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大鏡のメンシキくん

朝 

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免色くんは散々身体を弄んだ後、
隣に横たわって私の頭を撫でていた。
私は襲われたショックと疲労で
全く身体を動かせない…

彼はニコニコ満足そうに笑って、
時々私の眼から流れる涙を優しく舐めとる。

「…マコちゃん…た…楽しかったね…
ど…どう?僕…上手に出来たよね?

初めてしたけど…ちゃんとマコちゃんの為に勉強してたんだよ…!

ふふふっ…こうしてるとさ…
ぼ…僕ら余計に恋人みたい…
でもまぁ、僕らって特別な関係だし…仲良しだし…実際恋人だよね…こんなの…」

放心状態の私の横で
免色くんは顔を赤らめながら
一人でブツブツ言っている。

「あぁでも…ちゃんとした告白…まだだよね…

あっちに行ったら、ちゃんと告白するね!
責任はとるから…心配しないで。

って…あ…!時間が…。
そろそろ一緒に行こうか…」


行こうってどこに…??
もう嫌だ…もう…消えて無くなりたい…
なんで私こんな目に遭ってるんだろう…

付き纏われて、プールに沈められて、
レイプされて…

またボロボロと涙が流れる、
それはまた彼の舌に舐めとられる。
柔らかく濡れた感触が気持ち悪くてしょうがない…

「泣かないで?怖くないよー?
苦しいのは一瞬!…さぁ一緒に行こ…?」

免色くんは私に跨り首に手を伸ばした。
脂汗が額を濡らし
背中から冷水をかけられた様な悪寒が走る。

嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!

…殺される!!殺される!

「あ…ぁ…っ!いゃ…!!」

逃れたいのに身体が動かない…
免色くんの冷たくじっとりした手が
私の首を包み込む。

「免色…くん…!!っやめて…!」

私の言葉など気にせず彼はジリジリと
手に力をこめて首を絞めていく。

「大丈夫だよー。マコちゃん。
怖くない、怖くない!力抜いてね」


「ぁっ…ぐ…」


意識が遠のく。苦しい…
酸素が脳に届かなくなっていくのを感じる。

「ふふふっこれから
マコちゃんとずっと一緒…!
嬉しいなぁ…

えっと…あと3分かなー
ちょうど良さそう…」

あと3分??なんの話??

