤︎」

とニコニコ私を見つめていた。


そして放課後、

免色くんの
「今日は一緒に帰ってくれるよね?」の
一言で私は仕方なく彼と下校する事になった。

下校中、
彼は私の鞄と体操着袋を持ってくれる。

…いや。
どちらかというと奪われたって感じだ。
そのおかげで私は彼を置いて走って逃げると
言う手段を塞がれてしまったんだから。

緊張の走る帰り道、
不運なことにポツポツと雨が降り出して
私達は田舎特有の小さな小屋のような
バス停に雨宿りする羽目になった。

小屋の中には二人しかいない。

私は己の不運に溜息を吐きながら
永遠に続きそうな広い田園に
雨が降り注ぐのを眺めていた。

しかし一息つけたのは一瞬だけ。
免色くんは通学鞄をベンチに置くと
ぴったり体を寄せる様に隣に座ってきて
ニコニコ笑う。


「ねぇねぇ、今日でさぁ…
祈よりも僕が良いってわかってくれた?」


「え?…なに?」


あれ?他学年なのに祈先輩のこと知ってるんだ…?ていうか僕の方が良いって…何??

「マコちゃんは…その…
僕が暗くて気持ち悪くて鈍臭い奴だから
昨日は一緒に帰ってくれなかったんでしょ…?

でもさ、祈なんかより
僕はずっと君の役に立てるし、
少なくともアイツより良い人だよ?

君の荷物も全部持つし、お弁当も作ってあげるし、他にも何でもしてあげる。

本当に何でもだよ、なんでも。」


「えっ?ちょっと…な…なんの話??」


私の困惑も意に返さず。
免色くんは喋り続ける。

「祈は僕と違って料理とか下手っぴだよ?
運動だって僕よりは出来ないし
頭だって悪い。保健室の鍵も壊すし…
野球で旧校舎の窓も割ったのに逃げた。

しかも人の嫌な記憶を引っ掻き回して
晒し者にする様な最低の奴なんだよ?

人の死を何とも思わない、クソみたいに
無神経で嫌な奴なんだよ。マコちゃんだってアイツに迷惑してたよね?
マコちゃんだってアイツのこと嫌いだよね?それに…」

免色くんは捲し立てる様な早口で
先輩の悪いところをどんどん羅列していく。
本当かどうかわからないけど物凄い量。

「え、あの…免色くん…?」

私の戸惑いを無視して 
免色くんの祈先輩に対する悪態は
徐々に熱と声量を増していく。

「そもそもなんであんな奴がマコちゃんのそばにいるんだよ!!?居ていいわけないだろ!!?吊り合ってない!!
しかもアイツ絶対マコちゃんの事変な目で見てるよ?!!マコちゃんは親友なのに…!!」.

「あの…免色くん…??落ち着いて…」


彼は私の静止を聞かず、
ついにそれは大声での罵倒に変わった。

「あんなクソみたいな男が
君と一緒にいるなんておかしい!!!
おかしいよ…!!!絶対にダメだ!!!
祈なんかと居たらマコちゃんが穢れちゃう!!

そうだ!!
あんなやつ死ねばいいんだ!!!
死ねばいいんだ…!!!

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!

マコちゃんだってそう思うよね!!?

ねぇ!!!」


彼は立ち上がって
私の肩を強く掴みそう叫んだ。

「…」

私は顔を引き攣らせて黙っていた。
いや、言葉を失っていたと言う方が正しい。

彼は黙ったままの私の手を取る。
その手は汗と雨に濡れていて力強い。


「だからね!!
あんな奴と一緒にいちゃダメだよ…?!!

君にとって良くないんだ!!

アイツと!!もう二度と!!
関わらないで!!!!!」

「……ぇ、」

…何言ってるんだろう、この人。
私達…そんな仲じゃないよね…??

しかも突然、大声で怒鳴って…
私の友達をあんな風に言って…なんなの??

…怖い。

「アイツと関わらないでさ!!
今日からは毎日、僕と帰ろ…?!!

学校にいる間だけじゃ足りない…
もっともっと…僕らは二人で居るべきだよ!!

だから他の奴とも一言も話したりしないで!
祈とも誰とも!!

仲良くして!!」


「……えっ…」


私は返答に困った。
そんなの了承するわけないでしょ…

彼の真っ黒い瞳が髪の隙間から
真っ直ぐにこちらを見ている。
その瞳と瞳の間を縫う様に、額の傷から
血が流れ鼻筋を避けて顎から滴り落ちた。

…この人が怖い…気持ちが悪い…。
変な汗が肌に纏わりついてシャツを濡らす。

「えっと…その…」

私はもう彼と一緒にいるのが苦痛で
自分の鞄を取って立ち上がった。

「もう…私、行くから!
雨もおさまってきたし、じゃあ!!」

そう一方的に告げて
逃げる様に土砂降りの雨の中へと走り出す。

「マコちゃん?!待ってよ!待って!」

背後から聞こえる声を無視して
水溜りに足を突っ込みながらも走り続けた。

外の雨はさっきよりも
ずっとずっと強くなっていて
大きな雨粒が身体に当たっては弾ける。


身体をびしょ濡れにしながら家路を急いだ。






しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【ヤンデレ蛇神様に溺愛された貴方は そのまま囲われてしまいました】

一ノ瀬 瞬
恋愛
貴方が小さな頃から毎日通う神社の社には 陽の光に照らされて綺麗に輝く美しい鱗と髪を持つ それはそれはとても美しい神様がおりました これはそんな神様と 貴方のお話ー…

【ヤンデレ付喪神様を大切にした貴方、どうやら今夜神隠しされるそうです。】

一ノ瀬 瞬
恋愛
貴方が自室で眠っていた、ある夜のこと 大きな物音で目を覚ました するとそこには……、

【ヤンデレお狐様は 貴方の親だと洗脳し続け 永遠に可愛がるようです】

一ノ瀬 瞬
恋愛
立派な社のある神社、そこにはとても優しいお狐様がおりました。 お狐様には、何よりも大事で大切な貴方(娘or息子)がおりましたが…… これは、そんな人間の貴方と 血のつながらないお狐様のお話し

【フリー台本】一人向け(ヤンデレもあるよ)

しゃどやま
恋愛
一人で読み上げることを想定した台本集です。五分以下のものが大半になっております。シチュエーションボイス/シチュボとして、声劇や朗読にお使いください。 別名義しゃってんで投稿していた声劇アプリ(ボイコネ!)が終了したので、お気に入りの台本や未発表台本を投稿させていただきます。どこかに「作・しゃどやま」と記載の上、個人・商用、収益化、ご自由にお使いください。朗読、声劇、動画などにご利用して頂いた場合は感想などからURLを教えていただければ嬉しいのでこっそり見に行きます。※転載(本文をコピーして貼ること)はご遠慮ください。

【ヤンデレ八尺様に心底惚れ込まれた貴方は、どうやら逃げ道がないようです】

一ノ瀬 瞬
恋愛
それは夜遅く…あたりの街灯がパチパチと 不気味な音を立て恐怖を煽る時間 貴方は恐怖心を抑え帰路につこうとするが…?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ彼氏の扱い方

小梅
恋愛
ヤンデレ彼氏高橋くんと男前彼女真木さんの話。

処理中です...