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大鏡のメンシキくん

「たすけて」 祈目線 

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免色が居なくなって
1週間が経った頃の放課後。俺は3-Dの教室で数学の補修プリントを解いていた。

あれ以来、泉と一緒に帰るように
していたのにお陰で今日は居残りだ。

外はもう真っ暗で下校時刻も
とっくに過ぎている。学校には静けさのみが漂い、その様子に溜息がでる。

そんな俺を
ゴリ先が仁王立ちで見守っていた。

「おい!飯島。いい加減終わったのか?
先生もそろそろ帰んないと
娘に怒られちまうんだが…」

ゴリ先が腕を組みながら眉を顰めた。

「あーごめんゴリ先、今終わった。
確認してよ!」


俺はホッチキスで止められた
分厚い補修プリントの束をゴリ先に渡した。
ゴリ先がゴツい指でパラパラと
プリントの中身を確認する。

その間、俺は窓に寄りかかって
旧校舎の方を眺めていた。夜の旧校舎は深い闇の中静かに佇んでいる。

霊感の無い俺にだって今ならわかる、
あの場所は早く取り壊すべきだって。


あそこには
あんな化け物が居るんだから…


俺が旧校舎を睨みつけていると
ゴリ先が口を開く。

「そういえば、飯島。
聞いたか?旧校舎の鏡の話。」

その話題にギクリと身体が硬直する。

「え?!あぁ…確か、誰かが割ったとか
なんとか…そんな話でしたっけ??」


俺はなんとか笑顔を作ってごまかす。
なんだ?割ったのがバレたのか??
やっべー…叱られたくねぇなー…

そんなことを思った矢先、俺は
ゴリ先の口から信じたくない事実を知る。


「そうなんだよ!!

まったく!
あの鏡を割る奴が出るとはなぁ!!
なんでなんだか…」
 

…は?????


「え、ゴリ先今、「また」って言った?」


ゴリ先は顎の髭を弄りながら首を傾げる。

「ん?ああ。あの西階段の鏡、
よく割られんだよ。俺が勤務してる8年で、えー
…4.5回は割られてるな…」

「え、じ、じゃあ!割られた後は??
直されてるのか!?」

「おぅ、いっつも
気がついたら直されてんだよ。
今回も今日の昼ごろには直ってたぞ?

元の鏡と全く同じ、
"八咫神学園創立50周年記念贈答品"って
彫られてる汚い鏡にな。

そのせいで、壊しても直る
お化け鏡だとかくだらん噂があんのよ。」

俺の気も知らず先生は
溜息をつきながら呑気に白髪混じりの頭をバリバリ掻く。

「ま、教頭あたりが
スペアでも出してだろうけどな」

スペアな訳ないだろ…
全く同じ汚れ方の贈答品の
スペアなんかあるかよ??

あの鏡が…直ったに決まってる…


「旧校舎なんて使ってねぇから
そのままでもいいのにな。
じゃ、飯島。気をつけて帰れよ。」


ゴリ先はプリントの束をパシンと叩いて
教室から出ていった。

"以前にも鏡は割られた"…。

という事は、鏡が割られても…
アイツは…また…


「泉…!!
早く泉のところに行かないと!!」


俺は弾かれたように机から立ち上がり
教室のドアへと走り出す。

その瞬間、
携帯の無機質な着信音が教室に響いた。
電話だ…俺はすぐに学ランのポケットからスマホを取り出した。

画面には"泉 マコ"の文字。

まるで示し合わせた様なタイミングだ。
いつもメッセージアプリで連絡
してたのに…電話…??

不穏に思いながらも俺は電話に出た。


「祈先輩…!…
せんぱい…助けて…助けてください…!」


泉の声だ。けれど雑音がひどく
いまいち何を言っているのかわからないが彼女に何かあったのは間違いない。

「は!?泉??なんだ?どうした?」

「私…きゅ…」

そこで泉の声は聞こえなくなった。
冷や汗が身体中から
ブワッと流れ出るのを感じる。

「泉?!泉?!おい!?返事してくれ!!」

俺は焦って大声で呼びかける。
しかし、電話が切れた理由はすぐにわかった。

「先輩ー!!」

走ってくる足音と共に廊下からの声がした。

教室から廊下を覗くと
白いリボンとポニーテールを揺らして走る
泉の姿があった。


「はぁ…先輩!…大変なんです…
免色くんが…また私に…」

走ってきた泉は息を切らし手を膝につく。 
俺は慌てて彼女の安否を確認する。
怪我もないし、どうやら無事そうだ。

「よかった…!!泉…大丈夫だったか?」

俺は彼女の肩を持つ。
泉は息を切らしたまま話を続ける。

「ええ、なんとか…
今日…帰ろうとしたら襲われて…」

…嫌な予感は的中していた。
俺は片手でガリガリと頭を引っ掻く。

「…そうか……畜生…
鏡を割ったのは無駄だったのか…??」

あの大鏡は確かに割った。
確かにこの手でバラバラに
砕いたはずなのに…直るなんて…。


「…畜生…なんで…」


俺は頭を抱える。
…何か、対処を間違えたのか…?
アイツの本体は鏡じゃ無いのか…??

でも、鏡が直ったのは今日の昼…
それまでの1週間…あいつは出なかった…
つまり多少の効果はあったんだ…。

対処をすべきは
あの鏡であってると思うんだが…


「…このままじゃ…泉が…」


無い知恵を死ぬ程絞って考える。

「鏡…鏡であってるはずだ…
本体はアレで合ってる…はず。

なんだ…??何を間違えた??
間違えたとしたら…何が…」

頭を引っ掻き回して知恵を絞る…。
そんな俺を、泉が不安そうに見ている。

俺は学年テストで下から2番目だぞ!?
この頭でなんとかなるのか?!
いや、なんとかしなければ!!

なにか…手がかりは?思い出せ…思い出せ…

「免色の噂…。旧校舎…2階の大鏡…
9時48分…」

俺がそう呟くと泉が声を上げる。

「…あっ!!きっとそれですよ!!」


「それ…?ってなんだよ?」


俺が尋ねると泉はスラスラと答える。

「時間です!時間!!

あの怪談って何故か時間が決められているじゃないですか!前に殺されかけた時も
…たぶんそのくらいの時間だった気が…」


…一理ある。


「…確かに…俺たちが
あいつにプールで襲われたのも
その時間帯だった!

昼間、俺には免色が見えなかったのに
あの時は見えてたし…

免色が誰かを殺そうとするのは
いつもその時間帯だけ…?」

確かに不自然だ。

「『9時48分』は特別な時間帯なのか…??
その時間なら…??」

被せる様に泉が声を上げる。

「きっとあのを塞げますよ!

もう一度、鏡を割りに行きましょう!
時間がありません!先輩!早く!!」

泉が俺の手首を掴んで引っ張る。
さっきのはあくまで憶測に過ぎないが
やる価値があるかもしれない。

どちらにせよ、
一刻も早く手を打たないと泉の身が危ない。

ダメ元でもいい…
何もしないよりずっとマシだ。


「ああ!
もう一度アイツをかち割ってやる。」


俺の言葉を聞いて泉はニッコリ笑った。



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