苦しさのあまり口を魚の様に
パクパクさせながら目を見開く。

苦しい…苦しい…
もうだめ…私死ぬんだ…殺されるんだ…

免色くんはご機嫌そうに首を絞め続ける
その力は骨が折れそうなくらい強い。


「ぁ…」


次第に視界が暗くなる。
あぁ…ついに逃げられなかった…
そう思った。

けれど、その時パリンッッッ!!っと
ガラスが割れるような大きな音が脳に響く。

そして、すぐに免色くんの怒号が聞こえる。
頭がぼんやりして
何を言っているのかはわからない。

「??…?っ」

何が起こったかも全く分からなかった。
けれど、首を締め付ける手の感触が
突然パッと消えて私はそのまま気を失った。



そして翌朝、
私は何故か生きていた。

気がついた時、私は自室ベットの上で裸のまま涙を流してうずくまっていたのだ。

むくりと体を起こすと全身が痛い。
強く掴まれた首も腰も…膣も…もう全て…。

下腹部に…あの感覚が…ドロリとした体液が…
残っていて、凄く気持ちが悪い…

けど…生きているってことは…助かったの…?
一瞬だけそう思った…しかし、そんな小さな希望はすぐに打ち砕かれる。

真っ赤な目を擦って、自分の腕を見ると
真っ赤に滲んだ歯型が付いていた。
それも一つじゃない、ものすごい量だ。

「ぇっ…?!ぇ…」

歯型に歯型が隙間なく重なり
肌の上で真っ赤に腫れ上がっている。
私はすぐに毛布を捲って
伏せてあった手鏡で全身を見た。


「…」


歯型は腕だけでなく胸やお腹、太腿、
首の、顔以外全てを覆っていた。
服だけで隠せるような量じゃない。

全身がミミズの大群に覆われているみたいに真っ赤に腫れた噛み跡だらけだった。

噛み跡の一つ一つが、コレは自分の物だと、
諦めはしないと執念深く誇示している。
私は絶望感のあまりその場でへたり込んだ。

「…あぁ…やっぱり…ダメなのかな…
もう…嫌…もう嫌だよ…

…私…私…彼に殺されたら…
死んだ後も…また…あんな風に…」

昨日の光景が目に浮かぶ
無理矢理私を組み敷き楽しそうに笑う彼。
泣き叫んでも誰も助けてくれない。

きっとまだ彼は私を…そう思いながら
毛布を手繰り寄せて被り、泣いていると
ママの脳天気な声がする。


「マコー?まだいるの?もう遅刻よー?」


ママが部屋のドアに手をかける気配がして
私はそれを止めた。


「嫌!ドア開けないで…!!
…今日は学校行かない!!行かないから!」


こんな姿をママに見られるわけにいかない。

「そんなこと言ったって
祈くんが来てるし、行きなさいよー」


「えっ?」


階段をドタドタ上がってくる音がして部屋のドアが開いた。

「泉!?なんで学校来てないんだよ!?
大丈夫か?何かあったのか??」

「先輩…!」

先輩の顔を見て、気が抜けたのか
ボロボロと涙が溢れ始めた。

「…ぁ…うぅ…先輩~…遅い…遅いですよぉ…!!…昨日…きのぅっ…」

大声で泣き出す私に先輩は
オロオロと近づくと首元から見える噛み跡に目をやる。

「…っな!!コレどうした??
怪我でもさせられたのか?!!
ちょっと見せてくれ!」

祈先輩は私の首の噛み跡に気がつくと急いで身体を包んでいた毛布を引き剥がしてきた。

「あっまって!!…やっ」

私の身体を見た瞬間、先輩は凍りつく。
 
顔は青ざめ、彼らしからぬ
怒りとも悲しみともとれる
複雑な表情になっていた。


「…なにされたんだ…?…

…あ、いや、言わなくて良い…
大丈夫か…?痛くないか…?ごめん…っ勝手に…」

祈先輩はすぐに目を伏せ、
私に毛布を巻き直してくれた。


「痛い…です…凄く、凄く怖かった…」


私は耐えられなくなって、
先輩のシャツを掴んで彼の胸で泣いた。

「泉…」

先輩は驚きながらも
何も言わず私の背をさすってくれた。
私が泣き止むまでずっと背をさすって
頭を撫で、優しく抱き抱えていてくれていた。

私が落ち着いてくると先輩は口を開く。


「泉…ごめん…
俺が遅かったから…こんな事に。」


先輩は頭を抱えた。けれど、その次に出た言葉は予想だにしないものだった。

「でも、もう大丈夫だ…。
アイツはもう泉に近づけない。」


「え…?」


驚いて顔を上げると

先輩は悲しそうに眉を寄せながら
私に笑いかけた。そして先輩は言う。

「昨日の夜、あの鏡を割ったんだ。」

その言葉に私は目を見開く。


「え!!?そんなことしても
免色くんを怒らせるだけじゃ??!
…先輩まで…酷い目に…」


私が焦って先輩のシャツにしがみつくと
祈先輩はその手を握る。


「落ち着け泉、
俺も考えなしに割ったんじゃない。
免色は鏡を介して移動する怪異らしくてな。

それなら出口である鏡を割っちまえば
こっちには来れないはずだろ」

……筋は通ってるし… 

私も今日、まだ生きている…。
連れ去られてもいない。

それに確か昨日
彼が消えた時に何かが割れる音がした。
あれはきっと鏡の割れた音だ。

もしかして…本当に助かった…??

でも…私の胸の内は助かった喜びよりも、
与えられた苦痛の方が大きかった。

身体中の噛み跡も、
激しく擦られた膣もズキズキ痛んで、
その度に心が抉られる。

そんな私の表情を見てか、
先輩は優しく私を抱き寄せて頭を撫でた。

「あっ…」

先輩の胸に抱き寄せられると
祈先輩の匂いがした。柔軟剤みたいな、
お日様みたいな…凄く安心できる匂い。


「だから…もう大丈夫だ。
もう大丈夫。

ごめん…泉。
痛かったよな…怖かったよな…
俺のせいで…こんな…本当に…ごめん…」


先輩は私の頭と背を撫でながら
ボロボロ泣き始めた。
必死で泣いているのを隠そうとしているけど
鼻を啜るのが聞こえる。
肩に暖かい涙が落ちてくる。

「泉…ごめんな…ごめん…」

私は先輩の背中に手を伸ばして
キュッと先輩を抱きしめ返した。


「…祈先輩…。確かに始まりは
祈先輩のせいかも知れないけど…。

けど…

祈先輩は2回も
私を助けてくれたじゃないですか…

だから…謝らないでください。
先輩にまた助けてもらえて
私、凄く嬉しかったんですから。」


そしてこの日以降、本当に
免色くんは私の前に現れなくなった。

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